三億横領事件

 立体駐車場に停めた覆面車両サザンクロス

 キーを回しV型6気筒エンジンを唸らせれば、ウィンドの向こうから、利刃は呼び止められる。



 

「一人で行くのは渋いぜ利刃」

 


 

 助手席側のドアを開けたのは、第一課の利刃隊に所属している整威ととのいだ。

 大柄な体格、気怠い態度、そして肩まで伸びた長髪を旋毛つむじ辺りで一つに縛った格好は、まるでスーツ姿の侍のようで――――さらに、利刃に背中を任せて十年、能力者の血を滝のように浴びてきた利刃の戦友だ。

 

 

 

「いまの時代、セクハラだのパワハラだの、肩身が狭くなったな……なァ利刃


 異動の件は仕方ないさ

 山軋も遠坂も異動の関係で、そこの中高一貫学校の転入手続きに行ったからよ


 今回は俺達だけで任務遂行だな」

 



「そうだな」




 整威は、車の助手席に乗込むと、ナビ画面の下にあるシガーライターで、タール11mmの煙草レギュラーに火をつけて一服。


 そして、無線通信機器トランシーバーを取り出す。


 足を組みながら強気な笑みで、さらに、煙草を噛みながら慣れた口調で、港署の第二課と第四課に事件調査を要請する。


 

 

「あぁどうも、一課の整威です

 まァ……そうだね、指示したところに検問・・を張ってくれれば大丈夫です

 

 第二課は第三地区の至るところに、可能な限りの検問を張ってください

 第四課は、第三地区内で検問を避けるように・・・・・・・・・走る車を探してください

 

 見つけ次第報告願います

 俺達はそこに向かいますから」




「ですが整威さん、一つ質問が……

 何故、現金輸送車を含め、一般で走行する車まで検問するんです?? 」




「質問で返しますが、わざわざ分かりやすい現金輸送車で逃走し続けますかねぇ??


 自分だったら別の車に乗り換えますよ


 ですが一応……この考えが間違えてたら、自分は責任取れないので現金輸送車も注視願います」




「さすが整威さん……

 承知致しました!!

 早速実施致します!! 」




 それから二人は、第二課と第四課からの連絡を待つだけとなり、連絡が来るまで車で待機を始める。


 利刃は、運転席のシートを倒し、携帯画面を横にして映画を見ている。


 それから映画の中盤シーン。お互いに片想いをする鈍感な男女は、カラオケBOXという密室で二人きり、ついにAの予感。

 向き合う二人は瞳を見つめ、友達を恋人に変える五秒前、求めるXXXキス、乱れる鼓動ペース、唇はわずか1cmのところ――――




「利刃隊各位!!

 緊急連絡、整威さんの指示により、対象と思われる車両を発見!!

 

 ナンバーは、明道302、C、・777スリーセブン

 利刃隊の携帯にマップを送信させて頂きました

 大至急、対応願います!! 」




 第四課からの連絡が切れると、利刃は、映画のラストシーンに『Cはあるかな』なんて想像しながら立体駐車場を出る。


 回転灯パトライトを回しながら港署を出て右折、川沿いの工業地帯を目的地として、車通りの少ない逸れた道を走っていく。


 白煙を上げながらタイヤを鳴かせて急カーブを曲がると、法定速度の車と車を追い越して、まるで布を縫うように道路を駆け抜ける。




「おい利刃……あの黒いセダンじゃね?? 」




「間違いねぇな」




 信号待ちの赤信号、停車中の怪しげなセダン車を警戒してみれば、ナンバーは・777スリーセブンでビンゴ。


 現在第一車線。


 後方ケツについてみれば、十秒ほどの沈黙、すると此方こちら追手おってということに気付いたのか、赤信号を無視して急発進で左へ曲がる。




「ナイスだ、整威


 そんじゃ、久々に大馬鹿者コンビ・・・・・・・の再結成といこうじゃねぇか!! 」


 


 アクセルをベタ踏みで追跡。

 メーターが法定速度から60kmオーバー。

 寂れた工場と倉庫が、数百メートル先まで続く寂しい一般道で大追跡カーチェイス


 距離を詰めても離されて、延々と続くSPEEDスピード勝負はまるでサーキット。

 そのとき、前方を走るセダンの後部座席から、男が顔を出す――――手には拳銃。


 一発、二発、と撃ってきている。

 利刃は左右にハンドルを切って避ける。




「えぇ銃持ってんのかよ……


 制圧対象確定だな」




 すると整威は、絶対戦術を起動する。


 出刃包丁のようなをした槍型の絶対戦術を、走行中の道路に擦らせ、火花を散らしながら機会を伺う。


 利刃が運転する覆面車両は、二速6000回転オーバースピードからのドリフトで滑らかに左折。

 そのスピードのままハンドルを逆向きに切り、サイドブレーキを引いて車体を右斜めにスライドさせると、整威は・777スリーセブンのセダンを目で捉える。




「はい、逃走お疲れさま」




 整威はニヤリと笑いながら、槍型の絶対戦術を振り上げる。

 ギラついた滑らかな刃が天を向くとき、岩を巧妙に加工したような壁らしい壁が、道路のコンクリートを砕きながら前方100m先まで突き上がる。


 逃走中のセダンは、突如出現した壁に押上げられ、横転して大破する。




「ナイスだ整威


 そんじゃ車内を確かめますかァ」

 

 

 

 利刃と整威は車から降りて、大破した車のドアを蹴り飛ばす。

 すると、車内から出てきた現金収納用のアルミ製ケースが目に止まる。

 ケースの中身が大量の札束であることを確認し、ケースを閉じると、利刃が――――




「コイツらが持ってたのは五億だ

 八億強奪された内の三億は知らん」

 

 

 

 整威は、周囲に防犯カメラが無いことを確認し、無言で覆面車両サザンクロスのトランクを開ける。


 トランクに八億円分のケース・・・・・・・・を積むと、二人は何も無かったかのように現場を去る。


 そして、街中から逸れた木造建築の住宅街へと車を走らせる。




「人目の無い空地とかがいいね……こことか」




 雑草が生い茂った空地を見つけると、そこの路肩に停車させ、利刃はトランクを開ける。

 空地の隅に三億円分・・・・のケースを置くと、利刃と整威は車に戻っていく。




「よし、戻りますかァ

 我らの港署へ!! 」




 二人は上機嫌で港署へと戻っていく。

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