明道市に微かな光

 大人の物差ものさしに踊らされるのは少年少女マリオネット

 火を灯さずとも見える理不尽と不平等。

 生活と居場所を探して百鬼夜行――――この世に立ち向かう『誰か』が現れない限り、能力制圧本部は不敗神話を保ちつづける。

 

 殺人という罪重ねて、積重ねて出来た『武力』の信頼が、能力者以外の市民に安心安全を与える。

 大義たいぎの元の殺戮さつりくこそ正義であることから、誰も、正義の元の制圧に『間違った正義』なんて言う気がなければ、勇気もない。

 

 そうして、殺伐とした帝国が誕生したのである。

 

 

 

「ヤだッ

 離して……痛い、離してぇッ!!‌ ‌」

 

 

 

 人混みが目立つ午後七時。

 

 直線3kmが閉鎖となった国道303号線ルート スリーオンスリー

 

 夜空のムーンライトと街路灯のホワイトライト、さらに携帯のフラッシュライトが、利刃隊と少年を四方八方から照らす。

 

 そして利刃は呟いた。

 

 

 

「オレの同僚も、後輩も先輩も上司も……

 もうオレの思い出でしか生きてねぇ

 

 みんな能力者おまえらに殺されてる」

 

 

 

 すると利刃は、山軋から受け取ったナイフで、少年の首元を切りつけようと腕を振り上げ――――

 

 

 

何もしてない!!

 傷ついた子がいたから……助けたかった、だから助けただけなのに……なんでッ」

 

 

 

 血がポタポタと垂れる傷口を、その手で思いきり抑えながら、少年は激しく身の潔白を訴えた。

 この世は理不尽だ……そう感じてしまうこの瞬間ときに、少年は希望という二文字を失いかけていた。

 

 そのときだ――――

 

 

 

 利刃のポケットから曲が流れた。

 

 

 

「あ??‌ ‌」

 

 

 

 利刃のスマートフォンから着信音。

 

 その着信音は、二十年前に流行っていた刑事ドラマ『キケンな刑事デカ』の主題歌だ。

 

 

 

「はい、もしもし

 こちら第一課、利刃隊ですが」

 

 

 

『こちら

 利刃隊各位へ緊急連絡

 

 第二地区にて能力者による暴動が発生


 利刃隊は現場を後続に任せ、至急現場に向かわれたし!!

 繰り返す――――』

 

 

 

「わかった

 今から現場向かいますんで、はい、了解です」

 

 

 

 不都合なタイミングで緊急連絡エマージェンシー。 

 

 零番とは、暗殺行為や潜入捜査など、人の目に着きにくい極秘任務を中心に行う『裏方作業員』だ。

 表に出てくることは滅多にない。

 

 そして現在、裏側から本部を支える『縁の下の力持ち』が、第一課の利刃隊へと緊急連絡を入れたのである。

 

 

 

「はァ……タイミング悪りィ

 仕方ねぇ、ここは引き上げだオマエら」

 

 

 

 利刃は、絶対戦術『桃山武将ホーリー大太刀十文字ブレイド』の解放を解いて、十字架のペンダントの姿に戻した。

 

 

 

 そして――――

 

 

 

「はぁ……はぁ、助かっ……た」

 

 

 

 路地裏へと逃げるように移動する少年。

 雑居ビルと雑居ビルの間、身を潜めるように座り込んでは、痛む傷口を自身の回復能力で癒す。

 

 

 

「もう……学校には、行けないじゃん」

 

 

 

 能力制圧本部に見つかったということは、警察からの補導同様、家族や学校にも連絡が行くということだ。

 自身が能力者、そしてだと知られてしまえば、居場所を失うことなど当然だ。

 

 そうして、この先に悩んでいると――――

 

 誰かが足音を立てる。

 

 誰かが少年に近づく。

 

 

 

 

 ほら……お願いだから、そんな悲しい顔するなよ」

 

 

「ッ?!‌ ‌」

 

 

 

 少年に話しかけ、そして手を差伸べて――――そこには、まるで冷静沈着を絵に書いたようなが立っていた。

 

 

 

「オレは神城 旅かみしろ いくさ

 制圧本部の……零番班長だ」

 

 

 

 神城と名乗る青年は、零番班長。

 イケイケの十九歳だ。


 班長とは、その課に幾つもある『隊』をまとめ上げる最高指導者トップのことだ。

 経験と信頼よりも、実力がなければ、班長には昇格できない。

 

 

 

 

「制圧本部ッ……こっち来ないでよッ?!‌ 」

 

 

 

 神城という青年は、片目を隠すほどの白髪はくはつで、そしてサファイアのように青く澄んだ瞳をもっている。

 

 さらに、キリッとした男前の顔つきは、どこか幼さも感じさせている――――しかし、その引き締められた強靭な体つきが、容姿の幼さを掻き消す。

 

 故に『かっこかわいい』である。

 

 

 

「邪魔な第一課ゴミは片付けた……

 本当に申し訳なかった

 

 キミは何も悪くない

 本当に悪いのは……制圧本部を極右きょくう思想に変えただけだから」

 

 

「アイツら……

 さっきの黒い服の男たち、ですか??‌ ‌」

 

 

 

 そのとき、神城の瞳が揺らいだ。

 

 

 

「違う……違うよ

 もっと、それ以上に……

 

 第一課のゴミ共も、オレたち零番も、結局の下でしかないんだ

 

 制圧本部を大きく変えたアイツらは――――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る