MEITØ通信-六刀の策略

 空想の三億円強奪犯が涙を枯らす午後九時、刃物により切断された計六本の指先は、肌色を失う。

 六刀は少年のこめかみに銃口を当てると『ここに火傷がなきゃ他殺の可能性がでてきますので』と言いながら、まるで我が子と遊ぶ父親のような優しい表情で引金トリガーを引く。


 そして、同署の零番に電話をする。




 「今終わりましたよ

 切り落とした指先は、これから極秘で三課に持っていき、絶対戦術・・・・の素材にしてもらいます


 ですので遺体は山に埋めておいてください

 コンクリートや海にだと、体内のガスが充満して後々バレますからね」




 「承知致しました六刀班長


 では、早急に処理を実行致します」




 「あぁ待ってください

 いま……私の名前・・・・、喋りましたか??


 次は無いですよ

 今後、このような場面で、私の名前は言わないよう気をつけてくださいね」




 その一時間後、第一地区の本部では――――




 「エイラ班長!!


 港署の第四課、情報捜査部から目下捜索中もっかそうさくちゅうの現金強奪事件について、結果報告が来てます

 確認よろしくお願いします」




 「港署か……中々仕事が早いわね


 今回の事件ヤマは利刃隊に担当させたが、これは利刃隊だけで解決したのか?? 」




 「いえ、港署一課の六刀班長も協力してます」




 「やはり・・・六刀か……」




 第一地区に拠点を置く能力制圧本部は、まるで大都会の終着駅ターミナルを五つほど合わせたような大きさを誇る超巨大施設。

 それは、正四角錐台のような形をしたシンプルな構造で、さらに移り気なビルのどれより見上げなければ最高地点が見えない建物だ。


 そんな巨大帝国のフロア11F――――第一課内では、一課職員五百名を仕切る班長のエイラが、デスク上のパソコンに目を向けている。


 彼女は、港署第四課からの報告を確認すると、港署へと電話をかける。

 電話の向こうからは、彼女にとって聞き覚えのある声が『はい、港署一課』と応答する。




 「おい利刃ッ!!

 八億強奪事件のことで話がある」

 


 

 「あ、お疲れさまです」




 ――――ガチャンッ




 そしてまた電話が鳴る。



 

 「はい、港署一課」

 

 

 

 「おまえ明日覚えとけよ?!


 とりあえず六刀班長に電話変わってくれ」

 

 


 利刃は六刀に受話器を渡すと、自分の職員デスクから休暇届の用紙を出して、明日の日付を記入する。




 「六刀ですが


 あぁ、エイラ班長じゃないですか

 こんな夜中に、どうしたんですか?? 」

 

 

 

 「六刀か、聞きたいことがある

 四課からの報告……あれの内容は、事実・・で間違いないんだな?? 」

 

 


 「何をいてるんですかエイラ班長


 内容ですか??

 間違いは一切ありませんが?? 」

 



 彼女は、パソコン上に映し出された港署第四課からの報告書PDFと、同時に添付された少年の遺体状況の写真を見ながら、その記載内容を一つ一つ細かく六刀に問い詰める。

 彼女が目を凝らした段落には――――『本日19:00時頃、港署一課に入った匿名の密告通報タレコミにより、能力者の少年が金額_三億円を奪って逃走したことが発覚。後、六刀班長が少年を追詰めたが、少年は所持していた拳銃で自殺・・』と記載されている。


 匿名という単語、自殺という後処理、それらを利用した都合の良さが、勘のいい彼女に警戒心を抱かせる。




 「六刀さん・・

 たしかに、利刃隊が回収した五億、六刀さんが回収した三億も、先程本部で確認されました


 ただ、今回もですが、貴方が担当してきた事件はどれもスマート過ぎる展開・・・・・・・・・で解決していますね

 あまりにも出来すぎた展開でしたので、内容の真偽について確認をし――――」




 受話器越しの彼女の口調が敬語・・になったとき、六刀は口角を上げながら応答する。




 「そうですか、そうですか

 

 エイラ班長……能力者って、恐ろしいですねぇ」

 

 

 

 六刀は、固定電話のフックボタンを押して、受話器を戻す。

 そして、本部で確認されたとされる三億円は、港署の経費から出した三億円だということに誰も気づかないまま――――




 その翌日、港署の窓ガラスに日が照らす午前十時。


 零番内では新任の班長として『神城かみしろいくさ』が班長席に座る。本部の零番は、神城の指示が無くともそれぞれ担当と役割がまとまっており、自然と部署として成り立っていた。


 しかし現在、班長席から神城が見ているのは、まるで零番というより第一課のような、部署ではなく弱小チームのような、どこから正していいかが分からないほどの崩壊寸前な零番だ。


 神城は、言葉を失った。




 「おい三成みつなり!!

 追跡部隊からオマエに依頼が来てるぞー


 なんか能力者ホシに見つかったらしいぜ」

 

 


 「あ??

 いま麻雀中だから無理だわ

 

 ッたくよォ……最近の若ぇモンは、自分じゃ無理だと思ったらすぐに依頼だの増援だの

 自分で対処しようとしねぇから成長しねぇんだよ」

 


 

 「じゃあ

 オレが行きましょうかー?? 」




 「秀一しゅういち、おまえの所属は追跡部隊じゃなくて暗殺部隊だろうが

 自分の仕事しろ!! 」

 

 

 

 「敬翔けいと先輩酷いよ……

 仕事なんて無いのに


 零番なんて、こうして遊んでりゃ勝手に給料が入る部署なんだからさぁ」

 

 


 他の職員と卓を囲って麻雀中の三成。


 他の職員と走り回って鬼ごっこ中の秀一。


 他の職員に連絡と注意だけしか言わない敬翔。


 本部の零番と、港署の零番は、神城が想像していた以上に差があることで、神城はその現状に呆れて声も出せない。

 そうして神城は、まとまりがない零番の現実から目を逸らすように、松田の@zero.daiichi.mtから送信されたメール内容を再び確認する。

 そして『決行は来週か……』と呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る