第207話 苦境の運命
ブリジットらが出発するのを見送った後、十刃長ユーフェミアは自身の
その天幕の入口に立つ2名の衛兵は、ユーフェミアの顔を見ると背筋を伸ばして敬礼する。
彼女はそれに手を上げて
その中には3メートル四方の鋼鉄の
下部に車輪がついていて、移動可能なその
今そこに
2人は
「どうだ? 少しは話が出来そうか?」
ユーフェミアの問いに、
今この
ユーフェミアは
「
2人はユーフェミアを見上げると、知性の感じられない目を向けながら手を差し出した。
「ア、アレを……アレをくれ……頼むから」
そう
「終始この調子です。薬物をもらうこと以外に頭が働かないのです。薬が抜けないうちは痛めつけても何も
「チッ。ダニアの誇りを捨てたか。同族であることに吐き気がするほどの
ユーフェミアはそう言うとこれ以上、
「今、十刃会から全軍に通達を出している。他に薬物を持ちかけられた者がいないか、確認中だ。裏切者を生み出した張本人を
「
「ああ。こいつらにとっては薬物をもらえないことが一番の
そう言うとユーフェミアは天幕を出る。
そして自分の天幕に足を向けながら
(あの2人に薬物を与えた同族の女。その目的は何だ? 我らの部隊を混乱させることか?)
本家だけなく分家にも裏切り者が出ているという。
それはダニアを困惑させ、その戦力に
そんなことをして得をするのは、敵対する黒き魔女アメーリアと、その裏で糸を引くトバイアスを
そう考えるのが普通だ。
ユーフェミアは
(完全に風向きが変わってしまった。一年前では考えられなかったことだ)
公国軍と争えるだけの戦力はダニアにはない。
いかにダニアの女が勇猛だろうと、いかに一騎当千の女王を抱えていようと、数で大きく勝る公国を相手に戦を続けられるわけがなかった。
公国軍が全軍を上げてダニア本家を
公国と王国が互いに
200年以上も続いた絶妙な
だが、時代の潮目は明らかに変わった。
ダニアという一族がこの後、どのような運命を
ここが正念場だった。
「十刃会の再構成も行わねばならんし、頭の痛いことばかりだ。アタシの人生はこうして悩み続けているうちに終わるのか。リネット……今頃おまえは安らかに眠っているのだろうな。うらやましいことだ」
今は亡き同輩に思いを
苦境の運命を感じながら、それでもユーフェミアは先のことを考える。
先日の宴会場での戦いで、カミラとドリスという十刃会の評議員2人が死んだ。
2人とも年齢は40歳を超えていて、共に十刃会の中では最年長の2人だった。
その2人の後任を早急に選ばねばならない。
そのことで頭を痛めるユーフェミアの背後から声がかけられた。
「お疲れですね。母様」
「ウィレミナ……」
振り返ってそう言うユーフェミアの目の前に立っていたのは若きダニアの女だった。
ウィレミナと呼ばれた彼女は現在18歳。
ブリジットと同い年の彼女はユーフェミアの養子だった。
若い頃からダニアを軍事的政治的に支えてその身を
そんな彼女が養子としたのが、このウィレミナだった。
ウィレミナの母は彼女を産んで一年足らずの間に病でこの世を去った。
孤児となった彼女を
ウィレミナは相当に賢い子で、教えたことはあっという間に吸収し、若くして才覚を
ユーフェミアは彼女を自分の補佐官として働かせ、経験を積ませた。
まだ誰にも言っていないが、ユーフェミアはいずれ彼女を自分の跡継ぎにしたいと考えている。
「皆のいる前で母様はやめろと言っただろう」
「も、申し訳ありません。ユーフェミア様」
ウィレミナは
そんな彼女を見てユーフェミアは目を細めた。
養子とはいえ、幼き頃から育ててきたせいか、ユーフェミアは本当の子供のように彼女に愛情を感じていた。
「全軍への通達は
「ご苦労。おまえも疲れているだろう。しっかり休息はとっておくように」
そう言うユーフェミアを心配そうに見つめ、ウィレミナは
「ご無理を……なさらないで下さいね」
「今は仕方ないさ。無理をしなくてはどうにもならない時だからな。おまえも時間を
そう言うとユーフェミアはウィレミナの肩に手を置き、それから
ウィレミナにはああ言ったが、とりあえず一息つきたかった。
だが、宿営地の中心部にある天幕へと足を踏み入れたユーフェミアは、ハッとして足を止める。
彼女を出迎えるはずだった側付きの
2人とも胸に小刀を突き刺されていて
そしてユーフェミアはすぐに気が付いた。
自分が普段、
その人物は
「これはこれは。お邪魔してますよ。十刃長ユーフェミア殿」
不敵に笑いながらそう言ったのは目が大きく、形の良い
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