第6話 try to tri

「次!伊集院チーム対鳴海チーム!位置につけ!」


次は伊集院達か・・・。


伊集院悠人、彼を一言で表すなら「インテリ」だ。四角いメガネを掛けた少し背は高めの男子。頭が良い。とにかく頭は良い。しかし肝心の運動能力は平均的だ。本人も少し気にしていそうな感じがする。


布井健太、彼はなんというか、優しい熊、みたいなやつだ。長身では無いが、大柄、つまり横に広い。目尻が下がっており常にニコニコしている。運動センスは悪くは無いが、積極的に攻めるタイプでは無い。


桜坂美月、彼女は陽キャだ。・・・そう、陽キャだ。明るめの茶髪、派手目のネイル、それだけだと割と疎まれそうだが、皆に明るく話しかけにいく存在であり、あまりクラス内で嫌われているという噂は聞かない。運動神経は、良い。元々の性格が積極的なのか、攻めるスタイルはなかなかに嵌まっているように感じる。


この三人が同じグループか。なんというか・・・こう、

「うわ~、まとまりなさそ~」

「音無さーん、声大きいよー」

「え~、柊さんも~、そう思ってるくせに~」


否定は出来ない。というかなんだろうこの感じ、音無さんと話していると何だが自分まで喋るペースが遅くなっている気がする。


「お、始まるみたいだぞ」


先生が開始の合図をする。


伊集院は動かず、布井は少し前に、桜坂は駆け出す。

先ほど伊集院が何やら二人に話しかけていた。

おそらくこのチームの参謀は伊集院なのだろう。

(さてさて、秀才さんはどんな作戦を見せてくれるのかね)


ーーーーー


「さて、ゆっくりいこうか」

俺は左手で少しメガネを直す。


「い、伊集院君、ほんとに桜坂さん一人でいいのっ?」

布井は不安そうにこちらを振り向く。


「いいんだよ。というかそもそもあいつと連携なんて僕には無理だね」

「なんか傷つくんですけどっ!」

「へー、耳良いんだね」


一人掛けだした桜坂から反応が返ってくるが気にしない。


「あんたたちっ!三人まとめて相手してあげるわ!」

作戦は桜坂に一人で突っ込ませ、布井に自分を守らせる、それだけ。

一見、桜坂一人に負担がかかる無茶な作戦だろう。

だが、桜坂にはそれを成せるポテンシャルがある。


(桜坂美月。言いたくないが、彼女は天才の部類に入る人間だ。)

彼女の武器は片手剣、ただし両手に持っている。積極的な性格に合っているのか、しなやかな女子の体に合っているのか、くるくると回りながら連続攻撃を繰り出す様はまるで剣舞だ。相手は三人とも片手剣。単純に本数で二人までなら相手に出来る上に、そもそも素人の高校生に3人同時に攻撃する連携など無理な話で、せいぜいが2体1、なんならほとんど1体1になってる事の方が多い。

「ほらほらほらほら!本当に3人もいるの!?」


キンキンキンキンキイン!


刃同士のぶつかる音が鳴り響く。

だがいくら桜坂といえど、流石に3対1で勝ちきるのは難しい。

従って状況は膠着状態。


こうなると馬鹿の考えることは一つ。


「桜坂は無理だ!伊集院を狙おう!」


(馬鹿が)


まあ、こうなる。

たしかに俺の運動能力は平均、いや平均以下だ。1対1では勝ちきれず、2対1ともなればすぐに片が付くだろう。

だが、

「ぼ、僕が守るよ!伊集院君!」

ガキッ

布井の剣が俺を狙うクラスメイトの攻撃に挟まる。

「ああ、頼むぞ布井。俺を守ってくれ」

「う、うん!」


布井は運動神経は悪くない。

体格が大きく、パワーの強い布井に1体1ですぐ勝てるやつはなかなかいないだろう。

自分から攻撃をしたがらないのは弱点だが、逆に言えば防御に徹する布井は、強い。

それこそほぼ2対1でも耐えきれるくらいに。


「おいおいお前ら、そんなに俺に構ってていいのか?」

「ぐああ!」


カラン


向こうで剣のはじき落とされる音が聞こえる。

勝者は、言うまでも無いだろう。


「待ってて布井!今助ける!」

「桜坂さんっ!」


どうやら1on1に勝利した桜坂がこっちに駆けつけてくる。


「待っ・・・、いま桜坂を相手する余裕はっ」

「隙ありっ!」

バシッ、バシッ。

俺たちが相手した二人を速攻で片付ける桜坂。


「伊集院~?何か言うことない~?」

「作戦通りだな、助かるよ」

「うわー・・・」桜坂の顔が引きつる。

「さ、桜坂さん!ありがとう!」

「あはっ!布井は素直だね~!可愛いやつめ~!うりうり~!」

桜坂が布井の顔をもみもみしている。

「そのくらいにしてやれ」

「え~、布っちかわいんだもーん」

「しゃ、しゃくらざかさん・・・」


ーーーーー


「圧倒じゃないですか~」

「そうだね音無さん、でも僕の膝を枕にするのはやめようか」

重くは無いが痛い、具体的には周囲の視線が。

「桜坂さんってあんなにすごかったんだ・・・」

「早川も充分凄いと思うぞ」

「ありがとう柊君。でも私なんかまだまだだよ」


(いやでもあの時・・・)

