第14話 作戦②

 すごい頼人さんに睨まれながら会議に参加する僕。怖いから!さっきからお父さん達と真剣に議論しながらこっちガン見してくるんだけど!


「結局海外移住が最も安全であり、仕事や友人関係が問題なだけ……と」

『そうだね、仕事は創さんが用意してくれるのは頼人さんにはありがたいと思う。ただ問題は子ども達の友人関係か……』

「我慢してくれ、と言うのは簡単なんだけどな」


 あ、お父さん達が海外移住の方向で話がまとまってる。まあ仕方ないか、海外は日本より治安が悪いってよく言われてるけど大丈夫かなー?

 僕がまだ見ぬ海外への妄想をしていると、創さんが何かに気がついたように会議室の窓から下を見下ろす……あ、すごい嫌な顔した。


「事情が変わりました。被害者団体がマスコミに触れ回ったようです」

『は?はぁ……思った回答が得られなかったからって行動が早すぎるよ』

「ま、まさか!」

「はい、この本社の外で待ち構えてますよ。記者の軍団が」


 それを聞いて僕たちも釣られて窓の外を見る。ビルの外ではカメラを持ったマスコミ関係者と思われる人が大挙して押し寄せていた。建物の中だというのに彼らが言ってる事が聞こえるレベルで騒いでいる。


「西園寺の令嬢がご友人を殺害したという話は本当ですか!?」

「あの日ダンジョンの中で何が起こったのですか!」

「早く出せえ!」


 は?西園寺さんが殺した……?しかもご友人だと?まさか!思わず西園寺さんの方を見るが、彼女はすぐさま首を横に振る。


「あの場にいた人は全員初対面でした。そもそも私は女学院にいますので、美咲さん以外に女性がいなかったあの集団には友人は存在し得ません」

「うむ、行方不明者リストを警察から見せてもらったが大企業のご子息やパーティーに参加していた方達は居なかった。おそらく被害者団体のでたらめだろうな」

『被害者としての正当な権利と、あわよくば西園寺グループのお近づき。ホント、馬鹿馬鹿しい』

「大人の世界ってのは汚いもんだよ……」


 お父さん達がため息をつく。創さんに至っては当事者としてあきれかえってる始末だ。西園寺グループは大企業、一般家庭には縁が無いのは確かだ……だが、あまりにも金に目が眩みすぎている!子どもの頭でも分かる。


 相手は被害者として損害賠償を貰いつつ、これをネタとして継続的に強請ゆするつもりなのだろう。『友人』という肩書きを使って一度きりの縁にならないように。


「海外に行くまでに時間がかかる。警察も私達の子どもに懐疑的だ……」

『このままだと、指名手配されるのが先か市民による私刑が横行するのかが先かだぞ!?』

「わ、私達家族はどうすれば!?」


 頼人さんが慌ててる。西園寺さん家は大企業だからセキュリティもバッチリだろう、僕たち小嵐家はそもそも両親が海外出張で居ないから子どもだけ匿うなら西園寺さんところがしてくれる流れになっている。


 だが、美咲さん家は違う。頼人さん、その妻、美咲さん……あ、奈々さんの方ね?、そしてその妹さんの4人家族。僕と瑠璃を匿うのとは訳が違う。家も仕事もある普通の家族には、この状況において守るべき物が多すぎた。


「……僕が、ダンジョンに行くと言ったら」

「え?」

『緋色!?』

「おにーちゃん!」

「僕がダンジョンに行くと言ったら、この状況は、打開出来ますか?」


 気付けば僕は、そう声に出していた。そりゃダンジョンは怖いよ、今でも左足を刺された時のゴブリンの醜悪な笑みは夢に見る。でも……でもさ……辛そうな頼人さんの顔や、焦燥に駆られてる創さんを見てると、どうにかしなきゃって気持ちがつい先に出てしまったんだ。


「僕は、西園寺さんがこのまま殺人のレッテルを貼られたままで居て欲しくない。美波さんの家族が安心して過ごせない日が続いて欲しくない。なにより瑠璃に……僕のせいで楽しみにしていた高校生活を我慢させたくない」

