第6話強くなるための厳しさ
内心、父さんが機嫌を悪くしていないかと不安になりながら、アレンは父のもとへと急いだ。
「待たされるの嫌いな人だもんなー、父さんは」と、僕は呟く。
もっとも鍛錬の間だけは父さんとは呼ばずに、先生と呼ぶことになっている。
僕にとって、彼は父であり剣の師匠でもあるわけなのである。
「こっちだー、アレン」
声のした方向に僕は視線を向ける。
屈強な肉体を持ち、長身でもある男が、いかにも武道家といったいで立ちでそこに立っている。
「お待たせしましたー」
「まったくだ」
案の定機嫌が悪いようだ。
「鍛錬がイヤだから逃げ出してしまったのかと、今しがた思ってたところだ」
「あー、確かにいっそのこと逃げれば良かったかもなー」
「もし本当にそうなったら、お前の晩飯は抜きにするからな!」間髪入れずに父さんがそう言い放つ。
その目は殺気だっている。
マジで怖えー。
「や、ヤダなー、もう。冗談に決まってるじゃないですかー」
半分本当だけど。
「なら良いんだがな」
「いつも言っていることだが、日頃の鍛錬こそ、己の心身を形作る基本だからな」
「それは分かっていますけど、こうも毎日剣を振るばかりでは疲れます。それに、たまには違うこともしたくなるものです」
「気持ちは分かるが仕方がない。この世界で生きるということは、自分の身を守る術を覚えていくことと同じことだからな」
「それは”魔物の脅威”に備えろという意味ですか?」
「そりゃー、色々だ」
言葉を濁された。
この世界に巣食う異形の存在。
それが魔物である。
その脅威について、僕はまだ噂程度にしか知らない。
だからこそ、父さんから魔物について色々と詳しく聞いてみたったのだが・・・。
「まあ、お前はまだ子供だから知らなくていいことだ。これからイヤというほど思い知らされるだろうからな」
「そういうものですか」
「そういうもんだ。そんなことより、そろそろ始めるとするぞ」
「はい!」
それぞれ距離を取ってから、両者剣の構えに入り互いに挨拶をする。
静寂があたり一面を包み込んだ。
重たい空気が漂い始める。
一瞬の気も許されない緊張感。
アレンは鼓動が速くなっているのを感じていた。
二人の間に深い沈黙の時が流れる。
その刹那。
まるで二人の沈黙を切り裂くかのように、片方の剣先が躍動を魅せんとする。
すでに剣の火蓋は切って落とされたのだ。
先に仕掛けたのは父さんの方からである。
素早い身のこなしで一気に間合いを詰められる。
太い腕から振るわれたその剣を、とっさに防ぐ。
くっ・・・、重い。
衝撃が腕に走る。
「脇が甘いぞアレン」
キーン。
鉄どうしがぶつかり合う鈍い音が鳴り響く。
あっけにとられると同時に、気付けば剣が宙を舞っていた。
地面へと突き刺さる剣を僕は見届ける。
「参りました」
「まだまだだなー、アレン」
フンッと、小さく鼻を鳴らしたのが聞こえた。
もうー、本当にこの人強すぎだってのー!
夕日に照らされながら舞う二本の剣。。
やっとそれが鞘に収めれる時がきた。
「よし。今日はここまでとする」
正午からずっと繰り広げられてきたこの長い死闘も、ようやく終わった。
「うう・・・、は・・・、い」
もやはアレンの疲労は限界を迎えていた。
今日も手ひどくしごかれたものだ。
まったく、スパルタ教育もいいところだよ。
「帰るとするぞ」
「は~い」半分寝た状態で返事をする。
「乗ってけアレン」
「ん・・・?」
気付けば、父さんが屈んだ状態で僕を促していた。
「今日はいつもより厳しくしたからなー、その分疲れただろ?」
「だから、ほれ。乗ってけ」
どうやら、おぶってやるから乗れということらしい。
なるほどそれならば、そのお言葉に甘えようではないか。
とは言え、ここは庭なので家はすぐそこではある。
「はい! ありがとうございます!」
父さんは僕を肩に担ぐと、そのまま家へと足を伸ばした。
「言っとくが、こういうことは今日だけだからな」
ぶっきら棒に呟く。
「分かっています」
二人の親子は沈み行く夕日を見届けて家に帰る。
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