第9話魔法が織りなす雄大さ

真珠のように美しく輝く、白い髪と肌。


灰色をした目。


その目は、全てを見通しているかのような見識の目。


凛と佇むその姿は、彼女の持つ自信と情熱を表さんとしているかのようだ。


これが[ルーンの申し子]と呼ばれる彼女、アン・ニーマンの容姿風貌である。


ほんと、父さんとは似ても似つかないよなー。


どうやって二人が出会ったのか気になるものだ。


「どうしたのアレン? 何か考え事をしているみたいだけど」


「あ、いえ、なんでもありません」


「そう? ならいいんだけど」


「それよりどうして庭でやるんですか?」今日は何故か庭で魔法を教えるからとのことで、僕と母さんは庭に移動した。


「その方が都合が良いからよ」


「その方が都合が良い・・・?」


「まあ、見れば分かるわ」


そういうと、母さんは予め用意していたのであろう、金魚鉢に似た形のガラスの器を台の上に置いた。


そしてそれに水を注ぐ。


並々にまで注ぎ終わると「少し後ろに下がるわよ」と僕を促した。


僕は言われるがままにする。


「この辺で良いわよ」


言われた通りにそこで止まった。


一体これから何が始まるのだろう。


呆気にとられる。


と、次の瞬間、「水よ、湧き上がれ!」。


勢い良く母さんが魔法を唱えたのだ。


すると忽ちに、先ほどの水の入った器からまるで噴水のようにして、勢いよく水が舞い上がった。


「おおー!」


僕は興奮を抑えきれずに声を出す。


見るものを圧倒させる景色が、そこに広がる。


「まだまだこれからよ、アレン」


「彼の水よ、凍り付け!」


!?


また魔法を唱えた。


それと同時に、噴水のようにして舞い上がっていた水が、全て一瞬にして凍った。


まるで一本の氷の柱のようにして、そこにそびえたつ。


もはや言葉も出ないくらいの驚嘆を覚えた。


「彼の氷よ、砕け散れ!」


更にそう唱えると、忽ちに氷が音を立てて割れていき、最後には砕け散った。


一粒一粒の氷の結晶。


それが氷の霧のようにあたり一面に、散る。


とても儚く美しい光景だ。


「凄いです母さん!」


「ふふふ。ありがとう」


「僕にも、今のようなことが出来るようになれますか?」


僕は無性に、聞かずにはいられずに結論を急かした。


その問いに母さんは「ええ、アレンならきっと出来るわ」と即答する。


「そのためにも、私がたくさん魔法のことを教えてあげる」


その言葉は僕の中で、とても頼もしく響き渡る。


僕は今、とてつもない情熱の衝動に駆られているのが分かった。


その情熱はこれから待つ数多の冒険を、まるで予期するかのようにアレンの心を奮い立たせた。


アレンの異世界での人生はまだ、始まったばかりである。






アレンとアン。


その二人の親子の様子を、木陰からじっと見つめている者がいた。


幼い少女の身なりの者。


「ズルい。こんなのズル過ぎるわ。あの子さえいなければ・・・。あの子さえいなければ、私があの人と一緒に・・・」


少女は一人、どす黒くそう呟く。

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