告白2(普)
激しい雨が降る中、俺は傘もささずに走る美咲に追いつき引き止めた。
「放してよ!」
俺の手を払い、息を切らせながら美咲は立ち止まった。
「もう、加山先輩のことは諦めろよ。」
俺は呼吸を整えながら美咲に言った。
「なんで幼馴染みだからって、アンタにそんな事を言われなきゃいけないのよ!」
「たった今、3回目の告白を断られたんだろ?加山先輩には彼女いるんだから無理だよ。」
俺は冷静に美咲にそう告げた。
「なんで知ってるのよ!」
「いや、たまたま美咲と加山先輩が話してるのを見かけて、美咲がショック受けた顔して、走り出したの見て理解した。」
「なんで3回目って知ってるのよ!」
「いや、お前が告白の度に俺に報告してただろ。」
感情的に喋る美咲。
感情を表に出さず、冷静に話す俺。
対象的な二人が雨の中、傘もささずに対峙している。
俺は傘を持っていたが、美咲を追いかけるのにジャマだと思い、ささずにいたせいで俺もずぶ濡れだ。
「なんで諦められないんだ。」
俺の問に
「だって……好きなんだもん…」
うつむきながらそう言う美咲を見て、俺の心に痛みが走る。
この痛みの原因は、何となく解ってはいたが確信は無かった。
美咲と俺は小学生からの幼馴染で、恋愛に興味が無いといった感じの二人だったが、美咲は高校に入り、同じ陸上部の加山先輩を好きになった。
初めての恋心らしく、美咲はことあるごとに加山先輩とのことを俺に報告してきた。
その頃からだろう、この胸の痛みが出始めたのは。
美咲は感情的で、思った事をすぐ行動に移す。良く言えば『積極的』、悪く言えば『酔っ払ったイノシシ』だと俺は思う。
俺はその真逆で、感情をほぼ表に出さない。いや、出し方が分からないといったほうが正確か。昔から感情に乏しく、そんな俺に近づく人間も少なく、友達と言える関係の人物はいなかった。美咲を除いては。
美咲はなぜか俺によく絡んできた。
面白がっていたんだろうと思う。
どんなに美咲が感情的にぶつかって来ても、冷静に対応できるのは俺ぐらいなものだったし。
どんなものもなぎ倒して走り続ける美咲を、俺は最後に止める壁の役割なんだと思っていた。
でも今はその壁を美咲は、ぶち破ろうとしている。
「なんでアンタはそんなに加山先輩を諦めろって言うのよ!恋愛は先着順じゃないでしょ!」
「それでも、お前に好意があるなら加山先輩は、彼女と別れてお前と付き合うだろ。でも、3回も告白して断られるってことは、お前は彼女には勝てないってことだろ。」
美咲が叫べば、俺が冷静なトーンで返す。
昔からのやりとりだが、少し俺の言い方に力が入ってる気がした。
「昔っから正論しか言わないもんね誠二は!人を好きになったことあるの?」
「あるよ。」
「誰よ?」
「美咲、お前だよ。」
場が静まり返った。
「なななな、なんつータイミングで告白してんのよ!アンタは!」
美咲は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「俺もそう思う。」
確かになぜ口からポロっと出てしまったのか、俺も謎だった。
いや、謎じゃないな。俺は美咲と加山先輩が付き合うのが嫌なんだ。
自分の好きな女が、他の男と付き合ってしまうのが嫌なんだ。
美咲に自分の思いを伝えた事で、自分の本音に気付いてしまった。
「ア、アンタはイケメンで、スポーツもできて頭も良いし、女子からの人気も高いんだから、私みたいな『酔っ払ったイノシシ』じゃなくても、良いコたくさんいるじゃない。」
「お前じゃなきゃイヤなんだ。」
俺は冷静な口調で言ったが、心は冷静ではなかった。
「なんで……なんでこんな時にそんな事言うのよ…」
美咲は泣き出した。
