第3話 異変③

 可愛い女の子に至近距離で微笑まれるとオタク君はどうなる?知らんのか、緊張で死ぬ。


「取りあえず、まずはここがどこかを話しましょう。何でも良いです、少しでも可能性があれば言ってください」

「は、はははははいぃ!」


 声裏返っちゃったぁ…うぅ、西園寺さんがそんなに緊張しなくて良いですよとか言ってくれてるけど、こっちは女の子の耐性が無いんです……瑠璃身内と話す時は全然緊張しないのになぁ。


「ぼ、僕は何処どこかのダンジョン…だと、思います。すみません!」

「なるほど……」


 僕なりの考えを話してみるけど……大丈夫かな!?なんか痛い子みたいに見られてないかな!?現実で『ここどこ?』『ダンジョンです!』とか言ってたら次に出てくるセリフは『お薬出しときますね』だけど、実際にダンジョンが出現している昨今にダンジョンの可能性は大いにあり得る。それに……


「小嵐さん。どうしてダンジョンなのかと考えたのか、理由を聞いても?」

「は、はい。この僕たちが居る空間の壁にまってる石がずっと光ってますし、よく見たらほぼ等間隔に全体を光らせるように配置されています。ま、また僕の知識不足なら申し訳ないのですが……『光が届かない場所で自ら発光する鉱石』というのを、僕は知りません。ある日突如として自然に生成された奇跡を追うよりも、ダンジョンの中である可能性を…追った方が…良いのかなぁって……」

「……」


 え、無言?いや確かに僕も何言ってんだろう?ってちょっと思って言葉が尻すぼみになったけど、せめて『お薬出しときますね』ぐらい言ってくれても良くない?いや、実際に西園寺さんに言われたら言われたで凹むけどさ……


 西園寺さんと僕の間に無言の時間が流れる。まあ、さっきとは違って西園寺さんは目をつむって何かを考えているようだし、居心地悪そうにしているのは僕だけなんだけど。


「では、やはり進むしかないようですね」

「え…?」


 いつまでそうしていただろう?西園寺さんが目を開けて開口一番、僕にそう言ってきた。


「私も、小嵐さんの意見に同意します。ここが何かしらのダンジョンである可能性が高い、というよりそれ以外の可能性を追っているとキリが無いのでそう仮定します」

「は、はい」

「犯人の目的や、どうやって私たちをここまで運んできたかを考えるのは一旦置いておきます。さて、私達はどう動くのが正解でしょうか?」


 そう西園寺さんが僕に問いかけてくる。と言っても僕もダンジョンに関しての歩き方とかは分からない。あるのはライトノベルの中にある無数の空想だ……だから僕にはダンジョン羅列られつすることしか出来ない。

 でも、ここでも西園寺さんは有能ぶりを遺憾いかんなく発揮してくれた。


「モンスター……確かにダンジョンでは不定形のスライムが出現したとの噂がネット上で出回っていましたね…」

「罠、トラップですか…私達は専門家では無いですし、二人で見られる範囲には限界があります。ここは壁と床に絞って注視しましょう」

「モンスターハウス…ですか。その『モンスター』の驚異がどの程度かは分かりませんが、数は力。大きな空間を見つけたら細心の注意を払いましょう」


 次々と今後の行動を決めていく西園寺さん。多分、西園寺さんにとって僕の『ダンジョンあるある』は全て『あるかもしれない』と可能性を追っているんだ…


 この場所が未知である以上、少しでも生存率を上げるために僕の言葉を全て『ある』と仮定している。何も無ければ僕のただの空想、でももし僕のただの空想が現実になった時…覚悟できているかどうかで生存率は変わる。


「貴重な意見、ありがとうございました小嵐さん」

「いえ…僕の話は全て『あったとき』の話で…」

「私はその『あったとき』すら思いつかないのです。小嵐さんが居てくれて本当に良かった」


 そういって西園寺さんは僕に微笑む。やめて?可愛い子の笑顔は軽く人を殺せる威力があるんだから、僕みたいな陰キャオタク君には大ダメージだよ!

 うおおお止まれ心臓…!いや止まったら死ぬね僕?


