第8話 tiny breach
「遂に来たか、第二回任務」
先ほど、授業終わりに俺は先生に呼び出された。呼び出されたのは三人。
俺、音無、布井。
(ま、比較的やりやすいメンバーで助かった)
おそらく今回は俺が指示役兼アタッカー、音無が援護、布井がバランサーだろう。
「いけるか、お前達」先生が言う。
「はい」
「はーい」
「は、はいっっ!」
布井が硬い、そして音無は緩すぎる。
分かっているのだろうか。
これから始まるのは訓練じゃ無い。
実戦だ。
ミスったら負け、じゃない。
ミス=死に直結する。
1手、たった1手だ。
たった1手のミスで、自分の、そして仲間の命が危険にさらされる。
確かに布井は硬すぎる、これでは普段の力が出せるとは思わない。
けれどこれが普通の反応だろう。
これまで普通の学生だった奴らがある日いきなり、これからは君の一挙手一投足が仲間と自分の命に関わる、なんて言われて平然としてられる訳がない。
だというのに。
「柊さんがいるなら安心です~。困ったときは助けてください~」
余裕、それとも無知か。
とはいえ、
「うん、よろしくね二人とも。一緒に頑張ろう!」
それを伝えたところで現状何一つプラスは無い。
とりあえず緊張をといて少しでもパフォーマンスを上げてもらう必要がある。
「いつもどおり、任務の明確な時間は分からん。各自いつでも出撃できるように準備を怠るな」
「りょ、「「了解」~」!」
(揃ってんだか、揃ってないんだか・・・はあ・・・)
――――――――――
俺は自室で武器の手入れをする。
あの後、いつもの日課をこなし、食事をとった。
最近俺は夜、一人部屋で考える事が増えた。
(あの夢は、何なんだろうか)
俺はあんな記憶知らない。
というかそもそも自分の記憶で抜けている部分は特に無い。
記憶が抜けているなら、そこを思い出したんだろうと予想が付く。
だが、抜けが無いのならば。
果たしてそれは、何の記憶なのだろうか。
「・・・ま、あんま考えてもしゃーないか」
天使が現れるのはいつか分からない。
体力は多いに越したことは無い。
今日は早めに休んでおこう。
「ん、んーーー」
朝の光でゆっくりと目覚める。
「いー朝」
少し眠い頭を切り替える。
その時だ。
ビー、ビー、ビー!
「・・・もしかして天使って朝好きなのか?」
二度目の召集がかかった。
俺は急いで待合室へと向かう。
向かいの廊下から布井が走ってくる。
「おはよう布井!調子どうだ!」
「お、おはよう柊君!た、多分大丈夫!」
(多分じゃ困るんだけどな・・・まあ悪くはなさそうか)
「音無は寝坊でもしてんのか?」
「え?あ、あ~、えっと・・・とりあえず中入ろっか?」
「ん?まあ、そうだな」
音無がいない。
(まさかとは思うが、音無のやつ本当に寝坊したのか?)
待合室の扉を開く。
俺は信じられない光景を目にする。
待合室では、寝袋に包まれた音無が眠っていた。
「お、おはよう、音無さん」
「う~ん、あと五分・・・むにゃむにゃ」
「・・・」
絶句。
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」「柊君?」
ハッ!?
あまりの異常な光景に数秒間俺はフリーズしていたらしい。
「まさか、待合室で寝るとはな」
「昨日ご飯の時に『絶対寝坊しない方法を思いついた』って教えてくれたんだよ」
「だれかこいつに寝坊の定義を教えてやってくれ」
起きて集合できないなら、最初から集合場所で寝てれば良い。
なるほど、合理的だ。
な訳あるか。
「起きろ」
俺は音無にチョップする。
「あだっ、ん~?あ、柊さんだ~、おはよ~ございます~」
「・・・おはよう」
「お、おはよう、音無さん」
(こんなんで大丈夫か・・・?)
