MEITØ戦線-十ジに成敗されて

 『⚠残酷な表現が含まれます』




 山軋やまぎし遠坂とおさかは、中高一貫の私立七武しちぶ学院へ転入し、今日で八日目の金曜日。


 そこは、七武港しちぶみなとそびえる港署から西方面、木造建築の住宅街から外れて、自動車関係の町工場が広がる工業地帯に建てられている。


 ボンタンと長ランの硬派な不良ビーバップな山軋が、高校二学年へ向かう午前八時――――三階の廊下に二学年生徒が一列に並び、山軋が来るタイミングで一斉に『おつかれさまです!! 』と挨拶をする。

 山軋の右隣を歩いている遠坂は、山軋を二度見、そして三度見までする。




 「うぅ……朝から騒がしいですね

 山軋さん、これは一体なんですか?? 」




 「ん??

 学年のツッパってるヤツ全員シめたら……


 なんかこうなってた」




 そして二人は各教室で、一時間目の授業。


 数字の方程式が、山軋を悩ます。

 黒板に数式を書いてみれば全問不正解。


 そうして、方程式に悩まされてから数分が経過し、教室に響くチャイムで一時間目の授業が終わる午前九時頃、山軋は唐突に『誰かに見られてる』なんて思いながら教室のカーテンをスライドさせて――――




 「え……」




 男がいる。


 窓にへばりついている。


 ここは三階だ。


 窓には無数の手垢。

 生活感がないボロボロな格好、伸びるだけ伸びて乱れた髪、今もニタニタ笑いながらクラスを見ている。


 全身に寒気と、追いつかない理解。


 故に一秒がスローモーション。




 「は……ッ??


 ……お、オマエら逃げろォ!!

 こいつ狂ってる……ここ三階だぞ?! 」




 山軋は絶対戦術を起動し、その純黒な狙撃銃スナイパーを展開させれば引金トリガーを引く。

 銃口から一直線、人を突倒すほどの暴風54m/sが男を捉える。


 窓ガラスが割れる。


 刹那、男は爆撃を両手から放つ・・・・・・

 男は紛れもない能力者だ。


 相殺そうさいされた攻撃と攻撃。

 黒煙に曇らされた教室は視界不良、そして爆撃と暴風の影響で、山軋はドア側へと突き飛ばされてしまい背中を強打。




 「こいつッ……強ぇ!! 」




 山軋が床に手をつけば『ピチャッ……』と手が沈んでしまうほどの暖かい血の湖。


 右側を見れば死体、左側を見ても死体、先程まで喋り合っていた友人達は、爆撃からのガラスの破片による二次被害で即死ノックアウト――――彼らに一言『おい』なんて話しかけても返事はない。


 教室内は、燃えてただれて硬直した人型の肉が、山積み状態になりながら苦い悪臭を立てる。


 すると、命を感じない肉を盾に、山軋は男へと突進する。




 「さすがは制圧の職員だなぁ

 一撃では死んでくれないみたいだネ


 でも……ん?? 」




 盾に用いた死体を男の方へと投げれば、山軋は二つ目の絶対戦術を起動し、展開する。


 散弾銃ショットガン型の絶対戦術だ。


 狙撃銃スナイパー型を左手、散弾銃ショットガン型を右手、展開された二丁の絶対戦術で対峙たいじを開始。

 その戦闘方法は、定まらない照準の果てに生まれた副産物――――暴れる風の暴風戦線。


 前方から発砲、吹き付ける風はまるで壁、故に男は腕を上げられない。




 「風が……!!


 う、腕が上げられねぇ!!

 このクソ野郎ォ絶てぇぶっ殺すからなァ!! 」




 「せいぜいわめいてろクソ能力者がよォ!!


 これで終わらせてやる

 暴風刑砲ぼうふうけいほう・七……お、おい!!


 待て、そっち・・・は違ぇだろ、何でもいいからオレだけを狙えヤァ!! 」




 そのとき、男は不敵な笑みを浮かべる。

 男が床に向かって・・・・・・爆撃を一発――――すると、振動と共に足元が崩壊し、炎も立ち上がる始末。


 教室で焼け死んだ三十名が、まるで滑り台のように真下の二階へ落ちていく。


 現在生徒が残っているであろう二階のクラスから、コンクリートを砕く音に混じりながら、骨と筋肉を一気に潰すときの『ゴリュッ』と『グチュッ』が合わさる音まで聞こえる。

 しかし、悲鳴を発する余裕もなかったのか、秒が経つ前に息を引取ったのか、一切悲鳴は聞こえない。


 男はニヤリと笑うと、三階の砕けた壁から飛び降りながら、グラウンドに避難している生徒に向けて爆撃を二発そして三発。




 「ふざけんな……ッざけんなよッ!!