「先ほどの話を考えると…あの鴻上さんの向かった方向に行くのがもっとも安全でしょうか?」

「罠とかモンスターを考えると、多分…その方が一番だと思います」

「では、出発いたしましょう。何か護身のものがあれば…」


 モンスターが出てくると仮定すると、何かしら自分の守りを固めるものがあれば良いんだけど、何かあったかなぁ……

 そう悩んでいる僕の視界にゴミ袋が映る。そういえば……


 ふと思い出し、落ちていたゴミ袋をガサガサとほどくと、1個のフライパンが。棄てようとしてゴミ袋に入れてたのを今の今まで忘れていた。


「さ、西園寺さん。これなら…」

「壁に印を付けるために鋭利なものが良かったのですが、この状況では自衛の手段があるだけ奇跡ですね。では私が前を行くので小嵐さんは後ろに…」

「いえ!流石に女の子に前を任せるのは男の沽券に関わるというか!そ、それに武器を持っている僕が壁になる方が生き残りやすいと思います!」

「小嵐さん…」


 流石にこれ以上西園寺さんにおんぶに抱っこじゃいられないし、ダンジョンなら少しでも『あったとき』の空想を繰り返していた僕の方が不測の事態を考えつきやすい。男だろ僕!女の子一人守れないで何が『冒険』だ!


「行きましょう西園寺さん!」

「…はい、前は任せましたよ。小嵐さん」


 こうして、僕と西園寺さんの臨時パーティーが結成した。さあ、脱出だ…!


《鴻上視点》


 クソッ!クソッ!クソッ!なにが『ここで待ちましょう』だ、あのアマ!反抗せずに俺の言うことを聞いておけばあんな場所で置いていかれなくて済んだのによぉ!


 まあいい、どうせ一人になって心細くなったら泣きつきに来るに決まってる。顔は良かったからな、泣いて懇願こんがんしながら股でも開けば俺も気が済んで側に置く気になるかもな。


「こ、ここはどこなんだいったい」

「ママが心配するでござる」

「ねー、あーしもう歩き疲れたんだけどぉ~!」

「ここはダンジョン……ボ、ボクの無双物語が始まるぞ…ふひひ」


 うるせぇ、7人も引き連れてワイワイガヤガヤ。黙って歩けよ雑魚共がよぉ…


 俺の言うことは誰もが聞いたし、俺に従わない奴はいつでも暴力で解決してきた。強いってのはそれだけで人生を好き勝手に謳歌おうか出来る。もちろん、他の奴らの人生もな!


 今この状況で武器を持っているのは俺だけ。つまり俺がこの中で一番強いって事。こいつらの人生は俺が決める……俺はその権利があるんだよ!


 だが……俺は後ろ目でそいつらを見やってため息をつく。この集団にいる奴らはほぼ陰キャ共。唯一の女もうるせえギャル。ああいう女は嫌いなんだよ、うるせえし男を舐めてるし。股は緩いくせに殴ったら殴ったでビービー泣きわめいて萎えるし。こんな奴らの人生握ってても、鴻上様のはくが付かねえ。


「ねー!あーし疲れたんだけどぉー!」


 ほーら、女が騒ぎ出した。うるせぇ!黙って俺に付いてこい!


「うるせえなぁ!俺に黙って付いて来いよ!」

「でも疲れたんだもーん!もう無理、あーし歩けない」


 そういってギャルがしゃがみ込む。短いスカートでしゃがみ込んでるからパンツが見えそうじゃねえか。陰キャ共が鼻を伸ばしてチラチラとギャルの方を見るせいで足の進みがにぶる。クソ童貞共が!


「み、見え……」

「デュフ……デュフフ…」

「ヒ、ヒロインのラッキースケベはラノベの醍醐味……」

「ああああああああああ!さっさと歩けよクソ共が!俺の言うことを聞きやがれ!」


 もう我慢の限界だ!さっきから上手くいかないことばかりで、しかもどっちも女!

 俺は金属バットで壁をぶん殴る。ッカーン!という高い音と共に手が痺れるが関係ねぇ…!


 ビビった顔をして陰キャとギャルが黙る。お前らは俺の意見に黙って従えば良いんだよ下等生物が!

 しかし、この行動が後の悲劇を生み出すだなんて…この時の俺は思いつきやしなかったんだ。これによって、あのモンスターが俺たちを見つけてしまったんだからな。


――――――ゲヒャ

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