『緋色……』

「おにーちゃん……!」


 僕がそういうと、瑠璃が僕に抱きついてきた。泣きじゃくりながら僕に考え直すように言ってくる。


「やだ……やだよぉ。おにーちゃん、行っちゃやだぁ……私、平気だから……おにーちゃんがいたら、高校なんて行かなくて良いからぁ!」

「瑠璃ちゃん……」

『俺も反対だ緋色。息子が死地に行こうとしているのを、お父さんは許可できない』


 お父さんも必死な顔をして僕を止めてくる。だけどそれじゃあ西園寺さんは?美咲さんは?瑠璃は?僕がこの状況を変えられるのかもしれないのだから、僕がやらなくちゃ……


「ごめんね瑠璃……お父さんも。でも、行かないと。僕が動かないと、状況は悪くなる一方なんだ。頼む……行かせてくれ」


 僕は、西園寺さんや美咲さんを見捨てるような『人でなし』にはなりたくないんだ……そう言うと、お父さんも瑠璃もなにも言い返さなかった。創さんも頼人さんも、何も言わない。自分の娘が危険な目に遭わずにこの状況を好転できるんだ、反対は、できない。


「あーしも……あーしも行く!」

「奈々ッ!」

「私も、行きます」

「伊鈴!何を言い出すんだ!?」


 そこに待ったをかけた西園寺さんと美咲さん。彼女たちは僕と一緒にダンジョンに行こうと言い出した。創さんと頼人さんがいきなりの事に驚く。でもそれはダメなんだ西園寺さん、美咲さん!


「僕が、僕が一人で行きます!二人は待っていてください!」

「ダメです!小嵐さんを一人で行かせはしません!」

「ヒイロ一人で行く方が死んじゃうよ!」

「安全には十分注意します!」


 創さんや頼人さんの気持ちが痛いぐらいに分かる。お父さんの僕や瑠璃の事を大切に思う気持ちも……だからこそ、マスコミや市民が僕たちを敵対視している時に男である僕が命を張らないといけない場面だって、思うんだ。


「黒夜さん……」

『創さん、緋色を止めてくれ……』

「すまない黒夜さん。私も、他人の命より伊鈴が大切なんだ」


 苦悶の表情で創さんが僕のお父さんに言う。この場にいて物理的に僕を止められたらどんなに良い事か……っ!と悔しがるお父さん。本当にごめん、でも僕は成し遂げるよ。


「私も、娘を救ってくれた小嵐君には感謝している……だが、私も奈々が大切なんだ。分かってくれ黒夜さん」

「警察に事情を説明する。最大限のバックアップもしてくれともな……後は、緋色君次第だ」

「お父様!」

「おとーさん!」


 彼女たちがお父さん達の判断に異を唱えるが、創さんや頼人さんは意見を変えなかった。僕はもう一度スマホに映し出されたステータスを見返す。


――――――――――――

名前:小嵐緋色


Lv.1

HP:20

MP:6

STR:G4

VIT:G1

DEX:G1

AGI:G6

INT:G1

《スキル》

《称号》

・『オルレウスの資格者』

――――――――――――


 ダンジョンを潜った日から2週間近く、その行動がステータスの若干の変化を及ぼしていた。STRが上がり、AGIも上がっている……今の実力でゴブリンと遭遇しても逃げ切ることぐらいは出来るだろう。いや、そうあって欲しいという僕の願望だね……


「君の勇気に最大限の賛辞を送るよ小嵐緋色君、怖くて逃げ出してもこの場にいる人は誰も責めないというのに。もし伊鈴の容疑が晴れたら西園寺グループの代表としても、一人の父親としても君に多大な恩が出来るだろう。くれぐれも……生きて帰ってきてくれ」


 私を恩も返せないような恩知らずには……させないでくれと僕に向かって頭を下げる創さん。絶対にそんな事はさせませんよ!と気持ちを固めている最中さなか、ビデオ通話越しに僕のお父さんは恨みがましい目を創さんに向けていた。


『西園寺グループの社長は口が上手いなぁ!はっはっは……もし緋色が地上に帰ってこない事があってみろ。私は全てを投げ打ってでも、貴様を殺すぞ西園寺創……っ!』

「私も、行動決定をした責任はとる。あなたの息子を危険な場所に送るんだ、それぐらいの覚悟を持っていますよ、小嵐黒夜さん」


 一人の父親として、ね。そういって僕たちの会議は終わった。僕は今から、一人でダンジョンに潜る。心配そうな顔をしている西園寺さんと美咲さん、そして腰に抱きついてぐずっている瑠璃を順番に見ていって僕は言った。


「じゃあ、行ってくる。ちゃんと、帰ってくるよ」

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