第12話魔法の探求は奥が深い
「まだ聞いていなかったけど、クレアの歳はいくつなのかしら?」
「次の秋の収穫祭で9歳になります」
「あらそうなのー、アレンの二つ上なのね。なら直の事、アレンと仲良くしてあげてね。この子同い年くらいの友達がいないから」まるで僕のことをボッチ呼ばわりするかのような言い方だな。
「ふぅ~ん、そういうことなら是非仲良くさせてください」彼女はしたり顔でこっちを見てきた。大方、年上マウントを取れることで悦に入っているのだろう。
なんか腹立つ!
いや、ここは前世の記憶持ちの長所を活かして、大人な振る舞いをしようじゃないか。
「こちらこそ仲良くして貰えると嬉しいです。それでそのお近づきの印といってはなんですが、クレア姉さんと呼ばせて貰っても良いですか?」
どうだ、この下手に出る感じの見事なデキる大人の処世術は!
この大人の処世術を見て、さぞかし人としての格の違いを思い知るだろう。
「ホントに?」
「あ、ああ、はい。勿論男に二言はありません」
「うれしい! 私、昔から兄弟だったら弟が欲しかったの。だからすっごい嬉しい! ありがとうアレン!」
・・・。
あれ、なんかめっちゃ喜ばれた!
ま、まあ、喜んで貰えたなら良いとしよう。
「はいはーい。二人で仲良く懇談してるところ悪いけど、クレアちゃん。あなたちょっとアレンと仲良くしすぎよ」そう言う母さんのその顔は、完全に般若の顔をしていた。
「はいーー、すみませんでしたー!」
もうええてこのやり取り。
全く、仲良くさせたいのかさせたくないのか、どっちなのやら・・・。
「ところでクレアの家ってどこなんですか?」
我が家のある場所は、エリーゼア王国の王都より東に進んだ所にある。ここは東の隣国との境目に面している町でもある。
こういってはなんだが、王都から微妙に離れている町ゆえに、人もそれほど多くは住んでおらず辺鄙なところといってもいい。
それでつい、家は何処なのかと聞いてしまったのだった。
「クレアじゃなくて、クレア姉さんでしょ!」
あ、そのこと完全に忘れてた。
「じゃあ改めて、クレア姉さんの家ってどこなんですか?」
「そんなもの無いわよ」
「はい?」
「だから私の家は無いって言ってるの!」
「いや、どうしてですか? まさか家出でもしてきたわけじゃあるまいし・・・」
「そのまさかよ」
「えええ!?」
「あらあら。何か訳ありとは思っていたけどまさか家出少女だったのねー」
「いやいや母さん、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないですよ。きっと今頃クレアのご両親が心配しているはずです。早くどうにかしてお知らせしないと」
「それはやめて!」
気付けば、クレアは切羽詰まっているような表情を見せていた。
「家には帰りたくないの。だからお願いです。どうかこのことは誰にも言わずに秘密にしてください」
それは彼女の、心からのお願いのように聞こえた。
「わかったわ。そういうことなら事情も聞かないでいるし、なんならここに寝泊りしても良いわよ」
「いえそんな、さすがにそこまでして頂くわけには・・・」
「いいから遠慮せずに、こういう時は甘えるものよ。それに、我が家は誰でも歓迎の宿屋ですから!」
「え、ここって宿だったんですか?」予想外の事実にクレアは戸惑う。
「実はここ、うちのじいちゃんが主に切り盛りしてる宿なんだ」
「なんじゃ呼んだかの?」どこからともなく、ヌルっとじいちゃんが現れた。
「ひいっ!」急に視界に現れたじいちゃんに驚くクレア。
「もうー、お義父さんったらー。もうちょっと普通に現れてくださいよ。心臓に悪いんですから」
「いやー、すまんすまん。久しぶりのお客さんと思うと嬉しくてのー」
「あの私、クレア・フィッシャーって言います」
「おお、話は聞いておったぞ。お客さんならいつでも大歓迎じゃ。どうぞ好きにうちの宿を使っとくれ」
「あの実は私、お金とか持ってなくて・・・」
「そんなこと気にせずともいいんじゃよ。お金は後で払ってもらえればそれで良い。それよりも、こんな小さい娘っ子一人を外で野宿させる訳にもいかんよ。だからほれ、気にせず泊まりなさい」
