第10話 生還②

 可愛い女の子がいるという状況に今更ながら緊張する僕。瑠璃は可愛いけど妹だから問題ない。だが問題は美咲さんだ……


「瑠璃ちゃぁ~ん慰めてぇ~!」

「むぐぅ!抱きしめないでくださいぃ!」


 瑠璃がまた美咲さんに捕まっている。いやぁ、眼福眼福!じゃなくて、ゴブリンと戦っていたときは気にする余裕なんて無かったから普通に喋っていた、と……思うんだけどそもそも僕はただのオタク君である。こんな陽キャ全開な巨乳ギャルが近くに居るだけで、僕はもう眩しすぎて直視できない。


「ん?ヒイロどったのそんな目をそらして?」

「ヒ、ヒイロ!?いきなり名前呼びはちょっと心臓に悪いというかなんというか……」

「ん?瑠璃ちゃんも名字が『小嵐』なんだからコガラシって呼んだらどっちを呼んでるか分かんないじゃん」

「あ、あ……」

「おにーちゃんこんなところで陰キャ発動しないで!そして私を助けむぐぅ!」


 ごめんな瑠璃、僕は女の子の胸が揺れてたり柔らかく形を変えているのを見ながら平然と出来る健全な男子を知らないんだ。僕は目おっぱい……違う、目いっぱい視線を逸らしながら美咲さんと瑠璃を視界に入れないようにする。


「んー……もしかしてヒイロって、女の子苦手?」

「ぷはっ!苦手なわけじゃ無いんですよおにーちゃんは。むしろ美咲さんのようなおっぱいの大きな女の子は大好きです。特にベッドの下に隠してある……」

「わー!何言ってるの瑠璃!?後なんで僕のトップシークレットを普通に知ってるの!」


 瑠璃?いや瑠璃様!?なんて爆弾発言してくれるんですか!?ほら見ろ、美咲さんが顔真っ赤になって気まずそうにしてるじゃないか!

 私を助けなかったおにーちゃんが悪いんですぅ!とあっかんべーをする妹がとっても可愛い。でも流石に今の発言は美咲さんにとってはセクハラじゃないかなぁ!?


「……」

「……」

「むぅ~」


 片岡さんがいた時とは打って変わって会話が無くなる僕たち。いや確かに僕はそもそもコミュ力ざこざこオタク君だよ?でも今は何を言ってもセクハラになる気がする……!こういう時は瑠璃身内に話を振ることで流れを変えるのが会話の流儀。ちなみにこれ、僕が今考えた流儀。


「る、瑠璃~?おにーちゃんはもう大丈夫だから今日はもう帰ったら良いんじゃ無いかな?」

「おにーちゃんは私と居るより美咲さんを選ぶんだ……」

「え!?あ、あーし?」

「ち、違う違う!おにーちゃんだって瑠璃と一緒に居たいけど、瑠璃だって疲れてると思うから家に帰って休んだらどうかなーって思っただけ!」


 美咲さんか瑠璃かどちらか選べだって!?そんなの瑠璃に決まってるじゃないか!だって美咲さんみたいな美少女と二人になってみろ、僕は生き残ったのにすぐに死ぬことになるぞ!?


 おにーちゃんには瑠璃が必要だ!だけど連日苦労を掛けすぎたっぽいし、僕は瑠璃を思って……


「……戸棚の裏」

「よし分かった話し合おう瑠璃。流石におにーちゃんのトップシークレットを知りすぎている」

「瑠璃ちゃん……も、もしかして引き出しの二重底とか……」

「ええ、ありますよ美咲さん」

「へ、へぇ~……男の子ってホントにそーゆーのあるんだ……」

「しかも気づかれないからって結構えげつないの入れてますね」

「瑠璃?やめて?おにーちゃんの秘密をボロボロ暴露しないで?」


 なんで妹が僕のエロ本の隠し場所把握してるの?しかも妹に絶対にバレたくないエロ本を態々わざわざ引き出しの二重底作って隠してるのに題名まで完璧にバレてるの!?


