第13話 作戦①

 お父さん、お母さん、お元気ですか?僕は何とか元気です。そういえば、瑠璃の入学式終わったよ。瑠璃の可愛い制服姿を生で見れて、僕はとても嬉しかったです。アメリカでは今、日付が変わったぐらいでしょうか?後でビデオ送るよ。


『ああ、後でお母さんとみるよ』

「めっちゃ可愛かったんだから。もはや今から見ない?こんなでっかいプロジェクターあるんだし」

『それ良いな!』

「おにーちゃん恥ずかしいからやめて!おとーさんも同意しないの!他のご家族さんもいらっしゃるんだよ!?」

『いやー……だって、なぁ?』


 寝ようとしたらいきなり知らない人から電話がかかってきて、出たらあの西園寺グループだなんてお父さん、ビックリして2分ほど固まっちゃったよと笑いながら話す我が父。いや、そんなことどうでも良いから瑠璃の入学式見ない?


「こらそこ!ビデオカメラを勝手にプロジェクターにセッティングしない!」

「だって!」

「だっても何もありません!現実に戻ってきておにーちゃん!」


 はぁ……見たくも無い現実に引き戻してくる瑠璃は悪魔だなぁ、可愛いけど。さて、西園寺グループ本社の会議室に集まった美咲さん一家と西園寺さん一家と向き合う。なんか呆気にとられてるけど……あ、瑠璃の入学式見ます?


「ごほん、あー、その。とても家族思いなご両親だね?」

「すみませんすみません、こんなアホみたいな家族で……」

「はっはっは、このような状況で普段通りの家族団らんが出来ているのは素晴らしいことだと思うよ。さて……」


 まずは突然このような場にお呼び立てしてしまい申し訳ない、と謝罪から始まるダンディーな男の人。スーツをビシッと着て髪をオールバックにしてるその人は、頭を上げると自己紹介を始めた。


「私は西園寺はじめと申します。西園寺グループの社長であり……彼女、西園寺伊鈴の父でございます」


 出来るビジネスマンを彷彿ほうふつとさせるその人は、西園寺さんのお父さんでした。すごいね、覇気を身にまとってると思ってしまう位に存在感が強い。ただ自己紹介をしているだけなのに、場の空気が一気に締まった……僕もビデオカメラ思わずしまっちゃったもん。


「わ、私はこの奈々の父、美咲頼人よりひとと申します。家族もこうやって保護していただき感謝の念が絶えません……」

『私は小嵐黒夜こくよ。今そちらにいる緋色と瑠璃の父でございます。先ほど聞いた現状をかんがみて、少しでも混乱をさせないために妻には同席させない判断をしたこと、お許しください』

「わ、私の家族も先ほど車内で状況を聞いたばかりで……妻と下のはストレスや不安をこれ以上かけさせないために、今別室に待機させております」


 お互いのお父さんの自己紹介が続く。まあ、うちのお母さんがこの場にいたら一切話が進まないだろうなぁ。うちのお母さんは、その、なんて言うか……すっごいアホなんだ。真剣に会議しなければいけないようなこの場において参加させられないぐらいには、ね。


「私も家族がいる身、お父様方の判断は正しい事だと一人の父親として思います」


 はじめさんが頷きながら同意してくる。ごめんなさい……うちのお父さん、ああ言ってるけど本当はお母さんがいると全く話が進まないから先に寝かせただけなんです。ほら、うちのお父さん目が泳いじゃってるし。


 そこから始まる今後の対応のすりあわせ。西園寺さん……あ、西園寺伊鈴さんの方ね?も積極的に話し合いに参加している。一方、僕たちはただ聞いていることしか出来ないでいた。


「うーん、大人の世界だ……」

「おにーちゃん、私すでに今日の西城高校に入学したという人生のインパクトを軽く超えてるんだけど」

「大丈夫、僕は今までの人生の中で両親がいきなり『海外出張行くからこの家で待っといて!じゃあ!』って飛び立っていったあの日よりも驚いてる」


 手持ち無沙汰な瑠璃が僕に話しかけてくる。いやぁ、情勢がーとか子どもがーとか聞こえてくるけど全く分からん。議論をボケーッと聞いてて大まかに分かったことは、「このまま日本に残って警察と協力するか、馬鹿馬鹿しいと割り切って海外移住するか」という事だけだ。


 日本に残って警察と協力しようと言ってるのは美咲さんのお父さん、頼人さん。折角下の娘が姉である美咲さん……美咲奈々さんの方ね?と一緒の学校に通えると楽しみにしてたのに今更海外に移住させるのは可哀想だし、いきなり海外に行くと言われても何の準備も出来ていないとの事。


 一方海外に移住しようと提案しているのはうちのお父さん。瑠璃には可哀想だがそれ以上に命の危険ががあった緋色の事を思うと、子どもをダンジョンという危険な場所に行かせるという判断は、警察に協力するという大義名分があったとしても認可することは出来ないとの事。


