コンビニの恋(笑)

俺は今日も残業で、会社帰りにいつものコンビニに寄っていた。

乗り継ぎを6回もしないといけない、もはや旅ではないのか?と思う通勤も1ヶ月になる…。

田舎に住む俺の地元は、コンビニすら無くて、ここで晩飯を買わないといけないのだ。6回もの乗り継ぎのせいで、乗るべき電車は決まっており、このコンビニに寄る時間も限られている。

そして、その限られた時間はいつも混んでいるのだ。

でも、このコンビニに寄るのは、俺の唯一の楽しみでもある。

いつもいる店員の女の子が、めちゃくちゃ俺好みなのだ。

しかし…、レジはふたつあり、1つは好みの女の子、もう1つは外国人マッチョで、なぜか俺は外国人マッチョの方で、いつもお会計をしている…。

俺がコンビニに到着すると、必ずレジには人が並んでいて、時間のない俺は並び方の調整をする余裕など無い。

成り行き任せに並んでいると、いつもマッチョにお会計をされるのだ。

そして今日も…。

「イラシャイマセ。オマエイツモクルナ。」

大きなお世話な上に、敬語はどーした!

しかも、毎度気になるのが

『制服のサイズ絶対間違ってるだろ!』とツッコミを入れたくなるほどピッチピチで、前のボタンが厚い胸板でいつか弾け飛ぶんじゃないかと心配になるほど、ギリギリなのだ。

ブチンッ!

ビターーンッ

弾け飛んだボタンが、俺の額に張り付いた。

『心配してたことが、今この瞬間現実に!』

俺は心の中で叫んだ。

「オーマイガッ!オベントウアタタメマスカ?」

俺の額の中央に張り付いたボタンを見ながら言うマッチョ。リアクションまとめやがった。

会計が終わって店を出る時、横目でお気に入りの彼女を見た。

笑顔で接客をしていた。

『やっぱりかわいいなぁ。』

そんな事を思いながら、電車が来る長い待ち時間の間、弁当を食べていた。


次の日、俺は会社の飲み会のせいで、終電を逃した。

「今日は満喫に泊まるかぁ、明日休みでよかったわ…。呑み足りないし、小腹も減ったからいつものコンビニ行くか…。」

その時、俺は閃いた!

この時間なら、コンビニ空いてるんじゃないか!そうすれば、あのコに会計してもらえる!

でも、こんな遅い時間じゃ帰っちゃってるかもしれないな…。

などと考えながらコンビニに到着。

「うおおおおおおおおおおおお!」

いた!まだレジにいた!俺のお気に入りの彼女が!

俺は興奮を抑えながら、紳士(?)のように来店した。

『よし!客もいない状態だ!今しかない!』

俺は酒を2本と豪華な弁当(見栄を張る為)を持ち、彼女のいるレジへ向かった!

「いらっしゃいませ。」

笑顔で言う彼女。

『ふわぁ、声もかわいいー!』

心の中で変質者一歩手前な奇声を発しつつ、冷静に財布を用意した。

「今日は遅いんですね。」

彼女のセリフに

『はーーーん!覚えててくれたーーん?』

と心の中で奇声を発しつつ、冷静に

「覚えててくれたの?」

と聞いた。

酔っ払ってるせいで、恥ずかしさを封印できてる俺。

「はい、額にマッチョの弾けたボタン付けてた人ですよね。」

彼女は笑顔で言った。

『確かに心に残る!額にボタンつけた男は!てか、マッチョって呼ばれてるのか!あのマッチョ!』

俺がなんとも言えない顔をしてると

「冗談ですよ。いつもの来てくれてるから、ちゃんと覚えてますよ。」

ぬおおお!眩しい!なんて眩しい笑顔なんだ。

「そっか。それは嬉しいね。俺はいつも君に会計してもらいたいと思ってたのに、なかなか会計してもらう機会が無かったから、覚えてくれてないかと思ったよ。」

おー、酔っ払ってる俺は、なんかスラスラ喋れてるぞ。

「気持ち悪いですね。」

彼女は笑顔で言い放った。

『え?!気持ち悪い言われた?俺?』

「いつも、こちらをチラチラ見てたから、気持ち悪いと思って、こちらに会計来ないように調整してたんですよ。」

天使のような笑顔で言う彼女。

『ドゥフッ』

出したことのない声が出そうになった。

「冗談ですよ。」

「どこから?!」

思わずツッコんでしまった。

「調整してたってとこですよ。」

「そっか、じゃあ気持ち悪いってのは本音なんだね。」

「今日は遅い時間の来店ですね。」

「あ、今の俺のセリフはスルーなんだね。今日は会社の呑み会があって、そのせいで遅くなっちゃったんだよね。」

「あー、だから口臭いんですね。」

「え?!酒臭いなら分かるけど、ストレートに口臭いの俺?」

「冗談ですよ。」

「鼻つまみながら言ってる状態は、冗談に聞こえないけどね。」

「終電終わってますけど、大丈夫なんですか?」

「あ、やっぱりスルーなんだね。とりあえず満喫にでも泊まろうかと思ってるよ。」

「でしたら、お店を出て右に曲がったところに『滅滅喫茶』っていう満喫がありますよ。部屋は狭くて汚くて、なんか臭いし。さらに、店員の態度が最悪な上に、料金がバカ高いんですよ。オススメです。」

