MEITØ対戦-烈火のスナイパー

 山軋と能力者との一対一サシに横槍。


 精密で確実な制圧、危機一髪を瞬殺で解決、能力者に下した罰且つかつ


 絶対戦術『桃山武将ホーリー大太刀十文字ブレイド』の斬撃、その名は十χクロス御始末デッドエンド――――それは、まるで砂浜で作り上げた精巧な砂城を踏潰すときのように、簡単に、薄情に、無情に、コンクリートすらも木端微塵に砕く破壊力。

 裁きの二文字に似合う、十字の斬撃だ。




「山軋、遠坂、七武学院は任せた

 絶対に死ぬなよ??

 死んだらオレが責任を負うんだからな?!


 オレは整威と王帝三鷟さんざく学園へ向かうから、マジでそこだけ気をつけろよ?? 」



 

 利刃は整威を連れて立体駐車場。


 ドリ車顔負けの覆面車両サザンクロスへ乗込むと、現場までの距離と時間を視ては『掴まってろ』なんて言いながら、利刃がサイドブレーキを下ろす。

 唸る重低音のV6サウンド。

 ガソリンメータは90°。

 風を感じる半開きのウィンド

 直線180kmの最高速度。

 手で風を触れると感触はGカップ。

 



「あー見えた見えた

 高貴な三鷟学園がまるで廃墟じゃねぇか


 やってくれたな……

 よし、降りるぞ」




 その頃、工業地帯にある七武学院で、山軋は屋上の階段を降りて三階、戦場の跡に、戦闘の後に、静まり返ったクラス『2-E組』に送る黙祷。

 市民を守れない=100:0ひゃくぜろの敗北と、見せ付けられた能力者の力量パワーが、相俟あいまって絡まって面と向かって、これまでの勝利で得た自信が、不安と混乱と困惑の嵐に呑み込まれていく。




「何がダメなんだよ

 オレの何がダメだったんだよ


 オレは、何から始めたら……勝てるんだ?? 」




 日差しが照らす廊下で、窓側を歩いている山軋の、不良なリーゼント姿のシルエットが壁に写る。

 格好だけのシャバ僧に、情けなさを実感しつつも、終わらない戦闘の続きへと向かっていく。


 少し歩けば渡り廊下、伝統校故に辺り老朽化。

 瓦礫を乗り越えて、真昼の薄暗い体育館に立ち入れば、荒れ果てた木目調のバスケットコートと、折れ曲がって落ちたバスケットゴール。


 そして――――


 崩れた体育館に立ち止まる能力者一名。

 同隊に所属の『遠坂とおさか悠真ゆうま




「はぁ……大人しくボクに制圧されてくれれば、お互い楽に終わると思いますけどね


 能力者ゴミ掃除も大変なんですから」




 遠坂は、相手の体格よりも小さいが、臆すことなく堂々として泰然自若たいぜんじじゃく

 勉学と訓練にも、業務と任務にも、決められたルール通りに取組んで、さらに礼儀作法にも問題なく、能力制圧本部の採用一年目から期待の新人ルーキーとして活躍中。

 声変わりの見込みは未定、細身の体型、小顔で整った容姿は美系、一部の女性職員から絶大な人気を集めている十四歳だ。


 そして交戦中の現在、遠坂を囲うように、渦巻いて螺旋状に展開する帯――――華麗に舞うように、予測不能で慣性に逆らい、一度絞められた人間は足掻いても抜け出せない、捕縛と防御と絞殺に特化した帯状の絶対戦術『クローク・オブシディア』

 更に、この絶対戦術は、受けた衝撃ショックに比例して反動する性質を有する。




「その絶対戦術……俺の攻撃を弾いてきやがる

 だが、それもいつまで続くかなァ!? 」




 相手の能力者は、遠坂の発言に笑いを堪えながら、残していたであろう余力を更に解放する。


 彼の名前は『菊地きくち 己悟郎こごろう

 鍛え抜かれていて豪快な体格、ボンタンとリーゼントの不良な格好、見下す目付きと余裕で、戦闘態勢を構えていない。

 その一回り二回り大きい両腕は、誰彼構わず殺して浴びた返り血で汚れており、そして更に彼自身の能力によって、鋳造or鍛造で造られた鋼鉄粗材スチール・マテリアルを纏っているかのようなザラついた灰色の両腕に変わる。

 一撃で骨を砕くような右ストレート。

 反動をかえりみない左フック。

 隙を見つけてローキックからのハイキック。


 暴れだしたら止まらい打撃の怪物が、遠坂を追い詰めて後退りさせる。




「チッ!!

 能力者ゴミのくせに……」




「おィおい??

