第16話向かう先は魔物の群れ
「父さん今回も帰りが遅くなるのかな・・・」
アレンは家の庭で魔法の特訓をしながら独り言を呟く。
父さんがギルドの仕事へと出てから1日とちょっといったところか。
だが、いまだ父さんが帰ってくる気配はない。
前にも魔物討伐の仕事で2日3日は帰ってこないことはあった。
だから今回もそのぐらいしたら帰ってくるはずだ。
心配する必要はない。なんてたってあの父さんのことだ。
自分のことよりも、僕がちゃんと剣の鍛錬をしているかどうかを今頃気にしていることだろう。
三度の飯のことと剣を極めることしか頭にない筋金入りの剣術バカな父さんだ。
きっと大丈夫に決まっている。
けろっとした顔で無事にまた帰ってきてくれるに違いない。
きっとそうに違いない・・・。
タッタッタッタッタ。
何の音だ? 何の前触れもなしに聞こえてきた音にアレンは耳を傾けた。
よく耳を澄まして聞いてみると、その音はどうやら人の足音のようだった。
砂と砂利で出来た道を駆け抜ける足音が近づいてくるのが分かる。
その足音はどうやらこっちに向かってきているらしい。
タッタッタッタッタ。
すぐ目の前を尋常ではないほど焦った顔をした女性が横切っていく。
その女性の顔をどこかで観た気がする。
確か父さんと同じギルドの・・・。
あ、そうだ思い出した。
「シグレさん! どうしたんですか?」
彼女は僕の存在に最初気付いていなかったのだろう。
どこから自分を呼び止める声がしたのかといった感じで辺りをキョロキョロと見回していた。
「こっちですシグレさん」
彼女は後ろを振り返りこちらに顔を向ける。
「アレン君・・・」
「お久しぶりですシグレさん。前に少しだけ会ったことありますよね。その時はまだ僕も小さかったですけど・・・。それよりそんなに焦った顔してどうしたんですか? 何かあったんです?」
シグレさんは躊躇いながらもこう言葉を続けた。
「アン様は今ご在宅ですか?」
「はい、いますけど」
「ではアン様をここに呼んできて貰えますか。大至急お話があるということで」
「わかりました・・・。すぐに呼んできますね」
何やら不穏な雰囲気をまとったシグレさんを前に、嫌な予感が体中を駆け巡って来るのが分かった。
僕はすぐさま家に戻り、母さんの部屋がある2階へと上がった。
母さんの部屋の前までくるとノックもせずにドアを開けた。
「どうしたのアレン?」
困惑した表情を浮かべる母さんをよそに僕は口を開く。
「母さんちょっと来て」
「良いけど何かあった?」
「いいから来て!」
僕はじれったくなり母さんの手を掴み走り出した。
「ちょっとアレン」
母さんの手を掴み僕が先頭を走る形で駆けだす。
いそいでシグレさんのもとへと戻る。
戻った時にはどうやら騒ぎを聞きつけたらしくクレアもその場にいた。
「連れてきましたよ。シグレさんそれで話ってなんですか?」
まだ状況を呑み込めていない母さんとクレアをよそに僕は結論を急かす。
シグレさんは少しばかり沈黙を置いたのちに意を決して口を開いた。
「皆さん落ち着いて聞いてください。魔物討伐に向かったギルドの討伐隊、ならびにレオン団長が先ほど魔物の大群に遭遇し奮闘しています。ですが魔物の数が多く討伐隊は・・・、討伐隊は壊滅的な打撃を被っている状況です。レオン団長はそこに残り戦うと言ったのを最後に私と別れました―」
その言葉を聞いた瞬間、母さんと僕の時間が止まったような気がした。
父さんが魔物の大群相手に戦っている。
もしかして父さんが死ぬ・・・?
そんなわけない!
あの父さんがそう簡単に死ぬはずない。
きっと今も一人で戦っているに違いない。
助けに行かなきゃ。
助けに行くんだ!
「―私はこれよりギルドへ応援部隊を要請に向かいます。皆さんは念のためにここから避難していてください。魔物がこちらに向かってくる可能性がありますので」
「いいえ。私は避難なんかしません」
その母さんの声音はいつものものとは違って聞こえた。
「何を言って・・・」
「私もその応援部隊に参加します」
どうやら母さんと僕は同じことを考えていたらしい。
父さんを助けに行くのだと。
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