ズキッ

急に頭が痛んだ。

「ッ、」

「だ、大丈夫柊君!?」

「あ、ああ、最近頭痛がちょっとな」


早川が大分心配そうにしている。

(頭痛ぐらいで大げさな・・・ああそうか、井上だって入院中だ。友達に何か会ったら心配もするか)

「大丈夫、ほんとになんともないよ」

「そっか・・・うん、ならよかった」


(なんともない・・・訳ねえよなあ・・・。まあでも今は)


バシッ

俺は両手でほっぺたを叩く。

そして勢いよく立ち上がって言う。

「ッシ、気合い入れていこう、早川!次は俺らが伊集院達とやるんだ、絶対勝とうぜ!」

「うんっ!頑張ろうね!」


おそらく俺達を除いたらあいつらが今一番強いチームだ。

強くなるんなら、そこは絶対倒さなきゃいけない。

それはそうと、何か忘れてるような・・・。


ガンッ

「ぎゃんっ」


「「あ」」

「酷いです~、私、柊さんに傷物にされちゃいました~」

「ゴメンて。てか言い方ヤバすぎだろ」

「責任とってくださーい」

「音無さん・・・今ので頭が・・・」

「(-_-)」


ーーーーー


「次!伊集院チーム対柊チーム!」

「試合・・・開始イ!」


相変わらずうるさい声だ。

そんなことを考えながら俺は走り出す。


「早川、音無!作戦通りに」

「うんっ」

「あーい」


俺はまっすぐ伊集院の所に向かう。

「行かせないっ!」

ガンッ


桜坂が右腕で攻撃して俺を止める。

(・・・軽い、ということは)

ビュンッ

左腕、つまり俺から見て右側からもう一本が襲いかかる。


「頼んだぞ、早川」

「任せてっ!」


ガギンッ

軌道に剣を差し込み、桜坂の二本目を止めたのは早川。


一瞬の隙に俺は桜坂を振り切る。

「行かせるわけっ

パアンッ


「ないですよね~」

「あはっ!2対1って訳ね・・・不足無し、かな?」

「不足して欲しいです~」


桜坂は早川と音無の二人で押し込める。

音無の二丁拳銃で援護すれば、桜坂の手数とも渡り合える。


そして、あちらが2対1になるということは、

「一人で突っ込んでくるなんて、舐められたものだね。それとも、単に余裕が無いだけかな?」

「どっちだろうな?自分で確かめてみろよ!」

「フム・・・それもそうか」

「い、伊集院君はやらせないよ!」

俺は伊集院と布井の二人を相手する必要があるということだ。


(さて、どうしたもんかね)


伊集院に斬りかかる。

布井が止める。

すかさず伊集院がこちらを突く。

体をひねって回避。

その勢いのまま半回転、伊集院の剣を叩く。

だが布井の剣が差し込まれる。

伊集院の追撃。

俺は屈んで避け、バックステップで下がる。


(流石に硬いな・・・)


「あはっ!楽しいよ!!!!!早川さん!音無さん!」

キンキンキンキンキンッ


後ろからは高速で剣と剣がぶつかる音が聞こえる。


(耐えてたら勝てそうな感じ・・・はないな)


「柊君てさ、優等生だよね」

「あ?」

伊集院が話しかけてくる。

「動揺させる作戦か?」

「いやいや、褒めてるんだよ」

「そうは見えねえ顔だな」

「生憎、僕は顔つきが悪いんだ。・・・うん、やっぱり君は優等生だ、欠点が無い」

「・・・何の話だ」

「・・・君の弱点の話さ」


布井がこちらに斬りかかってくる。

いや、斬りかかってくる、というより体の前に剣を構えたまま突進してくる感じだ。

「わああああ!」

「・・・チッ」

(伊集院の入れ知恵か、面倒だ)


俺は布井に押し込まれる。

ギリリリ

剣と剣で押し合う。


こうなってしまうと俺は身動きが取れない。

伊集院の言う通り俺は平均値は高いが特に何かが秀でているタイプでは無い。

従って、布井のようなパワーに特化した相手に強みの押しつけをされると弱い。

「もらった!」


伊集院が斬りかかる。

布井に手一杯の俺は伊集院の攻撃を避けられない。

だが、


パアンッ


「何っ!?」


突然の衝撃により伊集院の攻撃がそれる。

「ナイス音無さんっ!」

「それほどでも~」


伊集院の攻撃はそれた、つまり俺と布井は1対1。

確かにパワーの押し付け合いは俺の分が悪い。

だが、それは鹿、の話だ。


グルン、

俺は手首を返し、布井の攻撃を後ろに流す。

「えっ」

強い力で押しつける時は、必然的に相手の力を支えにしている、つまり突然その支えがなくなれば当然、こうなる。

「うぐっ」

前につんのめった布井を蹴り飛ばす。

そしてそのまま隙だらけの伊集院の剣をはたき落とす。

すぐに布井も詰めて剣を弾き飛ばす。


「・・・さて、桜坂さん、どうする?」

「あちゃー、やっぱヒラっち強いねー!降参降参っ!流石にヒラっち達相手にサンイチは無理っしょ」


「桜坂の降参により、伊集院チーム戦闘不能、柊チームの勝利!」


「やったね」

「う、うん!」

「やったー(棒)」


伊集院達との戦いは、なんとか俺たちの勝利で終わった。










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