第9話 生還①
……知らない天井だ。一回やってみたかったんだよねこれ。まあ、本当に知らない天井なんですけど。目が覚めると、僕は点滴に繋がれていた状態で寝ていたらしい。視界の端で、点滴の袋がプラプラと揺れている。ここは……病院かな?
そうか、僕、助かったんだ……僕、生きて帰って来れたんだ……!
じわじわと助かった実感が湧いて、今まで我慢していた不安や恐怖が涙となって吐き出される。ボロボロと情けなく泣いてしまう僕。僕は、生ぎでる……っ!
「うっ……ひっぐ……」
「んぅ……?おにぃ、ちゃん……?」
僕の膝元で寝ていたらしい瑠璃が、僕の泣き声で目を覚ます。目をショボショボさせながら僕が起きているのを見ると泣きながら抱きついてきた!
「お”にぃじゃあ”あ”あ”あ”ん!」
「瑠璃……るりぃ……!」
おお!また瑠璃をこの手で抱きしめることが出来ようとは!神よ、感謝いたします!今度近所にある神社のお賽銭箱にお札ぶっ込もう……あ、お財布空っぽだったんだった。
ひとしきりお互いに泣いた後、瑠璃から色々教えてもらった。スイーツを買いにコンビニに行ってからいつまでも帰ってこず、電話も「電波の届かないところにいる」って繋がらないからもう大変。
僕を心配した瑠璃は、近所の交番に駆け込んだそうだ。そこで僕の捜索届を書いている途中で、いきなりダンジョンの入口に僕たちが出現……ダンジョンの入口を警備していた警察官達に保護されたという流れだったと言う。
「病院に搬送されたって聞いたときはホント怖かったんだからね!?」とプリプリ怒りながら瑠璃が保護された時の状況を語ってくれた。
意識を失ったあの後、僕は西園寺さんともう1人の子に両肩を担がれながら引きずられていたらしい。
……生き残って帰還した者達も、警察官達が言うには『悲惨』の一言だったらしい。腕が無くなっていた者、身体が震えブツブツと何かを繰り返し呟いている者、腹に刃物が刺さっていた者。遠くから見ていた野次馬も、あまりの凄惨な光景に吐いたり気絶したりしていたという。
僕も左足を刺されて大量出血による重体。西園寺さん達も、意識を失っていた僕を担いでいたのと戦いによる消耗で体力が限界だったのか、その場で倒れたらしい。警察はすぐに救急車を要請、僕たちは病院で寝ていたという訳だ。
「おにーちゃんがここに運び込まれてから、3日も寝てたんだよ?」
「み、3日も……?それは、何というか。心配掛けて、ごめん」
「んっ!許す!」
ちゃんと帰ってきてくれたし妹は安心なのです、と瑠璃は言って医者の先生に起きたことを報告しに行った。窓を見ると、空が白み始めている……朝か。
僕の日常は、こうして戻ってきたのであった。完……
「どうやら問題は無いようですね。受け答えもしっかり出来てますし、もうすぐ退院できますよ」
「そうなんですか。ありがとうございます……」
いや
大柄で怖そうなおじさんが扉の前で仁王立ちしているんだけど。いや、あの、ちょっと……そこいると部屋に戻れないんですが。
「す、すみませーん。通りますよー……」
「小嵐緋色君、だね?」
あ、なーんだ僕の来客かぁ。いや僕こんな怖い人と知り合いじゃないよ!?まさか瑠璃!?妹さんを僕に下さい的な!?おにーちゃん許さないぞ!瑠璃にはせめて同年代ぐらいの子と健全なお付き合いを……
「警察です」
警察でした。どうやらダンジョンに居たときの事を聞きたいらしく、病室の前で待っていたらしい。とりあえず入ってもらおうと扉を開ける、と。
「やーん!めっちゃかわいいんですけどぉ~!」
「むぐぅ!は、離して美咲さん……っ息が……!」
瑠璃が僕のベッドの側で、大きな胸に埋もれていた。あ~……お取り込み中?大丈夫だよ瑠璃、僕はオタクだから百合に関しては一定の理解と需要がある。可愛い女の子同士の百合の間に挟まったら殺されるし、僕は見なかったことにするよ……
「……別の場所で話します?」
「おにーちゃん見てないで助けてぇ~!むぐぅ!」
「いや、彼女にも話を聞きたかったのだ。丁度良い」
そういってズカズカ入っていく警察の人。大丈夫!?百合の間に挟まったら死ぬよ!?