クレアの顔がぱあっと明るくなる。その彼女の表情は、まるで久しぶりに人の温もりに触れたというような儚い表情をしていた。
「皆さん、ありがとうございます! これからお世話になります」
「ようこそ我が家へ!」
こうしてニーマン一家とクレアの、賑やかで奇妙な暮らしが始まるのであった。
翌日。
「それじゃ、これから私とあなたたち二人の三人で、びしばし魔法の力を磨いていくわよ!」
「はい! お願いします!」二人は同時に応える。
「まずは、改めて魔法の基本的な知識からおさらいしていきましょう。それじゃアレン、説明よろしくね」
「え、えっとー、魔法とは主に火、水、土、風のそれらを性質や形状を変えたり、自在に操れる力のことを言います。またそれらのものを複製することも可能です。ただし、大抵の場合オリジナルのものよりも劣化しています。そしてそれら魔法の力を使用するためには、自分の体内にある魔力というものを用います。魔力とは魔法の源となるものであり、誰もが生まれたときから備わっているものです。ですが、ほとんどの人の魔力量はそれほど多くはなく、生まれた時の最大魔力保有量は増えることはなく変化もしない」
「って感じですかね」
「よろしい。基本的な知識はちゃんとついているわね」
「じゃあ次にクレア。あなたは自分の取り柄は魔法だけだと言っていたわね。 だとしたら実際に魔法を使えるということ。ならその方法も知っているわよね? 説明してみて貰える」
「はい、任せてください!」
「魔法を使用するには主に魔道具か、もしくはルーン文字を用いて行います。例外的にこれらを用いず魔法を使用することも可能ですが、その場合魔力消費量が多くなってしまいます。それを防ぐために魔道具を使用することで魔力消費量を軽減する意図があります。ルーン文字については・・・すみません、私は説明出来るほど詳しくないんです」
「ありがとうクレア。そこまで説明出来れば充分だわ。じゃあ次は―」
その後は大まかな魔法についての説明を母さんから受けた。
その内容はこうだ。
魔法を使うには火、水、土、風のそれらが既に存在しうる環境下でのみ行えるものである。
つまり魔法は無の状態からでは何も出来ない。既に無から有へとなった状態のものを物質として自在に操れるようになったもののことを言う。
例えば火が既に存在している状態ならば、魔法でそれを自在に操ることは出来る。
その反対に、魔法で火を生み出すということは出来ないということらしい。
平たく言えばこの世界での魔法は、ゲームや漫画であるような、何もない所から急に炎や氷が出現するものではないということだ。
これに関して俺としては、正直ちょっとガッカリではある。
それともう一つ言っていたのは、魔法を使用する際に魔道具を用いた時とそうでない時とで、何故魔力の消費量が違うのかということ。
まず第一に魔法は魔道具を使わずとも、魔法の詠唱のみでも使用することが出来る。
が、この場合自分の体内にある魔力を制御するのが困難を要する危険が伴う。
また、大幅な魔力量を消耗するとのことらしい。
これを防いでくれるのが魔道具ということなのだ。
しかも、魔力を宿したマナクリスタルと呼ばれる鉱石をコアとして作られているので、その宿している分、体内の魔力を節約出来る仕組みとのこと。
これも簡単に言ってしまえば、魔力が電気で魔道具は電球という例えなら分かりやすいだろう。
どちらも片方だけでは意味はない。
両方揃って始めて意味をなすものだ。
要はこの世界では電気(魔力)だけでも効果は出せるが、その場合コスパが悪いので電球(魔道具)を使いましょうという認識で良いだろう。
しかもその電球はLED電球のようなコスパ性能が搭載されているのだ。
こんなもの使わない手はないだろう。
でも待てよ。
母さんに見せて貰った魔法では、確か魔道具を使っていなかった。
しかも魔法の詠唱のみだった気がする。
果たしてあれはどういうことなのだろう・・・。
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