第12話 生還④

《小嵐瑠璃視点》


「小嵐緋色さん、ですね?お嬢様が中でお待ちです」


 柔和な笑みを浮かべた執事さんがリムジンのドアを開ける。いやいやいやいや!おにーちゃんいつの間にお金持ちの人と知り合いになったの!?あ、おにーちゃんも狼狽うろたえてる。なんだ、おにーちゃんも知らない人だったのか。


「え……と。お嬢様って?」

「西園寺伊鈴様でございます」

「っ!」


 サイオンジイスズ?おにーちゃんがその名前を聞いて思い当たりがあるのか驚いてリムジンのドアを見る。ん?サイオンジって……あの西園寺!?おにーちゃんあの西園寺グループのご令嬢と知り合いなの!?


 リムジンが校門前で止まってるのも執事がいることも相まって、私達にすごい注目が集まってる。


「おにーちゃん、凄い人集まってきてるよぉ」

「あ。執事さん……」

「ええ、中へどうぞ」


 ちょいちょいと袖を引っ張ると現実に引き戻されたおにーちゃん。執事さんにお願いして私達はリムジンの中に通された。うわー!初リムジンだよぉ!


 私達がリムジンの中に入ると、めちゃくちゃ綺麗な女の子が座っていた。え!?おにーちゃんこんな可愛いこと知り合いなの?あのコミュ力雑魚雑魚おにーちゃんが!?女の子を見るだけで挙動不審になっちゃうあのおにーちゃんが!?ダンジョンに行ってからおにーちゃんはモテ男になってしまったんだ……


「お久しぶりです小嵐さん」

「お、おおおおお久しぶりです西園寺さん!」

「ふふっ、そんな緊張しないでください。ダンジョンの中で話していたときのようにリ話していただけると幸いです」


 あ、いつものおにーちゃんだった。美人と話す時は緊張しちゃって目を合わせないで視界を左下に固定するのがおにーちゃんのクセ。い、いえ……改めてリムジンやら執事やらを見てると西園寺さんがご令嬢であることを再認識してしまって、だなんて言ってるけど大体おにーちゃん女の子と会話するときもそんなんでしょ!


「おにーちゃん女の子と喋るだけでもこうなっちゃうんです。すみません」

「瑠璃!おにーちゃんだって女の子と喋れるんだぞ?ほら、美咲さんとか……」

「他には?」

「……美咲さんとか」


 おにーちゃんの声が小さくなる。美咲さんは二人に分身しーまーせーんー。西園寺さんは私達の会話の中を聞いていて、美咲さんという名前に反応する。


「美咲さん……美咲奈々さんですね。彼女と小嵐さんが交流があったのはある意味僥倖ぎょうこうだったのかもしれません」

「というと?」

「今日、美咲さんもここに呼んでもらう予定です」


 あ、美咲さんもリムジンに誘拐されるんだ。スモークガラス越しに外をチラッと見ると、美咲さんが執事さんに捕まっていた。妹ちゃんを家族に預け、リムジンに乗ってくる彼女。あ、西園寺さんを見て驚いてる。


「お久しぶりです美咲さん」

「サイオン……ジ?」

「ええ、ダンジョンの中では本当にありがとうございました。実は色々と私達で決めないといけない事がありまして……詳しくは移動しながら」


 そういって私達を乗せたリムジンは走り始める。え?私乗ってて大丈夫なの!?こーゆーのって秘密の会話だから当事者以外は居ないのが普通じゃ無いの!?あまりにも場違いな私が居心地の悪さにそわそわしていると、西園寺さんがニッコリして私に居ても良いといってくれた。


「失礼ながら小嵐さん達の身辺調査をしました。勝手に調べさせてしまったこと、深くお詫び申し上げます……が、改めて調べて信頼における方達であると私は確信しました。小嵐さんの妹様もこの場に呼んだのは、信頼できる大人が海外出張中である小嵐さん達が最も危険であると私が判断したからです」

「危険?」

「ええ。私達がダンジョンから帰ってきてから、世論はかなり不味い方向に流れています」


 そういって西園寺さんが話してくれたのは、おにーちゃん達を苦しめるような現実だった。おにーちゃん達はダンジョンから帰還したが、帰還できてない人達が何人かおり……残念ながら病院に運ばれてから亡くなった人もいたらしい。


 その遺族の方や行方不明の方達が被害者団体を作って、何故かおにーちゃん達を糾弾しているという。いや、意味が分からない。


「なにそれ……意味分かんない」

「僕たちが……殺した?」

「私がかなり有名であることもあり、行き場の無い怒りが分かりやすい所に集結した感じですね」


 被害者団体の中では、おにーちゃん達は助けられる所にいたが我が身可愛さにわざと助けなかった冷徹な人物としての印象を固めており、『自分たちの子どもを見殺しにした!』と賠償責任を求めているらしい。


 そんな!おにーちゃんだって運ばれてきたときには意識不明の重体だったんだよ!?


