第7話 ときどき一緒に、ご飯を

6話の時間続き

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  ***



「……ひさしぶりです、國頼くん」

「あー、また敬語モドキ」

「慣れないですもん……」

「こりゃあもう、毎日会うしかないなー、いや、いっそ一緒に住む?」

「え、いや、それは……時間的にというか、まだ学生ですし、生活の基盤が……」

「……ゆんは、さ……いや、うん。わかってる、わかってるけどね?? もうちょっと期待をさせる余地をさぁ……」


 残念そうにぼやいているが國頼くんもわりとテンションが高めだ。彼も、こうやってたまに会うことを喜んでくれているということだろうか。そうなら嬉しい。

 そういえば、國頼くんは一緒に住むことも考えているのだなぁ、なんてのんびり考える。ぼんやりと過ごしていたらいつの間にかそうなっていそうだ。

 メニューを開いたまま注文もせずに話してしまう。お腹はさほど空いていない。会えた嬉しさでお腹が一杯なのかもしれない。


「会えて嬉しいです」

「…………」


 彼は目を見張る。

 ぱちぱちと瞬いて、目がキラキラっとエフェクトでもかけたみたいだ。

 それはまるで、ボールを見つけた犬のようで、尻尾を振って見えるのは、さすがに私の気のせいだろう。彼に尻尾はないから。


「元気でしたか? 課題は提出出来てますか? ちゃんとご飯食べてましたか?」

「みてのとーり。って、ゆんは親みたいなこというね」


 彼も自炊派ではあるが、ちょっと自分への気遣いを忘れるきらいがある。夕飯に山吹色のパッケージの長方形をしたクッキーを食べた、と聞いたときは「そのメイトは召喚しちゃダメです。ちゃんとご飯食べましょう、海苔のつくだ煮の方のお伴を召喚すべきですよ」と好みに関わらず言ってしまったこともある。彼は海苔のつくだ煮より鮭フレーク派だという。今度、海苔のつくだ煮もプレゼントしてみよう。鮭フレークだけでは栄養が片寄ってしまう。

 なんて、思考があっちこっちにいきつつ。

 一緒に住めば、その辺りは管理できるかもなぁと思ったこともあるけれど、一緒に住むというのはまた他の問題も掘り起こしてしまいそうな気がしてならない。


 家族、といえば。彼のご両親は、彼が幼い頃に亡くなっていて祖父母の家で過ごしていたらしい。中学からは寮のあるところを探しだしてそこからはずっと一人暮らしということだった。

 だから、そういう生活に慣れているとは知っていても、気にしてしまうのは止められそうもない。やる気があれば料理も出来るというのに。


「親、にはなれませんが、心配はできます。というか、心配してます。生活が不規則だと早死にしてしまいそうです」


 彼は、軽口で社交辞令ならまだしも、ちゃんと言葉にされることになれていないように思う。

 そういうところが、彼の気を引いたのかもしれない、とふと思うときがある。

 だから私はちゃんと口にする。言葉にする。メッセージのやり取りでレスポンスが遅いことは、目を瞑ってもらいたい。これでも慣れてきた方だ。そういうところが気に入られたならそこは悪い方に変わってはいけないのだ。


「それこそ、一緒に住んだら、毎日確認できますよねー」


 ぽかん、と口をあけた彼が言葉にできない感情を抱えたまま、んんんー、と唸り声のようなものを発しながらテーブルに顔面から落ちた。

 え、大丈夫かな、なんてのんきな私はおそるおそる前のめりに彼の顔を覗きこむ。彼は突っ伏したまま、くぐもった声で答えた。


「落差が激しい」

「……なにの、でしょう?」

「ツンと、デレの!」


 どこがツンでどこがデレなのか。聞いてみてもいいけれどなんだか長くなりそうだから、私は体を引いて顔をあげそっとメニューを覗く事にした。

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