第19話己の才能と帝国の野望

「通、よく聞くんじゃぞ」




「なにじいちゃん?」




「通よ。お前は優しくて本当に良い子じゃ。じゃがこの世の中はお前のような人間ばかではない。


そんな世の中を生き抜くには同じ失敗を何度もせぬことじゃ。そのために歴史から多くのことを学んでいかなければならんぞ」




「……僕には難してよく分からないや」




「今はそれでいい。じゃが、この言葉だけはしっかり胸の内に留めておくんじゃぞ、


愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。


この言葉をよく覚えておくんじゃ」




「うん、分かったよじいちゃん」




「通は本当に優しくてよく出来た子じゃ。通ならきっとたくさんの人を救えるような人間になれるじゃろうな―」




―――




「―じいちゃんっ!」




アレンは寝ていたベットから飛び起きた。




「ああ、夢だったのか…」




一旦冷静になり夢の内容を思い出す。




今観た夢は僕の前世の記憶だよな?




僕のことを通と呼ぶ声……


俺のたった一人の家族だった人の声だ。




「……愚者は経験に学び、賢者は歴史から学ぶ、か」




そうだよねじいちゃん。




じいちゃんの言っていた大事な言葉。


それを忘れかけていたなんて……。




紡ぎ人の役目を仰せつかったからには、この言葉は常に肝に銘じておかなければ。


大切なじいちゃんの言葉であり、この世界でもきっと役に立つ言葉なはずだ。






……





僕は自分の部屋のベットで眠っていた。




キョロキョロと顔を動かし辺りを見回す。




窓から入る光が見えた。


その光からして今は朝の時間のようだ。




キイー。




この部屋の扉が開く音。


「アレン!」


聞き覚えのある声が二人。


母さんとクレアだった。




「良かった目が覚めて」


そういうなり母さんが僕の元に駆け寄り体を包み込むように抱く。




「本当に良かった。もうこのまま目覚めないんじゃないかと心配で……」


涙ぐむ母さん。




「私も、このままアレンともう二度と会えなくなっちゃうんじゃないかって……」


クレアも涙ぐんでいる。




「二人ともご心配をお掛けしました」


僕は二人にたくさんの心配をかけてしまった謝罪をする。




一人で勝手に突っ走て父さんを助けようとしたこと。




トロール相手に無茶な戦いを挑んでしまったこと。




その他全部のことに謝った。






「もう良いわそんなこと。アレンがこうして生きててくれればそれで充分だわ」




そう言ったアンの顔は、まるで母性が滲みでているかのようなオーラが出ていたのだった。






―――




「僕はどのくらい寝ていたんです?」




「まる3日間寝てたわよ」


母さんが答える。




「僕そんなに寝ていたんですね」




「クレアに感謝しなさいね。倒れていたあなたとあの人のこと最初に見つけたのがクレアだったんだから」




「そうだったんですね。ありがとうございますクレア姉さん」




「べ、べつにそんなに感謝されるほどのことでもないし、むしろ当たり前のことをしただけよ」


照れながら謙遜するクレア。




相変わらずツンデレっぽい属性の持ち主だな。






「父さんは大丈夫でしたか?」


僕は一番肝心なことを聞いた。




「ええ、あの人も無事よ。ただ右足を骨折してしまってしばらくは動けないでしょうね。今頃ギルドの医務室で看護されてるでしょうね」




よかった。父さんも怪我をしてるとはいっても無事みたいでほっとした。




「ねえアレン、トロールと戦った時の事覚えてる?」


唐突に母さんにそう聞かれる。




「それが僕も覚えてないんですよ。無意識のうちに気付いたら剣に炎が纏ってて、それを振り下ろしたら気絶したって感じで」




「ということはアレン、あの剣を使ったのね!」




「父さんを助けたい一心で無意識に使っただけですけどね」




「それでも充分すごいわよ。あの剣を使えるような人は、剣術は勿論のこと魔法だって相当な腕がないと使いこなせないものなのよ。アレンはやっぱり才能があるんだわ!」




そういう母さんは体を弾ませて喜ぶ。


その横でクレアがちょっと悔しそうに僕の方に視線を送る。


クレアは魔法関連の話になると少し嫉妬深くなるのだった。






クレア、僕一応病み上がりだから魔法で攻撃したりするのはやめてね。






母さんが僕には特別な才能があると前に言っていた。


炎を纏った剣を使えたのも、もしかしたらそのことと関係してるのかな。




そんなまさかな……。




アレンはこの時まだ気づいていなかった。


紡ぎ人の待つ真の力に……






ナルメア帝国幕僚参謀本部建物。


「スレイン宰相閣下、今しがた魔物たちの魔力反応が消失したとの報告が入りました」




「なんだと」


スレインの酒杯を持っていた手が止まる。




「どういうことなのだ?」




「それが、何者かが魔物の群れを討伐したとのことです」




「なに、それは本当か?」




「おそらくは……」




「……作戦は中止だと各位に伝えろ」




「はっ」




よもやここにきて作戦が頓挫するとはな。


まあ、よい。


これも我が国ナルメア帝国が覇権を握るための今後の布石となろう。


これはそのためのいわば余興だ。




エリーゼア王国よ、余興は楽しめたか。


「あはははははっはー」




スレインは怪しく哂った。

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紡ぎ人 役目を仰せつかって異世界転生! @koketsutarou2

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