別れ(悲)

「別れよう、俺達……」

剛が言った言葉。胸をえぐられるようなセリフだった。

別れ話をされるであろう予測はあった。

でも、実際のその言葉は、どんなに心の準備をしていても、無意味だと感じるくらいの衝撃だった。

「どうして?」

かろうじて出た私のセリフ。

「………、好きなコができた………」

理由など、どんなものでも確実に傷つくのは解ってたのに、聞いてしまう私もどうかしてると思う。

私は感情が不安定になり、思った事を口に出しまくった。

「剛から付き合ってくれって言ったんじゃん!なのに他に好きなコ作ったの?!」

解ってる。人の心は一定に保てないんだから、何がきっかけで他の人を好きになるかなんて解らないことを。

「ごめん…」

「最初に言ったよね?私達、学校が違うけど大丈夫?って!私は女子校で剛は共学だから心配だよって!剛は大丈夫って言ってたじゃん!」

こんな事、言っても意味は無いって解ってる。でも言わずにはいられなかった。

「ごめん…」

「私、頑張って剛の学校まで迎え行ったりしてたんだよ!」

多分、剛のほうが私を迎えに来てた事の方が多い。

自分がしてきたこと以上に、剛はしてくれてたのに、私は被害者ぶって剛が悪いって事にしたがっている。

最低だな…、こんなんだから他のコに取られちゃうんだ…

「本気じゃなかったんでしょ?私のことなんか…」

「そんなことない!」

剛は叫んだ。

「本気で好きだったよ、真由のこと!」

過去形なんだね。

解ってるけど、悲しいよ…

涙が溢れ出てきた…

私が悪かったこと、たくさん理解してる。

剛の優しさに、あぐらをかいて良い彼女になるのを疎かにしてたことも認める。

でも、もう少し時間が欲しかった…

自分勝手なのは解るけど、まだ終わってほしくなかった…

剛がずっと私の事、好きでいてくれると思ったから…

二人の時間は同時に流れてるけど、気持ちは同時に流れてないんだね…

もっと言いたいことがあった。

でも、それを全て口にしたら、剛の愛情を何も感じてなかった、嫌な元カノになってしまうと思った。

今の私は感情的になって、嫌な事しか言えない気がしたから…

「……解ったよ……。私こそゴメンね…」

泣きながら言う言葉は、これが精一杯だった。

剛も泣いていた。

あぁ、この人は最後まで優しい人なんだな…

私はこんな優しい人と別れなくちゃいけないんだ…

イヤだな…別れたくないな…もっと、剛の笑顔が見たかったな…もっと剛のぬくもり感じていたかったな…もっと剛と色々な所に行きたかったな…

私は身体中の水分が無くなるんじゃないか、と思うくらい涙が止まらなかった。

でもきっと、こんな私に一生懸命付き合ってくれた、優しい剛に言わなくちゃいけないんだ。

どんなに胸が引き千切れそうになっても、最後に言わなくちゃいけないんだ。

それが剛への感謝だから。

「今までありがとう。剛と付き合えて良かった。さ…」

最後の言葉がすぐに出なかった。

これを言ったら、本当に私と剛の恋愛は終わってしまうと思ったら言えない…

でも、それでも、言わなくちゃ!

「さよなら」

泣き顔で、頑張って作った笑顔で剛に言った。

剛はさっきよりも涙をこぼしていた。

私はそれ以上、剛の顔を見れずその場から走り去った。

泣きながら走った。

色々な思いが頭の中を駆け巡っていた。

剛の優しい笑顔が浮かぶたび、私の胸を締め付けた。その度に涙が溢れ出た。

終わってしまったんだ。大好きな人との恋が……

どれくらい走ったのだろう。

限界と思えるくらいまで走った。

息苦しいのに、それでも悲しみのほうが大きかった。

「終わっちゃうの、ヤダよ…」

私は呟きながら、その場に座り込んでしまった。

しばらく立てなかったけど…

でも、帰らなくちゃ…

帰ってから存分に悲しもう…

泣きすぎたせいか、ほんの少しだけ落ち着いた。

私は立ち上がって、家に向かって歩き出した。

『明日、学校休みで良かった…』

涙を拭いながら、心からそう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る