第19話 決死行①
《西園寺伊鈴視点》
私は、お父様と共にダンジョンの方に車を走らせております。お父様の顔は焦燥に駆られており、足は激しく貧乏揺すりをしていらっしゃいました。
赤信号に引っかかる度にお父様は小さく舌打ちをしていらっしゃいます。かという私も、先ほどからそわそわとして落ち着きがありません。
「くそっ……」
「お父様……」
お父様は苛ただしげに前を見ております。お父様が焦るその理由、それは小嵐さんの存在でした。先ほどの片岡さんの会話……あまりにも私達に都合の良い会話で違和感を覚えたお父様は、私にダンジョンで起こったことの詳細を聞くと血相を変えて飛び出していきました。
「まさかとは思うが、小嵐君を一人でダンジョンに潜らせたんじゃないだろうな……?」
「警察が嘘をおっしゃったというのですか?まさか」
「だから、まさかとは思っている。しかし彼は一言も『ダンジョン内の警察の様子』について言及していない」
嘘は言ってないが、何か隠している……そうお父様は吐き捨てるように言った。確かに、片岡さんの会話を聞いてる限り『小嵐さんの様子』や『ダンジョン内の様子』の話題は出ていても、『警察の様子』については一切語っていなかった。
普通、警察は警察同士で通信をする。それはダンジョン内という道の場所であるならば、さらに連携を密にするために細かな連絡は取っているはずなのですが……
「それに、おかしいとは思わないか伊鈴?『私と長時間電話をできる余裕がある』なんて」
「っ!?」
私は愕然とした。連携を密に取っているとするなら、いつ通信が入るか分からない。お父様の電話をとるどころか、ましてや長時間話す暇など無いはずです。
「私も小嵐君の心配が勝ってしまって、こういう当たり前の事に気付かず現場責任者である片岡警部に電話をしてしまったが……」
「本来なら、お父様から電話を切るような程に時間をかける暇は無い!?」
ああ、少なくとも連携を密に取れてないことは確定だろうがな……と近付いてくるダンジョンと、入口の手前に貼られたKEEPOUTのテープ。私達は車から降り、民間人が入れないように立っていた警察官のもとへ近付く。
「ここから先は立ち入り禁止です」
「西園寺グループ社長、西園寺創だ。中にいる小嵐君が心配で現場まで来た、入れてくれ」
「さ、西園寺グループの……!?う、上を呼んで参りますので少しお待ちください!」
西園寺の名前を出すと、慌てて上に確認すると何処かへ引っ込む警察の人。しばらくすると、その警察は片岡さんを連れて戻ってきた。
「おやおや、西園寺グループの社長様がこんなところまでご足労を……小嵐君の事ですね?近くの店にでも入ってゆっくりと」
「いや、そんなことはいい。それよりも小嵐君が今どうなっているのか聞きたい」
「そりゃもう順調ですよ。死体を見つけて驚きはしましたが、その後は冷静にこちらに戻っている途中です。時期に戻ってくると思いますので、ご安心を」
警察に任せて置いてください、と胸を張って豪語する片岡さん。お父様が片岡さんと会話している間、私はKEEPOUTの線から奥のダンジョンの入口の方を覗いてみたのですが……おかしい。
実際にダンジョンまで来て分かったのですが、入口の近くにいる警察官の数が異様に多い。しかも、ヘルメットを被って防弾ベストまで着た重装備の警察官が暇そうに仲間内と話しているのです。
「片岡さん」
「ん?どうされましたかな?」
私は思わず片岡さんに声をかける。お父様と会話を中断された片岡さんは一瞬だけ不機嫌な顔をされますがすぐに笑顔を張り付けて対応する。……私の嫌いなタイプ。
軽薄で、裏で考えている事を隠しきれない人。それは自分のことを最優先に考えている人に多い傾向です。
「ダンジョンに潜っている警察の方達はあのような方々の装備を着ていらっしゃるのですか?」
「ん?……ええ、最大限のバックアップをと頼まれましたのでね」
「ほう、つまり片岡警部は『人数が余ってしまうほどに』重装備を持たせた警察を連れてきたのですね?」
お父様が片岡さんに詰め寄る。お父様のあの目は少しの嘘も見通そうとする目ですね……あ、片岡さんが目を逸らした。まさか!
「片岡警部、今すぐ小嵐君と通信を取れ。それと、映像を私達もみせてもらう。これはお願いじゃ無い、命令だ」
「い、いくら西園寺グループと言えども、市民が警察の捜査方法に介入するのは度が過ぎています!警察はプロなんですからお任せ下さい!」
「そのプロが何もしていないんじゃ無いかと市民が懐疑的なんだ、ちゃんと捜査をしているのかぐらい見せられるだろう?それに……」
現場責任者である君が
「片岡さん。見せてくれますね?」
「…………」
下を向いて悔しそうな顔をしながらKEEPOUTの線を引き上げる片岡さん。入っても良いと許可を出された私達は、すぐさまダンジョン入口へと近付いていった。
そこで見た物は、最大限バックアップという言葉からはあまりにもかけ離れた光景。
何も無い地面にぽつんと置かれたパイプ椅子と長机、そこに置かれた機材はスマホ1台……以上。
しかもスマホの画面に映されているのは小嵐さんの映像でも何でも無く、ゲームの実況動画。私達に気がついていない周りの警察官達も、暇を潰すかのようにワイワイと雑談で盛り上がっていました。私はお父様と一緒に付いてきた片岡さんに鋭い目を向ける。
「これが、警察の言う、『最大限のバックアップ』ですか?」
「いや……これは……」
「これは?何だね片岡警部?」
まごつく片岡さんに睨みを利かせるお父様。あまりにもやる気が無いその光景に私は怒りで我を忘れそうになる……!