「ダンジョンは現在入口を閉ざし、調査や捜索のために警察がダンジョンに突入できない状態になっています。何も情報が無い中、被害者団体の恨みは我々に集中しているばかりか警察も彼らに押されて私達にダンジョンに行くことを遠目に仄めかしてきております」

「そんな……あーしもう行きたくないよ」

「おにーちゃんをそんな危険なところに行かせたくないです!」


 おにーちゃんと美咲さんが悲痛な顔をして下を向く。私だってそんなとこにおにーちゃんを行かせたくない!おにーちゃんが3日も目を覚まさなくて、ほんと私死んじゃうんじゃ無いかって毎晩泣いてたんだからね!?


 こんな思いは二度とごめんだ、おにーちゃんを離すまいと私はリムジンの椅子に座りながら隣にいたおにーちゃんの腰にしがみつく。西園寺さんも私達に同意しているのか、頷きながら話を進める。


「私も同感です。あんな危険な場所で死にかけた……美咲さんや私にいたっては女として最低の最期を迎えるかもしれなかったのです。二度と行きたくない」

「西園寺さん……」

「ですが、現実はそれを許してくれない。今はまだ私の所に抗議の電話が来ていたり匿名の犯罪予告が来ているだけで済んでいたのですが……小嵐さんや美咲さんがあの日、私とダンジョンから現れていたのを周りの人が写真で撮影していたらしく。つい先日、あなた達の身元が特定されました」

「そんな……!」

「私のところは強く突っぱねて荒唐無稽こうとうむけいであると言ってまともに取り合ってないのですが、攻撃の対象がお二人に変わる可能性が出てきました。なので、こうして先んじて対応を決める為にあなた達を待っていたというわけです」


 そして、大人が海外出張中で遠いところにいる小嵐さんのところが一番彼らの当たりが強い危険性がある……と西園寺さんはそう話を締めくくった。リムジンに初めて乗った興奮なんかとうの昔に吹き飛び、私は被害者団体の理不尽な怒りとこれからの不安にどうにかなりそうだった。


「おにーちゃん……」

「大丈夫だ瑠璃……こうなったのは僕の責任だ、お父さん達に言って海外に瑠璃を連れていって貰えるか頼んでみる」

「おにーちゃんは?」

「……」

「やだよ?一緒に逃げよ?おにーちゃん……」


 おにーちゃんが黙る。嘘だよね?ちゃんと一緒にいてくれるよね?眉をひそめ何も答えないおにーちゃんに漠然と不安を覚える。美咲さんも家族の心配をしているのか、さっきから学校の方角をチラチラと不安そうに見ていた。


「あ、あーしどうしよ……あーしのせいで家族が!妹も、お姉ちゃんと同じ高校入れるって楽しみにしてて、それで!」

「美咲さん落ち着いてください、というのも無理な話ですね……ですので、これからの対応を私の父含めみんなで話し合いたかったのです」


 いつの間にかリムジンは止まり、窓から見えるのは……西園寺グループ本社。西園寺さんは凜とした表情で私達に向かって言った。


「美咲さんの家族も別の車でこちらに向かっています。小嵐さんのところもビデオ通話ができる用意があります。これからの私達の行動を、決めましょう」




――――――――――――

【後書き】

クリスマスプレゼントに★とフォローを貰えませんでしょうか!?


 ここまで読んで下さりありがとうございます!みなさまメリークリスマス!


 12月25日はクリスマス、サンタさんが欲しい物をくれる日ですね。そんな私も現在欲しい物がありまして……え?それは何だって?腰が痛くならない椅子です。


 良いですよね、長時間座っても腰が痛くならない椅子。ゲーム実況者の人とか座ってるあれなんですけど、凄い腰の負担が軽いらしいんですよ。


 執筆しているとどうしても長時間椅子に座っている事が多くて……腰がね?


 腰いてぇ……って腰伸ばしているとどうしても欲しくなるんですよねぇ、腰が痛くならない椅子。


 さて、そんなことはどうでも良いですよね。いえ、私にとってはどうでも良くはないんですが。


 私、カクヨムコン8に参加しておりまして……現在『読者選考期間』という【★とフォローの数】が非常に重要視される期間でして実は。


 なので、面白い!続きが読みたい!と思って下さった人は是非とも★とフォローで応援していただけるとありがたいです!


 応援コメントなども一つ一つ目を通して返信いたしますので、気軽に書いて下さいね!それではっ!

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