第14話獅子累々

「簡単に言えばルーン文字を用いた魔法はイメージする時間を省略出来る。というよりそもそもその必要がない。だからルーン文字を用いた魔法は即座に発動する。きっとこれがクレアのその疑問の答えなんでしょ?」僕は母さんの方を見遣る。

「ええ、確かにその説明で間違いないわ。ただその説明だと少し足りない部分もあるわね」

えっ、ウソ? 

なんかドヤ顔でカッコつけて言った手前、超恥ずかしい。

足りない部分の説明ってなんだ? やべえ分からん。

どうしよう。誰かちょっとヘルプミー・・・。

「二人とも私分かりましたわ!」はつらつとクレアが言う。

「あら、それじゃクレアにその説明をお願いしようかしら」

ふう、なんとか助かった。 

「はい、アン様!」

「ではまず、魔法を使うにはその対象となるものを自分はどうしたいのかをイメージして使います。そしてそのイメージを対象となるものに向けて詠唱することで魔法が働く。このことを”魔法の効果を及ぼす状態”といいます。それで自分のイメージしたものを対象に投影されるには多少の時間が必要になります。その時間はどんな魔法の熟練者でも数秒から数十秒はかかります。ですがアン様はルーン文字でどのような効果を及ぼしたいのかを事前に刻んでいたのでしょう。そうすることで自分のイメージを投影させる時間が省略された。あとは魔法の詠唱がトリガーとなって即座に魔法が発動する。この説明でよろしいでしょうか?」クレアは自信ありげに母さんの方を見遣る。

「ええ、クレアのその説明で間違いないわ。おかげで私が説明する手間が省けて助かったわ」

「光栄ですアン様」まるでご主人に褒められて喜ぶ犬のようにはしゃぐクレア。

その様子はなんだかとても愛らしい。

「アレンも着眼点はとても良かったわ。けど、まだ今一つ魔法の知識や経験が足りていないわね。でも落ち込む必要はないわ。魔法はとにかく慣れだから、これからどんどん魔法の腕を磨いていって自信を付けていきましょう」

母さんがさりげなく僕のフォローをしてくれた。

「そうですよね。これからより魔法を磨いていくしかないですよね。頑張ります!」

「ふふふ、その意気よ」

「私も頑張るわ。アレンには負けないんだからね!」

「ええ、僕もクレア姉さんには負けませんよ!」

「よろしい。二人ともとてもやる気があって私も嬉しいわ。それじゃこれからいっぱい魔法の特訓をしていくわよ」

「はい!」

二人の活気に満ちた声が辺りに響き渡る。



ニーマン一家のある町から北に進んだ森林。

「何なんだこの異常な魔物の数は!?」

夜闇と霧に覆われた森林。そこに禍々しい邪気を放つ魔物の大群が一同に介する。

「クソ、切っても切ってもキリがねえ!」

一匹、また一匹と切る。研ぎ澄まされた刃の咆哮は確実に獲物を仕留めていく。

「レオン団長ここは一旦退却を!」

「ダメだ! 今ここでこいつら魔物どもを仕留めておかなければ近隣の村や町に被害が出かねない」

「しかしこのままでは隊が全滅してしまいます!」

「くどいぞシグレ!」

「大変ですレオン団長!」

「なんだどうした?」

「今しがた討伐隊左翼側に推定40匹のトロールの群団が出現したとの報告が入りました!」

「なにっ!!!」

「レオン団長やはりこうなっては一旦退却してから態勢を整えましょう!」

・・・。

「シグレ、お前はギルドに戻って応援の要請をしてきてくれ。俺はトロールどもを片づけに行く」

「ならば私もここに残って戦います!」

「いいや、お前は応援の要請をするんだ。お前のその足ならすぐにギルドに着ける。だから頼む」

「くっ・・・。ご武運を祈っております」無言の背中を見せて一人の女が走り去る。

「それでいい・・・」

血の滴る剣を月へとかざす。

「お前たちにギルド団長として命ずる! ここを全力で死守し生き延びた暁には、魔物の血でこびりついた腐った臭いを勝利の美酒で洗い流そうぞ!」喉の奥に獅子が住みついているかのような声で一喝した。

「おおおーーーー!」その場にいた皆の剣を握る手が硬くなる。

「それじゃ俺はトロールを狩りに行くか・・・」

「昔トロールに強烈な屁をかけられた思い出があったけな・・・。まったく嫌な気分だ」

魔物の群れに飛び込む獅子がここに一人。

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