「あなたはっ!人の命をなんだと思ってるのですか!?」
「はぁ……お言葉ですが、我々も子どもの戯言を真剣に聞く暇などないのですよ」
「ざ、戯言!?」
「そう。警察はやれゴブリンだ瞬間移動だと騒いでいる子どもに付き合っている暇などないのです。死人が出ている以上、目撃者の意見は警察も参考にしますが……」
錯乱している子どもの意見など、なんの参考にもならないのですよ、と言い切った片岡さん。もはや隠す気も無いのか呆れた顔を私に向けていました。そう、警察は最初から私達の言っていたことなど信じていなかったのです。
あまりのことに頭が真っ白になる私の代わりに、お父様が前に出て片岡さんに皮肉げに言葉を投げかける。
「子どもの戯言を聞く暇がないにしては、動画を見る余裕はあるんですな?」
「グッ……我々警察も!あなた様のお願いだから仕方なく応えているんですよ!日が暮れても小嵐が帰ってこなければ我々も撤収することが出来ない!この神隠し事件を解決するために、私はこんなところでジッとしている訳にはいかないんですよ!」
「ならばさっさと小嵐君と通信をとれ。さっきから君の発言と行動には矛盾が多すぎる」
お父様の発言に反論が出来なくなったのか、憎々しげに口を閉じる片岡さん。そして長机に置かれていた動画の再生をストップさせていた画面から小嵐さんの通信画面に移る……と。
『がはっ……!コフッ……』
脇腹に刃物が刺さったまま血反吐を吐いている、小嵐さんがそこには居た。あまりの壮絶な場面に、私達は絶句する。
小嵐さんはボロボロの身体を引きずってよたよたと歩きながら、時々地面に
そして手に持っているだろうスマホを落とし、緩慢な動きで起き上がって拾ってはスマホが壊れていないことにホッとして、またよたよたと歩き始めた。
「小嵐さん!」
「小嵐君!大丈夫か!?返事をしろ!」
「わ、私は知らないぞ……一体、なにが起こって……」
片岡さんが固まっているのを押しのけて、私とお父様は必死に小嵐さんに声をかけるが……聞こえていない!小嵐さんは自身の限界が近付いてきているのを悟ったのか、スマホに語りかけている。
『片岡さん、聞こえて、いたら、お願い……します。僕の、映像を……ッ!がはっ!』
「声を出しちゃダメだ小嵐君!おい!警察は何をやっている!?さっさと小嵐君の救出に向かえ!」
お父様が救急車を呼びつつ警察に怒鳴る。だが、警察官達はオロオロとして動こうとしない……!あなたたちは何処まで無能なのですかっ!?
「速く動きなさい!事態は一分一秒を争うのですよ!?」
「は、入れないんだよダンジョンに!」
「入れない?」
「こんな風にダンジョンの入口は開いているがよく分からない力で弾かれるんだよ!だから我々はあの少年のサポートが出来なかった!仕方なかったんだ!」
そうだ!仕方なかったんだ!と口々に仲間を擁護する警察官達。保身に走り自身を正当化するその姿はもはや憎々しささえ感じる……!
「では、あなたたちは一人で小嵐さんをダンジョン内に行かせ、しかも長時間帰ってこない彼を心配もせず雑談に花を咲かせていたと?恥を知りなさい!それでも警察ですか!?」
「と、年端もいかない娘に何がわかるんだ!これ以上警察を侮辱するなら逮捕するぞ!」
「入れないと分かったときに何故、小嵐君を引き留めなかったんだ?それぐらいはやったんだろうな?やってないとすれば、君たちは全員『保護責任者遺棄罪』に問われるが?」
私に逆ギレしてくる警察達に、お父様が冷静に反論する。グッ……と口を詰まらせる彼らを見て、それすらもやっていなかったことを知り、もはや呆れて声すら出ない。
私は居ても立ってもいられずにダンジョンの内部に入ろうとすると……普通に侵入することが出来た。お父様も続こうとするが、お父様は入口で弾かれる!
「くっ!どうやら警察の言っていることはあながち間違いでは無いらしい……伊鈴、無理だけはするな。危なければ最悪、小嵐君を見捨ててでも帰ってこい」
「嫌です!絶対助けます!すみませんお父様、でも!私も彼には恩があるんです!」
「伊鈴!?ダメだ伊鈴!小嵐君の思いを無駄にするんじゃない!」
私は駆け出しました。伊鈴!伊鈴ー!と後ろからお父様の呼び止める声が聞こえますが、私は振り返ることなくダンジョンの奥へと向かいます。
小嵐さん……生きていて下さい……!
――――――――
【後書き】
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
新年と同時に2作、カクヨムコンに新作を投下しましたので、正月ヒマだなぁ……という方がいらっしゃれば是非どうぞ!
『 』→https://kakuyomu.jp/works/16817330650258892814
『死亡フラグは力でへし折れ!~エロゲの悪役に転生したので、悪役らしくデ バフで無双しようと思います~ 』
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