 そのゴミに後退りするオマエは、オレ以下のカスじゃねぇかよ!! 」




 無傷ながら減っていく体力に、防戦一方な状況に、遠坂は歯を食いしばりながら、その小さい身体で立ち回っている。

 遠坂の絶対戦術クローク・オブシディアが、菊地の右腕に巻付く。

 鋼鉄の右腕を絞めて潰そうとする。

 右腕を捻って関節を外そうとする。

 

 しかし、鋼鉄故に効かない。


 菊地は巻きついた絶対戦術を、自身の方へ引っ張れば、遠坂は菊地の胸元のところまで――――コンクリートをも砕くその正拳突きで、遠坂の身体を一直線に左ストレート。




「チェックメイトだ

 クソガキがよォ……」




「んグッ?! 」




 遠坂は刹那、攻撃ヶ所に帯を何重にも重ね、菊地の一撃を一秒でガード。

 お互い楽に死んでたまるかと、命のやり取りにるか反るか。


 両者汗だくの攻防戦線。




「遠坂……やっぱオメェ、度胸凄ぇよ


 ごめんな

 利刃さんみたく、漁夫の利すんません!! 」




 山軋は絶対戦術を構えながら、目視で相手に照準を合わせては、第一課として初任務をクリアしたときのことを思い出す。

 自分で自分に言い聞かせる自問自答で、明確に『愉しかった』『楽しかったんだ』『何に恐れていたんだ』と、再びトリガーに指を置く。

 これから能力者に突きつける終止符は、未だ試したことのない思い付きで、頭に浮かんだXとYの方程式では成功確率100%。




「遠坂ァ!!


 下がってろォ!! 」




 暴風と銃弾を撃込むことが出来る狙撃銃型と散弾銃型の絶対戦術で、技『暴風刑砲』の爆風が二撃・・、菊地と正面衝突。

 途端に散弾銃型の絶対戦術で、菊地に向けて一撃八百粒の鉄を五回撃込んでいく。


 菊地は、山軋の存在に気づくと、鋼鉄を纏うことが出来る能力で、全身を鋼鉄へと覆っていく。

 二撃の暴風と、計四千粒の鉄を、一つの能力だけで完璧に防御する。




「あ??

 痛てぇじゃねぇか


 なに漁夫の利しようとし――――ッ?! 」

 

 

 

 時計回り、反時計回り、それぞれ回転方向が異なる二つの竜巻が、ミクロン単位で干渉を避けながら、菊地を台風の目として囲っている。

 内側の右回り、外側の左回り、人を張り倒すほどの烈風の竜巻が、四千粒の鉄を飲み込んで回転させれば、鉄は擦れ合って砕け散って、摩擦から発生する火花が着火。

 竜巻は威力を増す。

 比例して炎が立つ。

 天登る烈火の竜巻が、菊地を逃がさない。



 

「クソッ、クソったれがァ!!


 熱ちィ……こんな、クソ野郎によぉ!!


 覚えてろ

 覚えてろよ

 次会ったら絶てぇ殺す


 殺してやっから覚えてやがれぇッ!! 」




 烈風と烈火の混合技は、次第に範囲を広げて、熱気と二酸化炭素を充満させて、爆発寸前。

 体育館の屋根が崩れ落ちると、遠坂は一足先に体育館から走り去る。




「や……やばい

 やり過ぎたかも……


 遠坂逃げろォ!! 

 遠坂?!


 先に逃げるのは無しだろぉッ!! 」




 一目散に山軋はその場を走り去る。


 十秒後、体育館が大爆発。


 無事に能力者の制圧完了。


 爆発から危機一髪で逃れた山軋と遠坂の二人は、七武学院のグラウンドを歩いて正門を出ようとすると、生徒や住民から『港署の人達ありがとう!! 』なんて感謝の歓声が、街中から耳を塞ぎたいほどに聞こえる。

 山軋と遠坂は、少し照れながらも、グータッチで飾る有終の美。



 ――――



 それから徒歩三十分、山軋と遠坂が港署に帰還する頃、五階にある第一課の課内で、利刃は新聞を読みながら優雅にコーヒーを飲んでいる。

 そして、利刃の右隣の職員デスクには、能力制圧本部の第一課班長『エイラ』が座っている。




「利刃さん

 お疲れさまです


 早いッスね……流石です」 




「おう、山軋と遠坂、無事で良かったわ

 整威が一人で二人片付けちまってよ、オレの出る幕無かったわ


 あ、そんで、さっきニュースの生中継で、七武学院の体育館爆発しとったよな??

 それ能力者の能力だったんか?? 」




 山軋は、誇らしげに前へ出る。




「それは勿論、私の――――」




 利刃が席を立つ。

 山軋に小声で圧をかける。




「もしオマエだったら、建造物破壊ってことと、その指導者の責任ってことで、オレが責任負わんといかんくなるからな?? 」




「能力者の仕業ですね」




「そうか……

 ほらな、能力者の仕業だってよエイラ班長??


 では、タバコ休憩行ってきます」

 

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