彼女は相変わらずの天使のような笑顔で言った。

「なんでそんな最悪店舗紹介してるの?!」

「ごめんなさい!お似合いかと思って!」

「あぁ、お似合いなら仕方ないね。今夜はそこに泊まる……わけないやん!」

関東生まれ関東育ちなのに、関西弁になってしまった。

ノリツッコミまでして……。

「お客さん、面白いですね!」

彼女はクスクス笑った。

笑った顔が俺のハートを鷲掴む。

『ん?てか、このコ、ちょっと変わってるのか?明らかに普通の感じとは違う気が…

今更そんな事を思い、チラッと彼女の顔を見ると、かわいい笑顔でこちらを見てる。

『かわいいから、いっか!』

俺は壊れてるのかもしれない。

「お弁当は温めますか?」

「あ、お願いします。」

「じゃあ容器が溶けるまで温めますね。」

「最近のコンビニは高性能な電子レンジ置いてるんだね。」

なんか、このコとのやり取りの感覚が掴めてきたぞ。

「でも君こそ、こんな遅くまで仕事してて大丈夫なの?」

「個人情報を聞くための、誘導尋問ですか?」

「え、比較的、一般的な会話のつもりが、そんな疑わしい視線を受けてしまうのかな?」

「冗談ですよ。ちょっと警察に電話してきていいですか?」

「冗談に聞こえない行動を始めようとしてるよね。」

「フフフフ。お客さん、本当に面白いですね。」

はぐっ!その笑顔のためだったら、俺のスマホ使って警察に電話していいよ!

「すいません!無駄話で引き止めてしまって!お会計しますね。」

「大丈夫だよ。俺も楽しいし。」

「楽しんでるのは、お客さんだけですよ。」

「ですよね。」

もはやコントだ。

「クスクス。合計で1260円です。」

「じゃあこれで。」

「1500円お預かりします。240円のお返しです。」

はうっ!俺の手に直接触れて、お釣りをくれた!いや!分かってる!これは業務なんだ!特別じゃないんだ!でも、嬉しい!

ヤバい持病を持っているかのごとく、俺は嬉しくて若干痙攣してしまった。

「クスクス。袋はお付けしますか?」

そんな俺を見て、笑いながら彼女は聞いてきた。

「あ、お願いします。」

「どの辺りに付けましょうか?」

「じゃあ、左胸辺りに…。って体に付けるの?!」

「アハハハ!」

彼女は思い切り笑った。

そんな彼女を見て、俺は思った。

『好きだ!』

この笑顔の為なら、どんなボケにだって俺はツッコめる!例え、俺をディスったネタでも!

歪んだ恋の誕生だ。

「じゃあ、夜遅いし、変な客来たら気をつけるんだよ。」

「変な客は、今会計終わったところです。」

「ですよね。」

もはや、当たり前のやり取りになっていた。

俺が店を出ようとすると

「ありがとうございました!また来てくださいね!」

彼女は笑顔で言った。

はーーーーん!かわいいよーーー!

変なコだけど、かわいいよーーー!

俺は満面の笑顔を彼女に見せた。

「気持ち悪いですよー」

「ありがとうー」

お約束のやりとりで、俺はコンビニを出た。

「タノシソウダッタジャナイカ。」

「!っ、マッチョ?!」

コンビニの外にある喫煙所に、ピチピチのTシャツと短パンを装備したマッチョがタバコをふかしていた。

「あんなに楽しそうに接客してる彼女を見たのは、初めてかもしれないな…」

「マッチョ…」

「確かに彼女は常に笑顔だが、それは営業スマイルだ。それ以外の笑顔を見たことが無かったからな…」

「マッチョ…」

「たいしたヤツだよ、アンタ!」

「マッチョ…。日本語めっちゃ流暢に喋るやん…」

「アレは営業用だ。カタコトで喋ってれば、色々見逃してもらえるからな。」

「最低。」

「しかし!いい気になるなよ!彼女を狙っているのはアンタだけじゃないぜ!」

「なに?!」

「ありとあらゆる客が、彼女の笑顔を我が物にしようと、日々アタックしまくってるのだ!」

「なんだと!確かにあのかわいさ(トンチンカンな所は敢えて無視)なら、狙われて当然だが…」

「当然だ。そして、この俺もその1人だ!」

「なんですって!」

なんて夜なんだ!熱くなってきたぜ!

そうさ!恋は突然で、障害はつきもので、人生に必要なスパイスなんだ!

「早く帰らないと警察呼びますよー」

突然現れた彼女はそう言って、笑顔で一礼して店内に帰って行った。

『好きだ!』

俺とマッチョは心の中で叫んだ。

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