第206話 束の間の旧交
「ボルドさん。あんな
そう言うとナタリアは
彼女の背中には痛々しく包帯が巻かれている。
先日の宴会場での戦闘時に背中を斬りつけられて負った傷だ。
その場でソニアがすぐに適切な応急処置を行ったおかげで、ナタリアは今こうして命があるのだった。
「おまえが言うな」
ベラは
分家との初会談から戻って数日、今はベラとソニアの天幕の下でベラ、ソニア、アデラ、ナタリーとナタリアの5人がボルドを囲んで食事をとっていた。
戻ってから何かと忙しく、旧知の皆でこうして接する機会があまりなかったため、ベラが皆に声をかけてこの機会を作ったのだ。
ブリジットは
とはいえ、あまりゆっくりはしていられない。
午後にはボルドやベラ、ソニアはブリジットと共に出かけなければならないのだ。
つい昨日、このダニア本家に文を
それは警告文書だったのだ。
公国領の南岸に位置する漁村が、赤毛の女の大集団に襲われた。
その犯人ではないかと疑いがかけられ、ブリジットには公国への出頭要請が出されたのだ。
今、ブリジットはユーフェミアら十刃会とその件で最後の打ち合わせを行っている。
午後にはすぐにここを
ボルドにとっては今は仲間の皆と語り合える貴重な時間だった。
彼は自分が生き残った
皆がその話を聞いて面白おかしく
「おまえは二度と
「は、はい……」
天命の
まさかあの宴会場の谷戸で再び
「ボルドさん。分家ではひどい扱いは受けなかったのですか?」
アデラは心配そうにそう
「はい。軟禁状態ではありましたけど、良い
新都から分家の本拠地であるダニアの街に移送された後は自由こそなかったが、それでも
「そりゃボルドは大事な人質だからな。
ベラはゴロッとした
ボルドは直接クローディアからその考えを聞いたわけではないので彼女の真意は分からないと前置きをした上で言った。
「私を人質のように扱うことでブリジットに不信感を与えてしまうのではないかと
結果としてブリジットは様々なわだかまりを乗り越え、クローディアとの協力体制を築くことを女王として決断した。
それが正しいかどうかは、後に証明されるだろう。
ボルドらが食事を終える頃に、十刃会との打ち合わせを終えたブリジットが天幕に戻って来た。
「食事は終わったか。ベラとソニア、そしてボルドは予定通りアタシについて来い。それからアデラも一緒に来てくれ」
突然の指名にアデラは
そんな彼女にブリジットは告げた。
「おまえ。クローディアの腹心の部下を救ったらしいな。
アデラはその言葉におずおずと
「ええ~? アタシらも行きたいっす」
「行きたいっすよ」
口を
「
そう言うベラに双子は嫌そうな顔をしながら、仕方なく皆を見送るのだった。
「やれやれ。ガキどもめ。そういえばブリジット。裏切者はどうしたんだ?」
そう
裏切者。
本家の人間でありながら、あの戦場でブリジットに斬りかかった恐れ知らずの不届き者たちだ。
あの戦場で死んだ者もいるが、2名の若い女戦士が生き残り、捕らえられている。
「とりあえず
容疑者2名は薬物の禁断症状が出ているらしく、まともに会話も出来ない状態だという。
「そんな妙な薬を一体どこで手に入れたんだ?」
ベラは不思議そうにそう
「同族の女にもらったと言っていた。それが本当のことなのかどうかはまだ分からん。もう少し奴らの薬が抜けてからでないと取り調べにならんな」
ブリジットはしかめっ
とにかく真相を究明して二度と同じことが起きぬよう対策を徹底しなければならない。
同じ戦場で背中を預けて共に戦うはずの仲間から、背中を斬りつけられたのではたまらない。
そんなことが起きれば実害を見過ごせぬことは無論として、それ以上に恐ろしいのは一族の中で疑心暗鬼が起きて、皆が戦場で満足に戦えなくなってしまうことだ。
そうした不安を振り切るようにブリジットは言った。
「我らダニアは世界から見れば身寄りの少ない一族だ。それゆえに一枚岩であらねばならん。裏切者を出すようなことは断じてこのアタシがさせない」
きっぱりとそう言い切るブリジットに皆が
だが……不安要素は裏切者だけではない。
公国の南岸に上陸したと言われる赤毛の女集団。
その話が真実なら、間違いなく以前にクローディアから聞いた砂漠島のダニアだろう。
その者たちの真意は分からないが、敵に回ればこれほどの
クローディアが早急に自分と話したいという気持ちは分かる。
(こうなると先日、ああしてクローディアと顔合わせをしておいたのは正解だった。今から関係を構築するのでは遅過ぎる)
ブリジットはそんなことを思いながら馬車に乗り込む。
御者2人と護衛の騎馬兵4人。
それ以外には
十刃長のユーフェミアには
皆を乗せた馬車はクローディアとの待ち合わせ場所に向けて走り出した。
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