 顔を真っ赤にしながらチラチラ僕を見つつ瑠璃の話を聞く美咲さんと、自慢げに僕のエロ本の隠し場所とエロ本の傾向を話す瑠璃。僕はもう遠い目をして、ここから居なくなりたいと切に願うことしか出来なかった。


「ヒ、ヒイロってちゃんと男の子だったんだ……」

「そーですよ美咲さん。おにーちゃんってこんな風に美咲さんを直視できないほどに陰キャでオタクなのに、18歳になってもないのにエロ本を買っちゃうワルなのです」

「モウ……ユルシテ……」


 美咲さんと瑠璃が僕の精神を犠牲にして少し仲良くなった時には、既に日が沈み欠けていた。片岡さんが出て行った時はまだ日が高かった様な気がするんだけどなぁ……ちなみに瑠璃が僕のエロ本の隠し場所を全て把握していたことは分かった。


 あ、あと何故か出会ってそう日が経っていない美咲さんにも全て隠し場所を知られてしまった事も追加で。


「許して欲しかったらおにーちゃんはエッチな本を買ってこないこと!」

「え、えっと……ヒイロ、そーゆーのは、良くないと、思うな?」

「ぁぃ……」


 瑠璃が勝ち誇った顔で、美咲さんは顔真っ赤でそう言ってくる。格好付けてゴブリンから救った美咲さんの僕に対する評価も、今の話で全部パーだよ!美咲さんのような陽キャのギャルにこんな話を広めてみろ、僕の性癖は明日にでも学校中に広まってるに決まってる!って……


「そういえば、3日も眠ってたってことは……僕、終業式すら出れなかった?」

「え?うん。おにーちゃんの期末のテスト用紙は私が貰ってるから大丈夫だよ」

「いや、そこは全然気にしてないんだけど。うへー……僕の皆勤賞がぁ」


 別にテストの点数もそんなに良くない僕の唯一の良いところだったのに皆勤賞……がっくりと肩を落とす僕に、美咲さんが単純な疑問を投げかける。


「ヒイロってどこの学校なの?」

「え?西城高校だけど……」

「ちなみに私も来年度に入学予定だよ~」

「あーしも西城高校なんだけど……」

「「えっ!?」」


 美咲さんが僕と同じ高校!?年は同じだから同学年だよね。待って……確かに友達はいないけど、流石に同学年の顔も覚えてないのは他人に興味なさすぎない僕?驚いた顔をしている美咲さんの顔を見つめながら記憶を掘り返す。


 いくら僕と言えども、こんな一目見ただけで記憶に残るような美少女に見覚えが無いってある?1年間同じ学年にいたんだからすれ違ったり噂になったりして名前ぐらいは聞いたことあるようなもんだけど……あ、美咲さんの耳が赤くなってる。


「ヒイロ、あーしのこと見すぎ……」

「あ、すみませんすみません!」

「むーっ!」


 真剣に美咲さんの事を考えていたら思ったより長時間見つめていたのか、彼女からそう言われて見すぎていた事を自覚する僕。瑠璃が嫉妬して僕のほっぺたを引っ張ってくる姿に癒やされながらも、なぜ僕が美咲さんの姿や名前を聞いたことが無いのかが分かった。


「あ、ひょっか。みひゃきしゃんみたいなひひょとしひぇんをあわひぇないようにしてひゃんだ(あ、そっか。美咲さんみたいな人と視線を合わせないようにしてたんだ)」

「理由が完全に陰キャだよおにーちゃん……」

「え?え?なんて言ってんの瑠璃ちゃん?」

「美咲さんみたいなギャルっぽい人が怖いので目を合わせないように隅っこを見続けていたから美咲さんの顔を見たことが無かったんですってー」

「何その理由!?」


 あーしそんな怖いかなぁ……と凹む美咲さんに、おにーちゃんは女の子が大好きだけど苦手だから怖がってるだけの陰キャなだけですよ~と僕を攻撃しながら慰める我が妹。


 仕方ないじゃん、僕みたいな友達の居ない陰キャが女の子と話すだけでもキツいのに、美波さんみたいな美少女ギャルと会話なんて最早『恐れ多い』レベルだ。


 僕よく西園寺さんとも美咲さんともダンジョン内で会話出来たな?偉いぞ僕、よくやったぞ僕、命がかかった状態じゃ無いと女の子と会話出来ないとかかなりヤバいぞ僕……


 こうして、僕たちが同じ高校に通っている衝撃的な事実がありつつも、僕たちの入院生活は翌日に退院することで終わった。瑠璃と美咲さんは連絡先を交換していたのを見て、うちの妹コミュ力たけーってなったのは秘密だ。

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