第7話他愛もない父と母の日常

「ただ今戻りました」


母さんが歩み寄り。


僕の肩に両手を置き「今日もお疲れ様、アレン」と優しく囁く。


「はい、母さん!」


「おう、アレン、今日もご苦労だったな」


昼間は寝ていたらしいおじいちゃんから、労いの言葉を貰う。


「うん、ありがとう。おじいちゃん」


「ねえアレン、その様子だと、今日もこの人に厳しくしごかれたみたいね」


そう言うなり母さんは父さんの髭を弄んだ。


「いてっ!」


何か聞こえたが知らんぷりっと。


「何すんだよ!?」厳つい声で父さんが言う。


「あなたが私の可愛いアレンにいつも厳し過ぎるから、そのお返しよ」


「厳しくして何が悪いってんだよ?」


「悪いわよ! そりゃ剣を習うのも大事だけど、アレンは魔法の才能もあるのよ!」


「その才能も、あなたの熱血指導のせいで全然活かせないじゃない!」


「いいだろ、どうせ魔法なんてそんなに大したもんじゃないんだし」


父さんそれ、悪手だ。


この世界の魔法研究の第一人者である母さんに、その言葉は地雷である。


「・・・。今度また同じこと言ったら・・・、殺すわよ」


母さん目がコワイっす。


血走っちゃてます。


「すみませんでした」


さすがの父さんも、身の危険を感じたらしく、ここはおとなしく謝罪した。


その後も夫婦のお話合い(喧嘩)は続く。


まったく、夫婦喧嘩は犬も食わないっての。


「ほほほほ。これは愉快なものがまたみれそうじゃわい」


マジかよじいちゃん。


ていうかもう、早く寝たい。






しかしほんとに母さんって強いよなー。


あんなに厳つい見た目の父さんと喧嘩するなんて。


しかも負けた試しがない。


僕だったら怖くて父さんと喧嘩なんか出来る訳ない。


そう、きっと誰もが彼の容姿についてこう思うに違いない。


強面過ぎると!


彼の容姿を説明するならきっとこうだ。


まるで、燃える太陽にも負けず劣らずなほどの輝きを放つ真っ赤な髪と髭。


獲物を狩る獣のようにも見える鋭い眼光。


右目とその上にある眉毛を裂く稲妻模様の傷痕は、彼の勇猛さを表さんとしているかのようだ。


彼の名は、レオン・ニーマン。


この世界でいうところの傭兵ギルドを束ねるギルド長である。


幼少の頃より武芸に秀でていた彼は、傭兵として若いころから他国との戦争での功績や、魔物討伐の活躍などで頭角を表し名を上げていった。


今では彼のその容姿風貌から[赤毛の獅子レオ]という異名で国内外に広く知れ渡っているようだ。


そんな偉大な彼を父に持つ俺は、前世での人間通改め、現世ではアレン・ニーマンとしてこの世に生を受けた。


俺が生まれてから速いもので、7年の歳月が流れた。


エイデナの言っていたように、前世の記憶を持ったまま生まれた俺は、当然だが精神年齢も前世から引き継いでいる。


多分そのおかげか知らんが、俺は生後から半年後には両足立ちが出来るようになり、その1年後にはこの世界の言語を読み書き出来るようになっていた。


と言うのも、この世界の言語は形がどことなくアルファベットに似ており、かつ文法も英語に近いものであったので、前世の記憶持ちの俺としては割とすんなり習得出来た。


そのおかげで両親は「我が家から1000年に一度の天才が生まれた」と、それはもう大騒ぎであった。


まぁ、前世では勉強自体そんなに得意な方ではなかったので、むしろ習得までに1年も要してしまったとも言える。


前世の記憶持ちというチートがあるから、本来もっと速く習得出来たはずなのである。


父さん、母さん。


ごめん。


僕は本当は天才なんかじゃなくて、ただの凡人なんだ。


今までのことを振り返りながら、アレンは心の中で家族に懺悔し、眠りにつく。

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