「こうなったのは西園寺グループの責任でもある。仕事や住居に関しては私が用意しよう……私も、どちらかというと黒夜さんの意見に賛成だ」

『緋色は3日も目を覚まさなかった程の重体だった。そこにもう一度行かせることは、一人の父親として不安でたまらない』

「それは分かるが、私は奈々がこのままレッテルを貼られたまま逃げるように日本にいられなくなることの方が可哀想だ。友人もいるのに……」


 3人の親がそれぞれ意見を出し合っては議論している。海外に行く方が2対1で優勢っぽいね。


 もっとも丸いのは、僕たちが疑いを晴らすこと。ダンジョンにもう一度もぐって死んだ彼らをどうにか地上に戻してあげることだ。だが、それにはまた死にかけた場所に戻らなければならない。試練を中止した云々うんぬんの話を管理人らしき人が言っていたが、いつ再開するか分からない事を考えると危険だ。


「ね、ヒイロ」

「ん?どうしたの美咲さん?」


 いつの間にか頼人さんを置いて僕の方に近寄ってきていた美咲さん。真剣な議論をお父さん達(と西園寺さん)がやってるから小声なのは仕方ないけど、近い近い近い……


「お父さんも美咲なんだし、奈々で良いよ」

「いやそれはさすがに恐れ多いというか何というか女の子を名前呼びするのはとても勇気が要ると言いますか……」

「おにーちゃん早口でブツブツ言ってるのキモいよ」


 うるさい、これはオタクの性質なんだよ!僕はドキドキしながら瑠璃と一緒に小声で会話する。


「じゃあ私は奈々さんって呼ぶぅ~。ねー奈々さーん」

「きゃー!瑠璃ちゃんかーわーいーいー!」

「むぎゅう!」


 まーたおっぱいに潰されている瑠璃。助けないぞ、僕はまだ美咲さんにエロ本の隠し場所全部バラしたの忘れてないからな!美咲さんは瑠璃を抱きしめたまま僕と話を続ける。瑠璃がジタバタしてるけど無視だ無視。


「んで、どうすんの?ヒイロは」

「どうって?」

「日本に残るかどーかって話」

「僕としてはどっちでもいいって感じかな。友達も居ないし……」

「え?あーしと友達じゃ無いの!?」

「ん?いや、美咲さんが日本に残るときは僕たちも日本に残ると決めてるしその逆もそうなんだから、僕の言ってる『友達』の範疇にいないというか……」

「つまりあーしは友達以上ってコト?」


 小声で話してたのに、さらに小声で何か言ってる美波さん。めちゃめちゃ顔赤くしてるけど……何かセクハラみたいな事言っちゃったかな!?瑠璃が藻掻いて揺れている胸をちょっと見過ぎちゃったかな!?


「プハッ!……多分おにーちゃんはそんな意味で言ったんじゃ無いと思いますよ奈々さん」

「だ、だよねー!?あ、あはははは……」

「瑠璃?美咲さんがなんか言ってるか分かった?僕なんて言ってるか聞こえなくて……」

「おにーちゃんって、たまに難聴系主人公になっちゃうよね」


 難聴系主人公って……あのヒロインが大事な告白するけど全然聞き取れない奴?まさか!美咲さんみたいな可愛いギャルが僕みたいなオタク君が好きになってるわけないじゃない!瑠璃も中々攻めた事言うね?瑠璃みたいな可愛い子が言わなかったらただのセクハラだよ?


「普通、命の危機をボロボロになってまで救い出した男の子が仮にとてつもないブサイクだとしても恋に堕ちない女の子はいないと思うんだけど……」

「瑠璃ちゃん!しーっ!しーっ!」

「瑠璃?せめて僕が聞こえる声量で喋ってくれない?」

「うるさい難聴系主人公!女の子の秘密なのですぅ~!」

「うぅ……」


 瑠璃がまーた美咲さんをセクハラで困らせてる。ほら、なんか僕たちがうるさいから気になって西園寺さんがチラチラこっち見ちゃってるじゃないか!ちゃんと議論に参加しないと!


「ほら、僕たちの今後に関わる事なんだからちゃんと話し合わないと!」

「ぼ、『僕たちの今後』!?」

「奈々さんも大抵色ボケしてますよね……絶対に違うから。ちゃんと現実に戻ってきてくださーい?」


 すみません声が大きくて、ちゃんと議論に参加します……って、なんか凄い目で頼人よりひとさんに見られてるんだけど?怖!?自己紹介したときは普通のサラリーマンで、物腰の柔らかい温和な人だな~とか思ってたのに、今めっちゃ鋭い目をして僕見てるよ!?そんなうるさくしちゃいましたか僕たち!?

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