MEITØ会議-襲撃事件の白と黒


 港署の明かりが目立ち始める午後六時、定常業務を終えた職員達が喫煙所に向かうタバコ休憩。

 住宅街も工場こうばの通りも、帰宅ラッシュの時間帯でさえ薄暗い孤独感ロルリネス、故に犯罪者を甘やかす。

 目下もっか捜査中の襲撃事件で、市民から初の死者が出たことにより、その現場の管轄『港署』にて一連の襲撃事件を整理するべく、対策会議が今夜実施される。




「利刃さん、そろそろ会議の時間ですよ」




「あぁ……そうか

 六刀班長は先に行っててくれ


 あと一本吸ったら行くわ」




 港署の五階、会議室入口にある『明道市襲撃事件・対策本部』の看板。

 五階の喫煙所で、利刃は迫る集合時間に適当アバウト、時計を見ると会議開始タイムアウト、呑気にニコチンと時間を味わうと、会議室の看板とすれ違う・・・・


 利刃が向かう先は零番。


 そして会議が始まると、ホワイトボード前に立つのは、若い女性。




「御苦労さまです皆さん

 急遽、参集いただきありがとう

 本部、幹部No.4制圧統制部長の乂刃柱かやばしらです


 まずは、捜査資料の二ページを確認ください

 こちら、今回起きた襲撃についての詳細です

 一件目、第二地区の商店街

 二件目、第一地区の銀行

 三件目、第三地区の学校


 この三件は、どれも週単位のペースで発生していることから、計画的な連続襲撃事件と推測されます


 また、この一連の襲撃事件は、庭園が本部壊滅を企んで実行した六年前・・・と、同じ流れです

 言い換えれば、”再現された六年前”ですね」




 司会者は二十三歳の女性――――凛として端正な顔立ち、冷徹クールな視線と振舞い、銀色シルバーなポニーテールの毛先にエクステ、彼女の名は乂刃柱かやばしら 沙耶さや

 第一課関係の制圧業務『作戦・対策・組織体制・個人実績』を日々管理する制圧統制部長として、明道市全域の第一課を纏める幹部No.4として、彼女は統制を調整している。


 さらに乂刃柱という苗字は、この明道市に六百年前から存在する七大名家の一つ。

 かつて六百年前の大戦で、戦果を挙げた七名・・の強者が、自分自身へ付けたとされる苗字――――乂刃柱家初代当主が名乗った乂刃柱の由来は『治めた戦場は一面、刃の柱』という説がある。


 そして会議室では現在、目線の先に座る『乂刃柱家』についての動揺が見られ、当初の議題から話が逸れはじめている。




「はいッ……!!

 第三地区霧ノ原きりのはら署、一課班長の逆差さかさです


 質問恐れ入りますが

 御年齢と連絡先について御教授ごきょうじゅ願います!! 」


 


「第二地区刈薙かなぎ署、一課班長の梶本かじもとです


 私にも御教授願います!! 」




 彼女の左隣の席、港署一課班長の六刀は、握ったマイクをOFF→ON状態にすると、足を組んで座ったまま喋りはじめる。

 その口で、圧を込めた口調で、欲丸出しの荒れた会議室の、汚れた質問を止める。




「会議の邪魔だテメェら、おぉ?!