こうして簡単な自己紹介の後、僕たちはダンジョンの中で見てきたことや実際に遭ったことを事細かに警察の人(片岡さんというらしい)に報告した。西園寺さんと一緒に僕を助けてくれた子……美咲さんの話を聞いて、あの不良少年君に殺意を覚えながらも僕たちの話はゴブリンを倒したところまで進む。
「んで、あーしらは何とかバケモノを倒して……」
「ダンジョンの管理人を名乗る、《おるれうすちゃん1号バージョンすりぃ~!》という名前の人の声がスマホから聞こえて。『試練は中止だ~』って言われて気がついたらダンジョンの入口に」
「なるほど……にわかには信じがたいな」
「ですよね……」
「誘拐されて恐怖の余り集団幻覚を見た、と解釈した方が自然だ」
片岡さんが子どもがゲームの話をしているみたいに、信じてはくれない。そりゃそうだ……何か証拠になりそうなもの無いのかな?あ、そうだ!スマホのステータス画面!
「片岡さん!」
「ん?」
「こ、これ見てください!」
僕はスマホに映っていたステータス画面を探す……あった!
――――――――――――
名前:小嵐緋色
Lv.1
HP:20
MP:6
STR:G1
VIT:G1
DEX:G1
AGI:G1
INT:G1
《スキル》
・
《称号》
・『オルレウスの資格者』
――――――――――――
「ど、どうでしょうか?」
「いや、どうも何も……」
何も映ってないスマホ画面を見せられてもな……と片岡さんが痛い子を見る様な目で僕を見る。やめて!その痛い子を見る目はオタク君には大ダメージなんです!って……
「何も……見えないんですか?」
「ん?ああ。何か見えてるのか?」
「美咲さん……」
「あーしには見えてる。でも、他の人には見えないのかなぁ?瑠璃ちゃ~ん、これ見えるぅ?」
美咲さんも瑠璃に自分のステータス画面を見せるが、瑠璃も首をかしげるばかりで見えては居ないようだ。
片岡さんはため息をついて、やはり集団幻覚として事件性を追った方が良いのか?と独り言を呟く。僕たちも真剣なんだけどなぁ……
「すまない、時間を取らせたね。まともに受け答えの出来る子が君たちぐらいしかいなくて……」
「え?西園寺さんは?」
「西園寺伊鈴の事か……彼女は西園寺グループの令嬢様だ、一警察がホイホイと事件のことを聞き出すのは難しいんだよ。西園寺グループの機嫌を損ねたり、もし令嬢様がPTSDを発症していて、それに触れるようなことがあれば……おっと、これはオフレコで頼むよ」
なんせ西園寺グループの一人娘だからね、と言外に警察が介入し辛い程に彼女がやんごとなき御方なんだと愚痴る片岡さん。だ、大丈夫かな?僕、西園寺さんにダンジョン内で色々言っちゃったんだけど……
「君たちも、病院でゆっくり休め。特に精神科の受診を強くオススメしておく」
「べ、別にあーしら頭おかしくなってないって!」
「失礼する」
「あっ、ちょっ、行っちゃった……もぉ~!なんで男ってのは頭がこんなにも固いのよぉ~!」
あーしが言ってることホントなのにぃ~とブーブー言ってる美咲さん。まあ、僕もいきなりゲームのような体験をしました!って言われても信じないだろう。片岡さんが出て行った後、僕、美咲さん、瑠璃の3人だけが残る。ぼ、僕……美咲さんみたいなザ・陽キャみたいな女の子と喋るの緊張するんだけど!た、助けて瑠璃ぃ……
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