 オレを見ろや!!


 こっち来いやァ!! 」




 その後、山軋は男を呼び止める。


 そして、屋上へ向かって走り出す。


 窓から飛び降りた男は、山軋を追うように走り出す。




 「いい度胸じゃねぇか能力者

 さァ……ここでオレとタイマン張ろうぜ?? 


 人殺しの罪は償えよ……能力者!! 」




 「能力者って呼ばれるの気に食わんなぁ


 俺は庭園ていえん組織の差々島ささじま

 商店街の件と、八億の件、きっちり返して貰うから覚悟しろよ?? 」




 ――――




 移ろう時代に、不動の世間体。


 正義の制圧に、命を賭ける24/7。


 曇空くもりぞらから微かに日が差す九時四十分頃、負傷した数名の職員が港署第一課に帰還して――――利刃は今日も非番故に『非番こそ安全地帯』なんて思いながら、広げた新聞紙に指一つ分の穴をあけて女性職員を覗いている。


 八億強奪事件以来、仕事を振り分けて貰えない利刃にとって、女性職員を視線で護衛することが業務になりつつある頃、新聞紙の穴を通じて女性職員と目が合う。




 「き、今日も一段と美s……」




 新聞紙の穴の先から、女性職員は鋭い前蹴り。

 ハイヒールのつま先で利刃を黙らせる。




 「もう一発ほしいか?? 」




 「い、いえ……お腹いっぱいです

 ご馳走様でした……」




 「はぁ……このセクハラ隊長がッ」




 そのとき、帰還した職員の一人が、班長席に座っている六刀へ話しかけに行く。


 六刀は班長席を立ち上がる。




 「なにッ?!

 七武しちぶ学院と王帝三鷟おうていさんざく学園で能力者絡みの暴動発生中ですか!!


 で、貴方達はどういった対応を?? 」




 「私達が向かった頃にはもう……正面切って入れる状態じゃありませんでした!! 」




 「ありませんでした、じゃないだろ!! 

 この大バカ野郎ォ!!


 何でもいいから正面切って制圧してくのが第一課じゃねぇのかよ!? 」




 「申し訳ありません!! 」




 港署の五階にある第一課で、六刀は窓を開けると西方面――――七武学院を注視ちゅうしする。

 絶えず爆発と暴風がぶつかる様子と、聞こえてくる止まない騒音が、普段以上の異常さを知らせる。

 

 すると、利刃は頬を抑えて救急箱をあけながら、六刀に話しかける。

 

 

 

 「六刀班長、ちょっとオレ屋上行ってるんで、何かあれば電話ください」

 

 

 

 「屋上ですか??

 わ……かりました、何かあれば電話しますね」




 「じゃ、行ってきます」

 

 


 利刃は、昼間でも薄暗い階段を上がると、錆びたドアを蹴飛ばして、視界良好な屋上にただ一人。

 煙草に火をつけて煙を立ち上がらせると、くたびれた様子で、屋上の柵に両肘りょうひじをつきながら、片手サイズの双眼鏡で七武学院を確認する。


 


 「山軋がこっち向いて絶対戦術を撃ってるッつーことは……能力者は、屋上の階段側か

 爆撃の放つ位置が変わらねぇってことは、相手は移動してねぇな


 ふーん

 2kmってとこか」

 

 

 

 ――――




 七武学院の屋上。

 屋上の階段側を背に、男は爆撃を放ち続ける。


 山軋は暴風の壁で抵抗ガード、防戦一方だ。


 そして、相殺が続く現状に、山軋は息を切らす。




 「疲れてきたのか制圧職員さぁん??

 まぁ次の一撃で、楽に死なせてやるよォ


 ッ?!

 ……ぁガッ」




 男が喋り終える刹那の出来事。

 赤黒い十字の斬撃・・・・・が、男を切り裂く。


 男は即死。


 山軋の頬を1mmだけ掠めて、斬撃は消える。


 利刃の絶対戦術『桃山武将ホーリー大太刀十文字ブレイド』の斬撃が、港署の屋上から、七武学院の屋上へと、一直線に男を背後から切り裂いた。




 「丁度十時か……」



 

 港署の屋上で、利刃はそう呟きながら、階段を下りていく。

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