どうしても能力者が許せない

 零番班長である神城旅かみしろ いくさは、自分自身より遥か上の存在を、まるでけなすかのように語る。

 

 

 

「不敗神話を保つようになった原点

 七名だけの最高戦力

 

 アイツらは……

 

 七つの魂スパークスだ」

  

 

 

 七名は究極の利己的主義者エゴイスト

 

 理不尽と不平等が出来上がった原点だ。

 

 戦場で戦士が血を流している頃、上層部達スパークスいびきをかいている。


 都合の良いタイミングで現れては、権利無き者マリオネットの背後で指揮をとり、無謀な手段で平和な国ガンダーラを求める存在。

 

 

 

「なんで……制圧本部なのに

 

 その、スパークスって上層部を、って言うん……ですか??」

 

 

 

 少年は、神城に質問をした。

 

 

 

「……」

 

 

 

 神城は、少し沈黙した後、口を開いた。

 

 

 

「オレから大切なモノを奪ったからだ」

 

 

 

 人混みも見えなくなる午後十一時。

 

 国道180号線ルート ワンエイティーに延びる一筋のセンターライン。

 

 ホワイトボディをした丸目四灯まるめよんとうの自動車が、時速100kmのスピードでハイウェイを走り抜ける。

 利刃の愛車『サザンクロス 30VZS サンマル』だ。

 

 制限速度をオーバーしていることなど気に掛けることなく、利刃は警察のスピーカーを手に取って叫んだ。

 

 

 

「えぇ……テステス、一課の最強イケメンと、他三名が通りまーす

 急いでま――――な、なんだよ山軋?!

 いいだろ格好付けさせろよ……ッたくよォ

 

 第二地区にて能力者の暴動

 繰り返します

 第二地区にて能力者の暴動

 

 えぇ、速やかに帰宅願います」

 

 

 

 鳴らされるクラクションなど気にせず、進みつづける。

 

 

 

「利刃隊長

 現在、現場では既に一人対応してますが……」

 


 

「そいつの名前は?? 」

 

 


第一課ウチらの主力であり特攻隊長

 きしさんです」

 

 

 

 利刃隊の向かう先は第二地区。


 第二地区とは、能力制圧本部が拠点をおく第一地区と隣接する都市になる。


 日本の中心部にある面積30000k㎡の第一地区から、北に向かって、太平洋に沿って、山々にへだたれながらも数珠繋じゅずつなぎのように並んでいる都心。

 第一地区と繋がる国道139号線ルートワンスリーナインは片道四車線で、眠ることを知らない株式と有限のビルディングが、終わりを見せず先の先まで並んでいる。

 右に曲がっても、左に曲がっても、外れた道すら行き交う人々で大混雑。


 利刃が運転する覆面車両は、雑居ビルが続く通りを、右折して国道139号線。




 「第二地区かよ……

 ッたくよォ、疲れるなぁ」




 能力者が暴れている現場は商店街。


 そこは、第一地区と第二地区の間に位置する賑やかな場所。


 赤い提灯ちょうちんが並び、黒い暖簾のれんが客を迎える。昔ながらの渋い雰囲気をした商店街だ。

 

 しかし、今日は人の気配がしない。

 今宵、三十名ほどの能力者が、この明るい商店街で暴動を起こしていたからだ。

 

 

 

 「おい山軋

 第二課へ閉鎖対応の依頼、もう済んでるか??」

 


 

 「はい

 既に対応してもらってます

 

 ただ現在、一対複数の戦闘になってますので……利刃さん、急いでくださいね」

 


 

 「任せとけ」

 

 

 

 二車線状の緩いカーブと、Uターンで、ドリフトを決めながら現場へ直行する。

 

 そうして、ついにオービスが光った。

 

 

 

 「みんな……ごめん」

 

 

 

 第二地区、商店街『西通り』にて――――

 

 

 

 「街中で能力発動

 及び、街中で発砲

 

 オマエら……そんなに制圧されたいのか??」

 

 

 

 能力者の二人が、地面に膝をついて倒れた。

 

 次第に広がる血溜まり。それは、止まることなく『特攻隊長』の革靴にまで広がった。

 

 しかし、まだ三十名ほど、制圧対象の能力者が残っている。

 

 

 

 「テメェ……ただモンじゃねぇな

 

 誰だ

 誰だァ!!」 

 

 

 

 能力者の一人が叫んだ。

 

 

 

 「オマエら能力者を……

 

 誰よりも殺したくて仕方ねぇ男だ」

 

 

 

 その男は、ブラックなスーツとスウェットとTシャツに袖を通した『黒ずくめ仕様』の服装をしている。

 まるでスパイ映画に登場する暗殺者のようだ。




 「二人は殺したが……あと三十人か


 三十……オレの歳とあんま変わらんなァ」




 男は、残兵の数を数える。


 一対三十の状況でも動揺を見せない。


 そして、無造作に下ろしていた黒い長髪を、その手で後ろへ掻きあげる。

 



 「まァいいや……で、オレに制圧ころされたいヤツから順に来いよ


 丁寧に制圧してやれる自信はねぇけどな」




 男は、その死んだ魚のような目付で、微かによろこびの悪笑を浮かべる。


 そして、その手に持ちつづけるのは、血で所々錆びた金槌かなづち型の絶対戦術――――その年季は、幾度となく能力者を制圧してきた証拠であり、この男こそ第一課の特攻隊長『きし 錬次れんじ』だ。


 スパークス昇格の話も出ているほど、岸の戦闘力は、第一課の理想戦力エルドラドであり最高峰マスターピース

 

 

 

 「いい度胸だなオッサン

 ただ、オレたち天下の犯罪組織『庭園ていえん』に、堂々とたて突こうってかこの野郎??

 

 これまで何人、制圧本部のゴミ共を殺してきたことか……犯罪上等だってのに静止を求めてきやがって

 悪りィが、庭園は止められねェぞ??」

 

 


 そのとき、岸は表情を失ったかのようにしずまった。




 「そうかそうか……オマエら

 

 庭園だったのか」

 

 

 

 庭園は能力制圧本部の宿敵組織こいびと

 かつて七つの魂スパークスとも一戦交えたこともある過激派犯罪組織だ。

 庭園絡みの事件は、どれも明道市民の記憶に残る大事件ばかりで、特に六年前に能力制圧本部を一斉襲撃した『Z一九・本部襲撃事件』がある。

 襲撃関係の死者(下記参照)

 ・庭園の構成員_ 107名死亡

 ・本部の職員_ 180名殉職

 ・一般の市民_ 50名死亡


 十二年前には、庭園の一部過激派による、会社員Kの妻と子を虐殺した『親子惨殺事件』があり、現在も犯人は逃亡中。

 私利私欲が生んだ殺人だ。その後、会社員Kは復讐と制圧に溺れ、現在は第一課の特攻隊長として前線に立っている。


 

 

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