「アンタからの告白、嬉しく思ってるのに、それでも加山先輩が好きって気持ちがあって、私って最低だって思って……頭の中ゴチャゴチャだよ…」
明らかに今まで見てきた美咲の泣き方では無かった。こんなに弱々しい美咲を見たのは初めてだった。
そうか…、相手の事を考えずに発言してるのは俺の方だ…
今の美咲に言うべきではない言葉を、俺は我慢できずに美咲に伝え、結果美咲を悲しませた。
自分が1番、美咲を理解してると思っていたのに。
「ごめん…。それと傘、風邪ひくなよ。」
俺はそう言って美咲に傘を渡し、その場を走り去った。
自分が恥ずかしくてしかたなかった。
早く美咲の前から消えたかった。
偉そうな事を言っておきながら、自分の大切な相手に自分の身勝手を押し付けた。
感情の出し方が分からないなんて、子供じみた理由で美咲を傷つけた。
俺は最低だ。
雨の中、走りながら後悔の念でいっぱいの俺の後方から、水溜りをすごい勢いで蹴り上げる音が聞こえてきた。
バシャバシャバシャバシャバシャバシャッ
「陸上部期待の星こと『酔っ払ったイノシシ』を舐めるんじゃないわよ!」
気づくと美咲が並走していた。
「勝手に告白して、勝手に走り去ってるんじゃないわよ!このバカ誠二!」
と美咲が言い放った瞬間、躓いて転びそうになった美咲を助けようとした俺はバランスを崩しコケた。そして結局、美咲もコケた。
「大丈夫か!」
俺は美咲を抱き起こした。
「顔面以外はね…」
そう言った美咲の顔は泥まみれだった。
「ぷっ、ははははははは!」
俺はそんな美咲の顔を見て思わず、腹の底から笑ってしまった。
「アンタ失礼よ!……でも、誠二もそんな笑い方できるんじゃん。ずっと能面のままかと思った。」
泥まみれの顔面のまま、美咲は笑顔で言った。
「お前のおかげだよ。」
俺はハンカチを出して、美咲の顔を優しく拭いた。
「俺は今まで、自分が冷めた人間で、感情が欠如してるんだと思ってた…。でも、美咲が絡む事に、俺の感情は大なり小なり、いつも揺さぶられてた。お前のこと好きだって気持ちに気付かないまま…。」
俺の言葉に美咲は
「私も誠二に告白されて気付いたよ。いつも当たり前のように側にいたアンタに、特別な感情持ってた自分がいることに。」
恥ずかしそうに言った。
「俺と付き合ってくれ。」
そんな美咲を見て、俺は胸が熱くなり改めて、美咲に告白した。
「今はダメ。」
美咲の返事に
『あぁ、そうだよな。加山先輩の事を好きな気持ち、簡単には消せないよな…。』
解ってはいたけど、胸が苦しくなった。
「明日、加山先輩に今までの事を謝って、諦めます宣言を、まずはしないとね。」
美咲は笑顔で言った。
俺なんかよりもずっと大人なんだな、美咲は。ただ、自分の感情をぶつけるだけじゃなく、その処理もちゃんと考えられるんだ…
「でも正直、加山先輩を好きな気持ちは、すぐに消せないかもしれない…」
そう言った美咲の頭に俺は、ポンと手を乗せ
「俺が忘れさせるから。」
美咲の目を見て、俺は言った。
美咲は顔を真っ赤にしながら
「こんなにキャラ変されると、二重人格なんじゃないの!って思っちゃうわよ!」
と、そっぽ向きながら言った。
「お前のせいだよ。」
笑いながら言う俺に
「やっとまともな感情を手に入れられたんだから、感謝してよね!」
と、美咲も笑いながら言った。
恋愛ってのは、感情にかなり影響を与えるものなんだと初めて知った。
辛かったり悲しかったりすることもあるんだろうけど、それ以上の何かがあるのだと思う。
俺はそれを、この先美咲と知っていきたい。
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