第7話 the day will come soon

「今日は流石だったな、柊」

「ありがとう、でも伊集院とやったときは結構危なかったよ」

「勝ったやつに褒められてもあまり嬉しくはないな」

「ははは」


あの後、俺たちのチームの全勝で戦闘訓練は終わり、今日の授業は全て終了した。

ちなみに二位は伊集院のチームだ。


今は夕食の時間。

俺たちは寮生活、授業が終わっても一緒にいる時間は多い。


「柊!ひゃっぱひょ前ひゅへーな!」

「鳴海、食べるのか喋るのかどっちかにしよっか」

ガツガツガツガツ

「食べる方なんだ・・・、いや・・・うん、美味しいよねここの食事・・・」


対策科の寮の食事は結構美味しい。

何やら、政府の管理で専門の栄養管理士が付いているらしく、アスリートのメニューのようなしっかりした食事が毎日食べられる。

(まあ、政府にとっても俺らの体が強くなることが一番大事ってことか)


今日のメニューは白米に味噌汁、メインはグリルチキンと野菜、副菜に煮浸しがあり、デザートのヨーグルトまで付いている。

しかもどれを何度おかわりしてもいい。


食べ盛り、育ち盛りの高校生達にとっては楽園みたいなものだ。


夕食は8時~9時の間ならいつでも食べられる。

授業が終わるのが6時辺りなので大体シャワーを浴びて一休みしたあと、8時丁度くらいには皆集まる。

訓練はおなかがすくのだ。


「今日も美味しいねー音無さん」

「眠いです~、ムニャムニャ」

「音無さん器用すぎる・・・」


布井と音無と早川だ。

布井と音無は波長が合うのか近くで食べていることが多い。

今日は訓練の流れか早川も混ざっている感じだ。

ちなみに音無は半分寝ながら食べている。


「おかわり行くぞ!柊!」

「行くけどお前はまず落ち着け鳴海」


鳴海に連れられて俺は三杯目のご飯をよそってくる。


「ヒラっちって意外とよく食べるよね~」

「そういう桜坂さんも二杯目でしょ」

「まあね~」


桜坂は誰彼かまわず良く喋る。

普段から色んな集団に突っ込んでいるが、なんだかんだウザがられることなく喋っているのは流石のコミュ力の高さと言わざるを得ない。


「伊集院はもっと食べな~」

「・・・そうだな、君の言う通りだ」

「あっれー素直ー」

「・・・」


伊集院が苦虫をかみつぶしたような顔でおかわりをしに行く。

おそらく今日の負けが悔しかったのだろう。

伊集院がもう少し動けていたら結果は違っていたかも知れない。

おそらく彼もそう思うからこそ、少しでも強くなるためにまずは食事から、といったとこだろう。


(とはいえ、それを桜坂に言われたから行動した、みたいになるのが気にくわないんだろうなー・・・)


「ハハッ。しっかしあいついなくても結構うるさいもんだなー」


「「「「・・・」」」」


一同が黙ってしまう。


「あ・・・ゴメン・・・」


「も、もうすぐ退院するらしいよ!井上君!」

すかさず早川がフォローをくれた。


空気が重い。

「悪い、今のは俺が無神経だった」


俺たちはまだ、高校生なんだ。

特別な力があるとか無いとか関係ない。

ある日突然、知らない学校に連れてこられて知らない奴らと共同生活だ。

なれない一人暮らしに、キツい戦闘訓練。

そして、やっと仲良くなってきた級友がいきなり任務で死にかけた。


この状況でなんとも思わないやつがいたら、よっぽどの薄情か、もしくは異常者だ。


「もっと強く・・・ならないとね」

早川が静かに言う。

「・・・そうだな、俺は死にたくないし、ここにいる誰にも死んで欲しくない」


「・・・」

再び静寂が流れる。


パンパンッ

「ハイッ!重い話し終わり!ご飯は楽しく食べよ!」


桜坂が手を叩いて空気を変えてくれる。

「そうだな、ところで桜坂」

「どしたんヒラっち?」

「ほっぺたにご飯付いてるぞ」

「ーーーー!!!」


桜坂が真っ赤になって顔を手で覆った。

「ははははは」


食堂が笑いに包まれる。


(ああ、良い奴らだよ、ほんと)


まだそこまで長い付き合いじゃ無いが、こいつらが悪い奴らじゃ無いって事は分かる。


(誰も欠けて欲しくないな)


夢物語だろうか?


前回、俺は実際に天使と相対した。

奴らは強い。

何より、実戦は怖い。


ここにいる皆は俺と早川以外まだ実戦経験はない。


実戦。

目の前に、自分を殺そうとするものがいるという事のプレッシャー。

目が合えば、分かってしまう。


どれだけ訓練を繰り返したところで、あれを乗り越えられるかは別物だろう。


だが、それでも。

夢物語だとしても。

一人も欠けて欲しくない、と。

俺は心からそう思った。



―――――



二ヶ月後。

雨が、降りやまない。

ある者は悲しみに泣き、ある者は己の無力に怒る。

俺たちは喪服に身を包み、その場を後にする。


日本全国にある対天使特別科。

初めての犠牲者は、俺たちのクラスメイトだった。





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