第5話 星月夜とサンドイッチ(1)
月の光が満ちる。
ニーナは仮眠用の寝袋から出ると大きく伸びをした。息を吸い込むと、冷たい空気が肺に入って、目が冴えていく。
午前3時。まだまだ昼間に息づく生き物たちは夢の中の時間帯だ。
(さてと)
ニーナは息を深く吐くと、スリッパを履いて、キッチンのまな板近くの卓上ランプ、コンロの上を照らすペンダントライト、部屋の端のフロアスタンドの3ヶ所に光を灯した。
(よかった、ちゃんと起きられた)
今、ニーナのいる小屋は、料理小屋として大樹の家の隣に併設されたものだ。
夜中、主人のシュシュが寝てる時間帯に料理をしたり、かまどで火が使えるよう、村の修理屋、フルシュタインさんが建ててくれた。
小屋に、かまど、オーブン、水場、作業台、食器棚とちいさなソファが並び、ソファで寝袋にくるまって、よく仮眠したり、一休みしたりする。小さいが、ニーナの城のような場所だ。
夜はとても静かで、森の生き物たちは皆眠りにつき、月の光を浴びて生きる植物たちは、眠る生き物たちを起こさぬよう、静かに呼吸をする。
ニーナは夜が好きだ。昼間の輝くような太陽の光と、光にきらめく森も好きだが、月に照らされ、星が瞬く夜の森もまた、特別なものだ。特に、今日のような、静寂に包まれる夜は。
クリスマス前日。準備は大詰めを迎えていた。
あの後、ヒイラギのブーケたちは全ての工程を終え、次の日に完成を迎えた。予定通りの、クリスマス2日前の完成。しかも、まだお日様があたたかく光を降り注いでいる明るい時間帯だった。一日中かかると想定していたから、精たちと、シュシュのがんばりは、いつもにも増して特別なものだった。
「これでおわり?」
「ぼくたち、まだまだできるよ!」
「なにかやることは、ない?」
「まあ、みんなありがとう!」
一休みでお茶を飲んでいたシュシュが立ち上がる。
「ヒイラギブーケは全部出来たし、・・・そうねえ。ねえ、ニーナ、今日、あと何かやることあったかしら」
準備管理表を前に腕組みして思案をするシュシュに、ニーナは床を掃いていた箒を壁に立てかけると、シュシュの斜め後ろに立った。
「そうですね…外の砂ぼこりと土で、お部屋が少し汚れてしまっているので、その片付けと…」
「あっ、クリスマスツリーの飾りつけがあったわ!」
管理表に貼ったメモ書きに書かれている『オーナメントのかざりつけ』の文字を指さして、シュシュはニーナの目を嬉しそうに見る。
「このふくろのなかのを、かざるの?」
部屋の隅でお茶を飲んでいたヒイラギの精が、大きな袋を指さす。「とってもきらきらしてる」
「ほんとうだ!すごくきらきらしてる」
「きれいだね」
「すごくきれいだね」
近くにいた精たちが、一斉に袋の周りに集まる。
「ええそうよ、毎年飾り付けているの」
「とってもすてき!」
シュシュの頭に乗っていたハコロモ草の精が、大きな声を上げる。
「わたしたちもかざりつけしたい!」
「ぼくも!」
「わたしもやりたい!」
ハコロモ草の精に続いて、精たちが口々に言い寄ってきた。
ヒイラギの作業が終わったら、シュシュと飾り付けをしようと思っていたが、こんなにもやる気なのだ。好意を無下にはできまい。日の入りにはまだ時間があるし、みんなでやれば時間はかからないだろう。
「シュシュさん、どうしますか」
ニーナの問いかけに、シュシュは満面の笑みを浮かべ、腕を広げて、抱きついてきた精たちを包むように両腕で抱きしめた。
「なんて素敵!みんなでやりましょう」
シュシュの号令に、精たちは手を上げて、歓声を上げた――――
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