港署第一課班長『六刀 百咲志』

 『⚠過度な暴力表現が含まれてます』




 人混みと渋滞が目立つ帰宅ラッシュ。

 木造建築の住宅街と、小さな町工場が、街一帯に並ぶ第三地区の田舎街『七武港しちぶみなと

 歩道には経年劣化した街灯と電話ボックス、そして雑草が生い茂る空地に、黒いスーツ姿の怪しい男性二人組。




 「三億だ三億ッ!! 」

 

 


 「二人で山分けにして一億五千万っ!!

 退職金でも一億なんて貰えねぇからなぁ!! 」

 

 


 「そうだなぁ……

 ラグジュアリーなホテルでVIP待遇……

 おまけに第一地区のタワマン最上階……


 あぁ……なんて最高な未来なんだろう」

 

 

 

 黒いスーツの二人は、純白の丸目四灯VIP車サザンクロスへ乗込むと、響く排気音エキゾーストと共にその場を去っていく。

 

 明日からの夢を二人で語れば、途中で寄ったガソリンスタンドでハイオク満タン――――巧妙に横領した億という額、そして、増していく燃料の残量、給油1ℓリットル180が40ℓで金額7200になろうと、今の二人には小銭感覚。

 

 そうして二人の男は、港署へと戻っていく。

 

 

 

 「利刃隊、ただいま戻りましたァ」

 

 


 「お疲れさま

 おぉ……この方々が利刃隊ですか!!

 今回の件では大手柄だったそうじゃないか!!


 私は港署の第一課班長、六刀むとうです

 よろしくお願いしますぅ!! 」

 

 

 

 第一課の班長席に座っている『六刀むとう百咲志ひさし』は、利刃と整威の二人を目にすると、立ち上がって自己紹介を始める。

 立ち上がった六刀の身長は190cm、鍛え上げられたゴツゴツした体格――――XLサイズのタックワークなズボンに、上は純黒なタートルネック。

 更に髪型は、肩辺りで毛先が巻上がった長髪のオールバックをしており、そして尖った眉毛と顎髭が六刀という男を厳つくさせている。


 利刃は『時代に乗遅れたヤンキーかよ』なんて思いながら、渋々自己紹介で返答する。




 「あぁ、どうも利刃恭助です


 本部から異動になり、これから港署でお世話なりますので、よろしくお願いします」




 「では、これからも期待していますよ!!

 

 ところで利刃さん

 八億強奪事件についてなんだが、犯人が持っていたのは五億……残りの三億の行方については、検討もつかない感じかな?? 」




 「そうですね

 三億が無かったということは、犯人は二手に別れて逃走したとしか……考えられないですね」




 「なるほどね

 

 そうですか、そうですか

 では、ウチの四課に依頼・・・・・してみます」




 すると六刀は、デスク上にある固定電話をとり、第四課へと内線電話をかける。

 六刀が電話越しに喋れば、それまで団欒だんらんとしていた一課内が沈黙に包まれる。




 「どうも

 六刀です

 今から能力者を一人捕まえてきます


 そうですね……

 三億を奪って逃走した罪でいいですよ

 自白するまで拷問させますので

 

 では、手筈通りに――――」




 港署から少し離れた住宅街。

 電車が通ると揺れる歩道で、部活帰りの三人の高校生が、和気藹々わきあいあいと喋りながら帰宅している。


 すると、一人の学生が立ち止まる。


 学生は口を開く。




 「誰ですか

 さっきからボク達の後ろにいますよね


 ボクとの距離は約10mですね……気配を消しているようですが、意味ありませんよ」




 住宅と住宅を隔てるコンクリートの塀に、姿を潜ませていた男は『やれやれ……』と、くたびれたような様子で姿を見せる。




 「待て待て

 オレは能力者だ

 

 第一地区で制圧本部に襲われて、さっき第三地区に逃げてきたばかりなんだ……


 第三地区は無法地帯と聞いていたので、周りの人間に警戒しながら街を歩いていただけなんだ」




 「そういうことだったんですね

 すいません、急に……


 ボクもアナタと同じ境遇です

 あ、えっと、名前聞いてもいいですか?? 」




 「六刀と言います

 良ければ一緒にお話しませんか?? 」




 「今からですか……

 いいですよ


 友達も一緒でもいいで――――」



 

 少年は気づくと椅子に座っていた。

 一つだけの蛍光灯に照らされたコンクリートの四角い部屋に、少年はパイプ椅子に座らされている。


 半裸状態で、腕と足と腰はロープで縛られている。

 腕は後ろで組まれた状態で縛られており、容易に縄は解けない。




 「え……なにこれ……ぇ?! 


 どういう、どういう状況ですかこれは!!

 あなたは一体……」




 「気づきました??

 私は港署の第一課班長の六刀です


 ところでキミ、現金強奪事件は知ってます?? 」




 「知ってます

 今日の昼頃、港署が解決した事件ですよね」




 「なら話が早い

 八億強奪されたんですが、残りの三億が見つかっていないんですよ


 キミ、三億奪って逃走したでしょ?? 」




 「は?? 


 そんなのするワケな――――」




 六刀は、少年の背後へと歩く。

 そうして六刀がナイフを手にすれば、少年の右手の第一関節を切り取ろうと、刃を指先に当てて前後に動かす。


 少年の大人びた口調も崩れ、シンプルなコンクリート部屋に叫び声が響く。




 「奪って逃走しましたよね??

 奪って逃走したんですよね??


 三億奪いましたよねぇ!!

 ねぇ!!

 ねぇ!! 

 え、えぇ、痛いの??

 どう痛いの??


 気になる、教えて詳しくどう痛いんですかッ!! 」




 少年は自白しない。

 六刀の質問が増える毎に、少年の指先は簡単に切り取られ、そして残った無傷の指は四本。

 鋭い痛みよりも、大切な指先を失った虚無感に、六刀の質問すらも頭に入ってこなく、ただ単に自白が出来なかった。


 少年は、叫び声により喉をやられ、酷く掠れた声で六刀にたずねる。




 「い……言えば

 ここから帰して、かえし……くぇますか?? 


 三億を……三億、を奪って

 逃走したの……はボクッ、だから……


 ボクが、奪いまし……たから……もう」




 足元に血が溜まる。

 第二関節から鼓動に合わせて吹き出る血液は、まるで何かのオモチャのようで、六刀は微かに笑って『ようやく認めたか』と呟いた。




 

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