第6話 しろい、タヌキをみた

 彼こと國頼くんが「この間、白いタヌキ見ちゃった」とピンぼけの画像を見せてくれた。彼はちょっと、世間と感覚が違うところにある……ように見えるときがある。それは、キレイだとかカッコいいと評される人が、口を開かなければ……と残念がられることと似ている気がする。

 私は、画像を見てこれは俗にいう、レジ袋ネコでは? と思いながら口には出さずに「ふぅん……コンビニの袋みたいですね」と答えていた。台無しだ。

 案の定、彼は渋い顔をした。まるで子どもがすねているようでかわいい、といつも思う。


「まあ、路地のちょっと汚いとこだから、そう見えるのもしかたないか」

「まず写真をあきらめて、動画にするのはどうですか?」


 私の提案に彼が唇をつんと尖らせて拗ねた顔をしながらフォルダーの画像を幾つか眺めている。

 動画で一時停止か画像に編集ならブレもそれほど気にならないのではないだろうか。そもそも機能としての手ぶれ補正が仕事をしていないとはどういうことか。いや、それは端末のカメラ機能に求めすぎというものだろう。


「あ、これならどうだ!」


 写りに自信があるものがあったのか、彼が端末を私にヌッと差し出した。

 まじまじと眺め、白い丸と尻尾のような少し長いものがある、と納得は出来た。でも、白いタヌキかはやはりわからない。ネコかもしれない、まんまるの。


 今日はご飯を食べようの日だ。

 それは単純に、外でご飯を食べるために会いましょう、ということなのだけれど。

 私も大学生になり、一人暮らしを始めてから大学とバイト先と家の生活に國頼くんと会う時間がちょっと多めの時間割りで入るようになった。もちろん友達との時間もあるから私の一日はわりとハードだったりするけれど、とても充実している。

 ご飯を食べよう、といってもお互いにまだアルバイトの身で、お高いお店に入ることはない。

 それでも、予定を作って会って一緒に過ごすことができて、ちょっと浮かれてしまうのも仕方がない。そういう時間が、ゆっくりと私を作り替えている気がする。

 こんなに誰かを好きになるなんて、高校に入ったばかりの私は考えもしなかったなぁ、なんて。


「あ、そうだそうだ」

「はい?」


 白いタヌキはさておいて、何かを思い出したらしい彼が端末から顔をあげた。


「ゆん、ひさしぶり」


 そういってにこにこっと嬉しそうな顔をする彼が、ちょっと特別にしてくれる日々が、とても、愛しい。

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