――――――――――
「今回の作戦を説明する」先生の固い声が響く。
「前回の緊急招集と違い予測できたため、今回は事前に敵の分析が済んでいる」
「敵は一体、一枚羽。サイズは1.7m、人型」
「特徴は肥大化した前腕」
「この天使の討伐が今回の任務となる」
(・・・人型、そしておそらくパワータイプか)
「任務エリアは?」
「旧市街地:高松エリアだ」
「建物いっぱいです~」
(市街地か・・・遮蔽は多いがその分死角も多い・・・面倒だな・・・)
――――――――――
「こちら柊。目的地点到着、これより任務を開始します」
俺たちは護送車から降りる。
「ち、近くに天使がいるんだよね!?」
「まだだ、落ち着け布井」
確かにここは任務エリアだが、今のところ敵の姿は観測できない。
情報からおそらくパワータイプ。
発見できずに奇襲されて終了、といった感じでは無いだろう。
「とりあえず進んでみます~?」
「そうだな」
俺たちは適当に市街地を探索する。
「シッ」
音無は左手の人差し指を口に当てつつ、右手でこっちへ来いとジェスチャーする。
「いましたよ~」
交差点の角からのぞき込む。
視線の先には情報通りの腕が肥大化した一枚羽の天使。
だが、思ったより
「強くなさそう・・・?」
「・・・ですね~」
「そ、そうなの?」
腕の肥大化が思ったより大きくない。
あれならなんとか俺一人でも耐えれそうなパワーだろう。
一人で耐えれるかどうか、これは非常に大きい。
「どうします~?」音無が俺に視線を向けた。
「一度近づいて状況を確認しよう。攻撃の様子を見てから判断する」
事前情報と確認した感じ、そこまで強くはなさそうだ。しかし実際の天使の行動パターンや攻撃手段を知らない限り、安易な判断は避けたい。
「了解~」
「まずは俺が近づく、音無はここから援護、布井は中間で状況をみて動いてくれ」
俺は慎重に、建物の陰に身を隠しながら天使に近づく。
天使はじっと立ち尽くし、何もせずにただじっとしている。
「い、一体何をしているんだろう?」布井がビクビクしながら通信を入れる。
「分からないが、攻撃の兆候は見られないな」俺はさらに近づく。
突然、天使が腕を振り上げ、その先を俺の方向に向けた。
「危ない!」布井が叫んだ。
俺は急いで身をよじる。
ビュン
俺の横を天使の爪が通過する。
俺を通り過ぎた爪はアスファルトに突き刺さっていた。
(なるほど、遠距離もあるのか)
「布井!音無を守れ!」
天使は再び攻撃の構えを見せる。
俺たちは慎重にその動きを見守る。
しかし、その攻撃は予想外の方向に飛んでいき、俺たちには直接の危険はなかった。
(何をしているんだ、この天使は?)
天使は攻撃を繰り返すが、どれも俺の場所からはズレている。
「な、なんかおかしいよ、柊君」
その時だ、天使の攻撃が急に布井側の方向に向く。
「布井!」
「う、うわあっ!」
天使の爪が布井に向かう。
布井はかろうじて剣で爪を弾き飛ばしていた。
パンッ
音無のペイント弾が天使の顔に直撃する。
(今だ!)
「来い、布井!攻めるぞ!」
俺は天使に向かって駆け出す。
「おおおおお!」
ザクッ
嫌な音がする。
左腕に天使の爪が刺さっていた。
「クソッ!」
「柊君っ!」
「大丈夫だ!引くぐらいなら出来る!お前らも下がれ!」
「わ、わかった・・・」
俺たちは一旦撤退し、離れた民家の中に入る。
「ひ、柊君!左手大丈夫!?」
「そこまで深くはない。止血も済んだし、問題はないな」
「そ、そっか、よかった・・・」
布井は落ち込んでいるようだった。
「布井さ~ん、大丈夫ですか~?」音無が心配そうに声をかける。
「すまない、俺のせいだ。もっと早く攻撃を見抜くべきだった」
「ひ、柊君は悪くないよ。むしろ、僕が足を引っ張ってた・・・」布井が言う。
「そんなことはない。みんなでこの天使を倒すんだ。そのための鍵は布井、お前だ。今度はお前が天使を引きつけるんだ。その間に俺と音無が攻撃を仕掛ける。出来るか?」俺は布井に告げる。
「ぼ、僕が天使を引きつける!?」
「ああ、おそらくあの天使の攻撃のトリガーは音だ」
基本的に派手に破壊行動をする天使が今回は静かだったこと、近づいたときの反応、そして布井の声への反応。
奴は音に反応して攻撃していると推測できる。
そしておそらく
「奴には目が無い」
音無のペイント弾は確かに奴の顔面に命中した。
だが奴は正確に俺の位置を攻撃してきた。
つまり、
「奴は視覚情報を捨て、聴覚情報のみに頼って攻撃している可能性が高い」
「なるほどです~」
「奴が音のみに反応するなら、それを利用してやれば良い。布井、お前が大声で奴を引きつけていれば、多少の物音なら気づかれないはずだ。その間に俺と音無で仕留める」
「そ、そんなに上手くいくのかなあ」
「自信ないか?」
「そ、それは・・・」
布井が俯く。
(この作戦は囮役が非常にリスキーだ、だからこそ最も防御の上手い布井にやって欲しかったが、しょうがない)
「なら囮役は俺がやる、布井は攻撃側に回ってくれ」
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