華金なのに男だけ

 深夜の産業道路を時速100kmで走行中、神城は後部座席で肘をついて外を眺める。

 能力制圧本部が管轄する第一地区を抜けると、そこは民家や町工場、明かりが少ない第三地区・・・・の田舎街に出る。


 そしてコンビニに立ち寄り、利刃は切らした煙草を買いに行いくと――――神城が「急いでるときに煙草かよ」と、見えないところで舌打ちをする。


 そのとき携帯に着信が入る。


 松田からの着信だ。

 



「神城か

 手短に話すから聞いとけよ


 庭園は一ヶ月後、第三地区にある港のコンテナ埠頭『七武しちぶ埠頭』を占拠せんきょし、そこを拠点にすると言っている……おそらくだが、物流を停滞させ、明道市の生活資源を絶つのが目的だろう


 それとヤツらは、大量の銃器を外国から違法で取引し、その資金調達のために身代金目当ての誘拐を計画してる

 長くは電話出来ねぇから、この後の詳細はメールで送らせてもらう」




「承知しました

 では、そのメール通りにこちらも動きます


 それと恐縮ですが、助けは……必要ですか?? 

 かなり危ない任務になりますが――――」




「俺だけで大丈夫だ、心配すんな

 なにしろ相手は庭園だ


 完全にバレねぇ追跡・・・・・・が出来るのは、今の零番には俺以外、誰もいねぇんだからよ

 増援なんて足を引っ張るだけだぜ


 六年前の悲惨を繰り返さんために……今回、追跡に関しては俺だけにやらせてくれ」




「分かりました


 この任務、任せましたよ

 必ず本部に道を示してください」




 庭園が占拠を予定している七武埠頭も、ここから近い距離に位置する。

 しかし、本部からは距離があるため、早急な対応が出来ないことに神城は苦悩する。


 すると覆面車両サザンクロスのボディにもたれた利刃は、粋な雰囲気で煙草レギュラーを吸いながら、神城に今後の指示を伝える。




「今日からこの六人で、この街の支部・・に一旦身を置くことにする


 もちろん、神城班長の命令に従いましたってことにするがな」




 神城の理解が追いつかない。




「それ本気なんですか??


 おそらくですが、利刃さんとこの班長は許してくれませんよ?? 」




「そんなの関係ねぇよ


 ここから本部までは400km

 今から帰りたくねぇよ……面倒くせぇもん」




「もうどうなっても知りませんからね」




 木造の民家、寂れた町工場、静かな田んぼ、第一地区の中心都市とは真逆の街『第三地区』

 本部から400kmもの距離があるため、この街は能力制圧本部の支部にあたる港中央みなとちゅうおう制圧署せいあつしょ――通称『港署』が管轄している。


 港署は、学校を五つほど複合させたような、五階建ての広い面積をもつ建造物。

 その屋上には、高さ20mの電波塔が建てられており、本部からの情報が即座にキャッチ出来るようになっている。




「さて、そろそろ港署向かいますかァ」




 半分も吸っていない煙草の火種を、指ですり潰して、利刃は車に乗り込む。




「港署に着いたら、神城と勇、整威と遠坂、四人は先に受付済ませておいてくれ」




 コンビニから車を走らせること十五分、港署に到着すると正門前へ車を停車させ、山軋だけを助手席に乗せる。

 すると深夜にも関わらず港署の玄関からは、喧嘩で検挙された不良少年や、売春行為で捕まった美女達が出てきており、活気で満ち溢れている様子が伺える。


 そのとき、神城が利刃に話しかける。




「これからどこに行くんですか?? 」




「ちょっと付近をパトロールしてくる」




「パトロールですか

 夜は危険ですので気をつけてくださいね


 ではっ」




 去り際、利刃に敬礼。

 そして港署の署内一階の受付で、四人は本部からの派遣という形で話を進めていると、受付の中年男性『村井むらい』には信じてもらえず――――そのとき、勇が整威の背後から姿を出し、受付に顔を見せる。




「……あ、貴方はス、監査部の勇さん!? 」




「そうですそうです


 オレも派遣の一人でして

 参りましたねぇ……どうも、ハッハッハ!! 」




 その頃、七武埠頭を巡回している利刃と山軋は、深夜の埠頭に集まるドリフト族を探していた。

 この七武埠頭は、金曜日と土曜日の夜中にドリフト族が集まることで有名なドリフトスポットだ。




「今日は金曜だぞ、金曜……華金だろーがよ

 走り屋いねぇのかよ」




「利刃さん向こういました!!


 五台で追走ドリフトやってます

 現行犯ですね

 とっ捕まえてやりまし――――ぉ」




 アクセルをベタ踏み。


 二速にシフトを落とす。


 CRANK/Sクランクの回転数は6500。


 第三車線から第一車線へ向けてハンドルを左に切って――――刹那、右にハンドルを切りながらサイドブレーキを引く。

 車体の後部Rrが滑って制御を失うと、更にハンドルを左に切って、アクセル全開。


 後輪からスキール音と白煙を上げながら、右Uターンをドリフトで抜けていく。




「利刃さん!?

 何やってんすかァ!! 」




「何って、ドリ車の追跡だろォが


 さァ……共同危険行為で現行犯逮捕と行こうじゃねぇか!! 」




 ドリフトに追いつけるのはドリフトだけ。


 嘘をつかない己の機械マシーンで、Uターン地点にオーバースピードで突入すると、後輪を滑らして横滑りワンエイティ


 本気マジ追跡チェイサーが、今夜の利刃を止まらせない。

 そして、車載用の拡声器でドリ車に呼びかける。




 「前の五台止まりなさい

 速やかに止まりなさい


 ……止まってくれんな」




 「利刃さん、オレ……こういうときは優しさが大事って教わりましたよ」




 「そうだな山軋

 大事なのは優しさだよな


 よしッ、前の五台とまりなさぁい


 速やかに止まりなさぁい……」




 ――――




 「止まれッつってんだよ!!

 この野郎!!

 港署なめとんのかァ!?


 ドリフトの罪で現行犯じゃバカ垂れぇ!! 」




 新品車高調で車高をベタベタに下げた利刃専用の覆面車両――――ホワイトボディな丸目四灯のセダンが、目線の先でドリフトを繰返すドリ車に対して『ドリフトやめなさい』と拡声器で呼びかけては、カーブをスライドさせながらドリフトで追いかける。


 ドリフトでUターンを繰り返すドリ車。


 ドリフトで追いかけ回す覆面車両。


 負けず嫌いな利刃は、今日も夜に輝く。

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