港中央制圧所_大追跡編

ハラスメントが明るみになって

 埠頭でのドリフト追跡から、今日で八日目となる金曜日の晴れた朝。


 午前十時、港中央制圧署に設けられた『隊室』で、利刃隊四人は起床する。

 隊室とは、一課から四課、そして零番の職員が利用する『寮』のような2LDKの部屋。




「今日は仕事の気分じゃねぇな……」




 利刃恭助は、洗面台の一面鏡に語りかけながら、手のひらでポマードを馴染ませ、髪をオールバックに整える。

 本部から支給された制服『隊服』の、真紅なタイを首元まで締め、ダークなスーツを華麗に羽織る。


 すると利刃の携帯が鳴る。




「はい、こちら利刃隊

 お疲れさまです


 あ、はい、そうですが――――ん、今からオンラインで緊急連絡会を開く?! 

 パソコンを準備すればいいんだな??

 あぁ、承知しました


 では失礼します」




 隊服姿に整えた利刃隊四人は、パソコンの画面の前に座る。




「利刃隊、準備完了致しました」



 

 オンラインの緊急連絡会が始まる。


 今回の緊急連絡会には、第二課の交通整備課・・・・・、及び第一課の指導員クラスが、画面越しに集結させられている。


 司会者は一課班長の『EilaエイラJutilainenユーティライネン


 利刃より六つ下の二十六歳。

 肩まで伸ばした白銀のショートヘア、引き締まった細身なスタイル――――どこか塩らしく、強気な瞳で職員を厳しく見守るが、それは世の男性にとって不適切。

 男性を惑わすほどの容姿端麗な女神レディだ。


 さらに、彼女の唇になぞられる口紅リップは、微妙なグラデーションをしたあかのセブンティカラーズ。

 もし、その甘い唇で『個人的な話があるの……』などと囁かれてしまえば、世の男性はたちまち惚れてしまうだろう。




「各支部の諸君

 本部一課班長のエイラだ


 本題の前に、まずは職員間でのハラスメント行為について展開をする


 近年増加傾向にあるパワハラやセクハラは、職員の定常業務に対するモチベーションを下げる行為であるのは御存知ごぞんじだな??


 この件について、利刃はどう思う?? 」




 利刃は、一度咳払いをして呼吸を整える。


 そして、紳士的な風格で、真摯に反応する。




「はい

 皆さんお世話になります

 本部一課、利刃隊隊長の利刃です


 未だハラスメントが無くならない現状に、私自身とても胸が痛く感じております

 セクハラやパワハラなどは、職員のモチベーションを下げる行為になります


 決して許されないと思っております」




「そうですか……

 はい、分かりました


 おい利刃!!


 弱みにつけ込んで女性職員に手を出して!!


 更には脅迫や恫喝どうかつ!!


 本部に入りたての高校生にまで、教育といいながら殴る蹴るの暴行!!


 オマエそれでも指導員かっ!!

 はぁ……では、この件を踏まえまして、利刃隊を港中央制圧署へ異動・・させます

 また、この件には関係ないが、神城さんと勇さんも、同署へ異動となりましたので」




「は?!


 おい待てよバカ野郎!!

 ふざけんな!!

 ちょっと可愛いからって調子乗んな!! 」




 画面越しに映る彼女は、黒いチェアに脚を組みながら、手元にある紅茶を一口飲んでいる。


 そして、デスク上に用意されたA4サイズの資料を一枚とると、それに記載してある内容を読み上げる。




「黙りなさいセクハラ隊長!!

 意義は認めないわ


 ということで本題――――これは最悪のニュースになるが、今朝八時頃、第一地区にある明道銀行の現金輸送車が強奪された


 金額は八億円よ??

 強奪された現金輸送車は、現在検問を突破し、第三地区に向かっている」




 莫大な金額の強奪事件は、このオンライン会議から約三時間前の出来事。

 オンラインの画面の中では、まるで全員がミュート設定にしているかのような沈黙状態が続いている。


 沈黙の中、利刃が不意に『バカかよ・・・・』と呟けば、それに続くかのように、画面の中の大人達が一斉に騒ぎ出す。


『犯行手口はどのように?? 』

ただちに犯人の特定を!! 』

『なぜ犯行を阻止できなかったんだ!! 』

『すぐこの事件を隠蔽せねば……』

『情報操作部のアイツを呼ぶか?? 』

『セクハラごときで異動させんなバカ野郎!! 』

『アイツはこんくらいじゃ動かんぞ!! 』


 大混乱する画面の中、彼女は話しを進める。




「だまれ

 口縫うぞ


 私に喋らせろ


 現在、第四課の調査では、現金輸送車は第三地区の港方面に向かっている模様


 よし、セクハラ隊長――――今すぐ第二課と第四課と連携をとり、お前ら利刃隊のその強引な手口で犯人を制圧しろ!!


 港署職員として初の任務だ

 誇りと思え」


 


「うい」



 

 利刃は画面上にある退出ボタンを押し、緊急連絡会から離脱する。



 

「おいオマエらァ!!

 今日から利刃隊は、港署・・の利刃隊だ


 あと、セクハラなんてデマだ!!


 エイラ班長の言うこと信じるなよ?! 」

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