理不尽な正義

利刃とば隊長!!

 第二課から、周辺閉鎖の申請が通りました

 

 現在対応してるのは鬼刺きざし隊と紅舟あかふね隊の二隊です」

 

 

「依頼してから三分か

 第二課にしちゃ早い方だな

 

 よし……サンキュー山軋やまぎし

 

 

 

 環状線をサーキットに見立てた走り屋ルーレット族が、爆音の排気音エキゾーストを唸らせる頃――――大都会と大都会を繋ぐ架橋である国道303号線ルート スリーオンスリーが直線3km閉鎖となった。

 ナイフのような北風に煽られながら、能力制圧本部の『利刃とば隊』は、街路灯のスポットライトに照らされる。

 

 

 

「おまえ……もう逃げ場なくなったな??‌ ‌」

 

 

 

 無造作なオールバック、中途半端な無精髭ぶしょうひげ、三十代前半のオジサン――――利刃隊隊長『利刃とば恭助きょうすけ』が前線に出る。

 

 彼が所属している課は第一課。

 

 第一課とは、我先にと戦場に立ち、最前線で命を張る戦闘部隊のことである。

 

 

 

「ボクをどうするつもりなの??‌ ‌」

 

 

 

 少年は不機嫌そうな顔で質問する。

 

 

 

「まァ……その身で確かめろ」

 

 

 

 利刃は、為息ためいき混じりの呆れ声で『確かめろ』と答えては、スーツの胸ポケットからを取出す。

 

 

 

「そ、そんなの……ヤだ……

 

 なんで……なんで、ねぇなんでボクは……

 なにか悪いことでもしたの??ㅤ」

 

 

「おまえは能力者であって、法律違反者でもあるんだが」

 

 

「そんな……

 人をことは……そんなに、そんなに悪いことなの?!‌ ‌」

 

 

「人を助けようが何だろうが

 能力持ってりゃ誰だってだろうが、な??

 

 だから、すこし痛い目見てもらうね??‌ ‌」

 

 

 

 そうして利刃は、十字架のペンダントを右手の人差指ひとさしゆびに吊り下げる。

 少年の顔辺りに、十字架が重なるようかざしては、静かに一言――――

 

 

  

桃山武将ホーリー……大太刀十文字ブレイド

 

 

 

 利刃が呟いた。

 

 呟いてからコンマ五秒後、指に吊り下げていた十字架のペンダントが、に変化する。

 

 大太刀のように反った三つの刃――――まるで十文字槍の部分だけを拡大したような刀身だ。そして、それは表通りのホワイトライトを反射し、冷たく、鋭く、煌めいた。

 

 

 

「なに……なんなのッ、その大きな剣……?!‌ ‌」

 

 

 

 十文字の刃を見せられた少年。

 本当に制圧ころされるのだと察したのか、一歩、二歩、と後退りしては、利刃の許しを乞うために両手を上げる。

 

 そして利刃は質問に答えた。

 

 

 

「これはオレの絶対戦術ぜったいせんじゅつ……

 能力者を殺すための武器なんだがね」

 

 

 

 絶対戦術とは、能力制圧本部に所属している職員のみ、所持と使用が許された武器のことである。

 通称『AアブソリュートSサーベルス』という名でも知られており、その効果や威力に関しては、能力者が有する能力に対して、に戦うことが可能とされている。

 

 

 

「ほら、大人しくオレに制圧されようね??‌ ‌」

 

 

 

 利刃は、少年の首辺りに、刃の切先を当てる。

 

 

 

「え……」

 

 

 

 少年は、見えない死の足音を聞いたのか、言葉を失う。そして、今すぐ利刃から逃るため、表通りの雑居ビルへと走り出して――――

 

 

 

「おぉ、逃げんな能力者ァ!!‌ ‌」

 

 

「痛ッ……あぁぁ」

 

 

 

 利刃は、十文字の刃を振るい、少年の背中に刃を食い込ませた。


 そして、少年の返り血を浴びる。

 

 


「ヤだ……こ、こないでッ……!!‌ ‌」

 

 

 

 利刃は、刃を引きずりながら、座り込んだ少年の元へと近寄った。ジリジリ……キリキリ……とコンクリートを削る音が、閉鎖された国道303号線に響いた。

 

 そして、少年のそのストレートで美しい黒髪を、利刃は思いきり掴む。




「おまえちょっと、そこの路地裏来い」

 


「え……い、いヤだ」




 少年は首を左右にふる。




「おい山軋やまぎし

 ちょっとナイフ貸せ」

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