第8話 先輩をお迎えにいける、名誉?

 部の、なんちゃって会議こと会話の派生からの決定で私が、放課後に加瀬先輩を迎えに行く栄誉を授かった。栄誉とは?


「三年生の教室にいっても絡まれないですかね? 一年がなんの用だ、とか……加瀬先輩認知度高いですよね……?」


 不安はあるが、まあ、人を呼びに行くと言うだけならばなにも問題がないように思うけれども。

 待って? 先輩方? 加瀬先輩の肩やテーブルをバシバシ叩きながら大笑いしてるの、どうしてですか??

 部の話ならば、同じ学年の先輩の方がよいと思うし、そもそもこの部は毎日の参加も不定期の参加も強制はされない。提出を求められたものが終わっていれば、部員と認めていてくれるのだから、その条件でいえば加瀬先輩は卒業まで出なくても構わないはずだ。今のところ部の創設以来ぶっちぎりレジェンドではなかっただろうか。……逆説的に、加瀬先輩は手芸大好きということではないか。

 ただ、部員の士気としては居た方がいいのかもしれない。居なければいないで楽しいが、空気がよいし、居るともっと楽しい気がする。

 私の気持ちは、どこか親目線のような顧問目線のような気がする。今日も出席してるね、うんうん、というような。一年にそう思われているというのは複雑だろうけれど、三年生の先輩というのはあまりに遠いし、別れも早い。


「ないない。うち、ガラス割るような人いないし」

「胸ぐらつかむ人もいないよ。髪の色は明るいのおおいけど、ヤンキーとかもいない、加瀬くんもやんちゃしてそうでしてないでしょ?」

「高三のイメージおかしいとおもうけど、進路でピリピリはしてるかもね。だから近寄らない方がいいと思うなぁー」

「加瀬くんの認知度、誰も触れないの」


 ひぃぃ、と笑うのは三年の先輩だ。嫌そうなので、触れないであげてほしい、私のせいだけれども。

 加瀬先輩は心配を装っていながら暗に来なくていいといっている。

 そもそもこの話題がくだらないらしく、加瀬先輩は途中から目が死んでいた。……光が消えたというか、ツッコむのも時間のムダだから結論がでたらへし折りますね、といったところか。まあ、加瀬先輩はそんなに強くない印象だからへし折るより単純に正面から断るだろう。やんわり断るのはどうしてだろうか。


「加瀬先輩、さっきは来てほしいようなこといってましたよね?」

「えー? そうかなぁ?」

「私が迎えに行けば、行くしかないとまでいってましたよね」

「言った! 言ってた! 加瀬くん年下も範囲なのか!?」

「範囲?」


 範囲とはなんぞや? と首をかしげながら、周囲の反応をみながら誰かが答えてくれるのを待つ。


「いやいや、その片寄ったイメージを払拭させてもらうけど、年上も年下もその人のことが気になるなり好きになれば関係ないよね? 俺に限った話ではないし」

「原田ちゃんは加瀬くんのことどう?」

「どう、とは? 部員なので、部活に来てもらえると、みんなの空気もいつも以上に良いですし、楽しいですけど」

「けど?」

「三年生なので、それなりに詰めていかなきゃならないことも多いとは思うので……受験、大変ですよね? なので、無理強いはよくないと思います」


 いい終えて周りをみる。よくよくみると、笑いを堪えているような先輩方が、ひいふうみい……同級に限っては、自分の意見をいえるんだなーと感心されている様子。

 果たして何が求められていたのかさっぱり分からないが、私の思うところは伝えられたと思う。その上で、お迎えが必要なら行くしかあるまい。


「加瀬くん、がんばれ」

「なにを!? っていうか、俺はどうして憐れまれているの!? その要素どこにあった!?」


 無自覚? 無自覚? と肩を震わせていた先輩たちはひそひそ言い合っている。

 いっそ、憐れに思えたけれど私は自分が先輩を迎えに行くのかこの話は冗談なのか、結論を待つことにした。

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