第8話偉大な過保護の母
「おはよう」
居間の長テーブルで、朝食を食べているじいちゃんに僕は挨拶をした。
「おお、おはよう」おっとりとした口調でじいちゃんは返した。
「あ、おほようー、アレン!」キッチンの方から居間に来た母から挨拶を受ける。
「おはようございます、母さん」元気に挨拶を返す。
すると突然、母さんが僕を胸元に抱き寄せ、お互いの顔が向かい合う形になる。
母さんは両手で包み込んだ僕の頭をよしよしっと、撫でている。
「んうもうー、本当に可愛いんだからアレンはー」その様子は興奮気味といったところだ。
「ちょ、母さん苦しいですー、離してください」
「ダーメ。昨日、あの人にアレンを独り占めされてた分、今日は私が独り占めするんだからー」
「ううー、苦しい」僕はジタバタともがいた。必死に抵抗する。
「そのへんで止めてあげなさいな」じいちゃんが冷静に言う。
「はーい、お義父さん」残念がりながら母さんが僕を放す。
ようやっと僕は解放された。
少しの間を置き「それじゃ、一緒に朝食にしましょう」と母さんが言った。
「そうですね。僕お腹空きましたー」
いつも母さんは、僕が起きてくるのを待ってから朝食を食べる。
前に一度その理由を聞いた時「朝食は絶対アレンと一緒に食べる決まりなのー」と、何故か豪語していたのを思い出す。
どんな決まりだよ!
まぁ、別にいいっか。
こうして家族と一緒に食べられ幸せなんて、前世では味わえなかったし。
そういえば父さんはどこだ?
朝から姿を見ていない。
「父さんはどうしたんです?」
「ああ、あの人なら今朝早くにギルド館に行ったわよ。なんでも急な仕事が入ったみたいで」
へー、めずらしいこともあるんだな。
彼はギルド長になってからというもの、ほとんど書類仕事に追われる日々へとなった。
役職が上がると同時に、現場仕事ではなくなるのはこの世界でもあるあるな話という訳なのだ。
そうなると、急な仕事とは現場に出向く必要のあること。
父さんでないと手に負えない案件。
つまり、強い魔物が出現したということか!
「父さんの身に何も無ければ良いのですけど・・・」小さく呟く。
「大丈夫よ。あの人がすっごく強いのはアレンも知ってるでしょ?」
「あの人ならきっと無事に帰ってきてくれるわよ」
その言葉は、彼をとても信頼している証しから出ている言葉であった。
その言葉は僕の不安を拭うには充分であった。
「そうですね。父さんならきっと大丈夫です」
「ええ」
母さんが微笑む。
「それで、話は変わるのだけれど。今日は私がアレンに魔法を教えたいと思いまーす!」
「え、本当に? 良いんですか!?」
「もっちろーんよ!」
「やったー! 久しぶりに母さんから魔法を教われる!」
「ありがとうございます!」
「でも母さん、自分の研究で忙しいんじゃないんですか?」
「そんなこと気にしなくても良いのよ。むしろ私がアレンに魔法を教えたいくらいなんだから」
「昨日も言ったけど、アレンには魔法の才能があるの。その才能は、いずれ私を超えていくくらいに”特別な才能”だわ。だから、それを伸ばすためにも今はおおいに学びなさい。そして私を超えていきなさい」
「いや、そんな力が僕にあるとは思えません」
「今はまだ、ね」
それは、どこか確信のあるような言い方に聞こえた。
僕に特別な才能があるとは果たしてどういう意味だろう。
もしかしたら、それは紡ぎ人の役目と関係のあることなのではないか。
とはいえ、今それを考えたところで仕方のないことだ。
ん?
母さんが何やら一人でぶつぶつと言っているのに気が付いた。
「ふっふっふ。今日はあの人がいないからアレンを独り占めする絶好のチャンスだわー。最近、私の可愛いアレンと触れ合う時間が足りなかったのよね。それもこれもあの人がいつもアレンを独り占めしているせいだわ」
・・・。
なんかごにょごにょと言ってる気がするけど、気にしないでいよう。
「・・・、いっそあの人のこと、殺しちゃおうかしら」
母さんが小声でそう呟いたのは、きっと妖怪のせいか何かの仕業だろう。
うん、きっとそうに違いない。
にしても嬉しいなー。
魔法研究の第一人者であり。
そして、エリーゼア王国にアンありとまで謡われるほどの実力の持ち主。
その母さんに教えて貰えるなんて。
そう、彼女の名はアン・ニーマン。
巧みにルーン文字を操り魔法を生み出す、その様。
その様を[ルーンの申し子]と人は呼ぶ。
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