 そこで正座して静粛にしとけ、バカ野郎


 ところで沙耶さん

 御連絡先と御年齢について御教y――――ッ!! 」




 六刀の右隣から、彼女の拳が一撃。

 そうして椅子から転げ落ちるように倒れて、六刀は逆差と梶本の隣で正座する。


 その頃、港署零番にて神城は、山積み状態で散らかっている過去六年分の捜査資料を、パソコンの格納ファイル『年度別記録台帳』に記入している。

 一向に減らない書類の摩天楼、一枚一枚手に取って、一から十まで目を通す。

 それを横目に三成は、詰将棋の本を読みながら、一人で金将の駒を進めている。


 二人はどちらも頭を悩ませている。




「この場合なぁ、どう動くべきか……?? 」




 切れかけの怪しい蛍光灯。

 壁側には捜査資料をつづるファイルの棚。

 それぞれ向かい合う七十台の事務用デスク。

 事務所を思わす働きやすい環境だが、港署零番は神城以外仕事をしておらず、この自由時間すらも1.0Hの残業をつけている。


 すると、零番入口のパスワードが解除される。


 そして、その人物が顔を出す。




「どーもー

 利刃です……三成さんいますー?? 」




 関係者以外立ち入り禁止な零番に、利刃は何食わぬ顔で、当たり前のように、足を踏み入れる。


 そのとき、零番職員達の冷たい視線。

 入室してから一秒で、利刃は不審者扱い。




「不審者だなッ?! 」




 事態は唐突。

 零番職員の一人『秀一』が、利刃との距離を瞬時に詰めて、左側の首を狙って、横一線に刀を振るう。

 刃先が、鋭利な刃物が、利刃の首を捉える。


 利刃は面倒くさそうに応答する。




「あ、いや、そういうのいいから」




 利刃は、あのとき山軋に借りたままだったナイフを胸元から取り出せば、一秒後に首が飛ぶであろうところまで迫っている刀を――――右手に持ったナイフだけで受け止めながら、刀の下をくぐるように右横へ逸れ、秀一の左腕を掴みあげる。

 そうして利刃が、秀一の左腕を、合気道のように時計回りへ捻れば、秀一は関節の痛みから逃げるように動き回る。


 掴んだ腕は離さない。

 秀一が諦めるまで捻り続ける。


 二人だけの戦場は、気づけば劇場。

 利刃が踊らすマリオネットは、文字通りに操られて、動き回る。

 



「とりあえずオマエ、業務妨害だでな??

 後でゆっくり痛い目見せてやるから覚えとけ


 お??

 あぁ、関節外れちゃったのか……はははッ!!


 てか三成さーん

 早く来てくれ、コイツつまらん」




 そう言いながら、利刃は秀一をクルクル回して遊んでいると、奥の方から三成ではなく神城が来る。




「おい

 今すぐその手をどけろ


 これ以上は冗談じゃ済まさないぞ?? 」




「へいへい、分かった……ほらよッ!! 」




 利刃は、刀を落として抵抗する意思がない秀一に、トドメと言わんばかりの鋭い膝蹴り。

 重たい膝蹴りに、秀一は神城の所まで後退り。




「神城班長……オレ、その……ごめんなさいっ!! 」




「気にするな

 利刃のことは制圧統制部長に報告するから、今日は自分の部屋に戻っていろ」




「神城……オマエんとこ、教育成ってねぇな


 あぁそんなことより

 早く三成さん呼んでこい」




「ッたくよォ

 なんの騒ぎだ??


 三成なら俺だけど……って利刃?!

 港署に左遷させんされたって本当だったのか」




「左遷じゃねぇよ

 戦略的な人材派遣だわ


 てか、いま五階で対策会議やっとるもんで、三成さんも一緒に行くぞ」




「仕方ねぇ

 話聞くだけだからな」




 利刃と三成が、五階の会議室へ向かう。


 扉を開ければ、端で正座する三人の一課班長。


 制圧統制部長の乂刃柱が中心となる、大事おおごとの事態、大事な会議、そこへ堂々と遅刻する利刃は『まだ結果出てねぇのか……オマエら全員、頭足りてねぇんじゃないの?? 』なんて述べれば、会議室のホワイトボード前に立つ。


 黒ペンを持つ。


 利刃がホワイトボードに書き出すのは、能力制圧本部が極秘捜査中または現在対応中の、明道市にて確認された過激派な犯罪組織の組織名。

 ・庭園

 ・明道連合

 ・くろがね

 ・月下_紫煌快刀ムーンダスト

 ・椿柄つばきがら

 ・紅イ千成瓢箪せんなりびょうたん



 

「あぁどうも

 港署一課の利刃です

 御世話なります……よろしくお願いします


 突然ですが議題について、皆さんは庭園の仕業と騒いでますが、なぜ庭園だと決めつけてるんです??


 庭園へ潜入捜査中の職員からは、庭園の襲撃計画はないと、報告を受けているというのになぜ??


 犯罪組織なら他にもあります

 過去の犯罪を模倣することも容易いかと


 結果から言うと……

 一件目、第二地区の商店街

 二件目、第一地区の銀行

 三件目、第三地区の学校

 別地区の警備体制に人員を持ってかれ、手薄となった地区が次の標的になってます

 なぜ手薄な地区をピンポイントで狙えるのか……ここで制圧関係者の中に内通者・・・の疑惑有りです


 更に、港署零番班長の神城へ、潜入ではなく追跡任務のヤツが、個人メールで『庭園が計画する事件』について情報共有しています

 潜入捜査員とヤツとの情報が矛盾しています


 なので、元スパークスNo.7から、元港署零番班長へ、命令を下します――――




 三成さん、本部零番の松田・・を追跡しろ


 神城班長には絶対伝えるな


 松田の追跡完了後、作戦及び指揮は、乂刃柱のお嬢さんに一任する

 以上」

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