第208話 凶刃
「これはこれは。お邪魔してますよ。十刃長ユーフェミア殿」
不敵に笑いながらそう言ったのは目が大きく、形の良い
ユーフェミアは即座に腰帯に差した
「この天幕に勝手に入る
「ええ。入口に御大層な10本の剣の紋章が
そう言うと女は害意が無いことを示す様に両手を頭の横まで上げて立ち上がる。
その顔を見ると、まだ若い女だった。
ブリジットよりも少し上くらいだろうか。
「私はイーディス。今日はご
イーディスと名乗る女の発音は、分家の
そしてイーディスはダニアの女がほとんど身に着けることのない
例外的に分家の
ユーフェミアは
(やはり……
何か……嫌な感じがした。
初めて会う相手に警戒心を高め、ユーフェミアはイーディスの挙動から目を離さぬよう集中しながら言う。
「当ててやろう。貴様は黒き魔女アメーリアの配下の者だな。砂漠島とやらからわざわざ海を越えてきたのか。難儀なことだな」
「ご存じでしたか。さすがはユーフェミア殿。やはりあなたは本家の屋台骨だ。あなたという存在が本家にとって、ブリジットにとってどれほど大きな存在か、私でも分かります。だからね……」
そう言うと次の瞬間、イーディスはあまりにも素早い動作で飛び上がり前方宙返りを見せたかと思うと、着地後は逆に地を
そしていつの間にか手にしていた短剣を、ユーフェミアの太もも目がけて下から突き上げる。
その幻惑的な動きに意表を突かれたかに思えたユーフェミアだが、下から向かって来るイーディスの短剣を抜き放った剣の
「
蹴り飛ばされたイーディスは後方の地面にひっくり返ったが、すぐさま飛び起きる。
だが、その顔には変わらぬ挑発的な笑みが浮かんでいた。
「へぇ。すごいですね。ブリジットに剣技を教えた指南役と聞いていたその
イーディスがそう言った瞬間、ユーフェミアは背中と両足に強い衝撃を受けた。
「うぐっ……」
何かが背後から飛んできて自分の背中と両太ももの裏に突き刺さったと感じた瞬間、ユーフェミアは痛みに構わずに剣をイーディスに向かって突き出した。
だが、太ももに刺さっている物のせいで動きに違和感が出てしまい、その剣筋が
素早く半身になってこれをかわしたイーディスは鋭く短剣を前方に突き出す。
その刃は……ユーフェミアの胸に深々と突き刺さった。
「かはっ……」
「あなたはすでにダニアの女として強さの
そう言うとイーディスは
刃を正確にユーフェミアの心臓に突き刺したのだ。
ユーフェミアは両目を見開き、震える手でイーディスの肩を
だがイーディスはユーフェミアの胸から刃を引き抜き、その体を足で蹴り飛ばした。
「ごほっ……」
そんな彼女を見下ろしてイーディスは目を細めた。
「おやおや。最初のご
息も絶え絶えの苦しみの中でユーフェミアは悟った。
イーディスはあらかじめ仕掛け矢のようなものを天幕の中に用意していたのだろう。
それが背後から自分を襲ったのだと。
そして一瞬の
(ぬかった……これが……アタシの人生の終着点……か)
せめて最後に大きな声を上げて誰かに敵の侵入を知らせたかった。
だが、胸の奥からせり上げる血が肺に入り込み、声を上げることも出来ない。
ふいにユーフェミアの
(彼を……無実の
そして次に養子であるウィレミナの顔が浮かぶ。
彼女の人生が幸多きものであることを
(ウィレミナ……どうか立派に育ってくれ……)
さらには亡き同輩であるリネットの顔が浮かび上がった。
(リネット……アタシもいよいよ天の兵士に……)
そして消えゆく意識の最後に浮かんだのは、彼女がその
(ブリジット……どうか、ご武運……を……)
ユーフェミアの目から光が消えるのを確認したイーディスは、息をしなくなった標的の遺体を後に残して、天幕から風のように去って行った。
女王ブリジットに
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