第4話 はじめまして、幽霊部員です
こちら、國頼くん視点です。
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たまたま、家庭科室で他の家庭科部のメンバーと談笑しているところを見たのが最初。
新入生が入る時期か、と思って足が重くなっていた。新しい人と出会うのはなかなか息がつまる。嫌いではないけれど、好きでもない。
俺がさほど人に興味がないといったらみんなそんなことないだろうと驚くだろうな。けど、知り合うと楽しいのも本当だから、自分というものはよくわからない。
***
ボブより少し延びた髪を後ろの上の方で結ぶ髪型をしていて、制服もさほど着崩さずに真面目くさって部活動なんかに参加している、キレイよりはカワイイという言葉が似合うような、第一印象だった。
他にも二つくくりの子と二つを三つ編みしている子、男子も二人ほど、見慣れぬ顔があった。
だから、どの子がとりわけどうという見方をしたわけではなくて、ぼんやりと新しい顔はあんな感じか、とこっそり見ただけだ。
中学から高校へ初々しさやあどけなさなんかを残していて、それは誰しも馴染むまではそういう見え方をするものだしなぁなんて思ったりした。
もともと、俺が家庭科部に入っていたのはなんとなくだし、幽霊部員でもいいかな、と気楽に考えていたのだけれど顧問が伝手を使って、やれどこのバザーがイベントがという人で作品を出したりそういった機会に触れさせたがるきらいがあって人数もある程度いた方がいい、と事あるごとに声をかけられ仕方なくたまに顔をだしては皆と部活動にいそしんでいた。
料理の時は楽しいしあとで腹もふくれるからと自主的によく参加した。
本当なら、わいわいガヤガヤするのは性に合わないのだけれど、ここはなんだか居心地がよくてついつい居着いてしまった。
幽霊になりたかった、なり損ない。
***
「加瀬くん」
「?」
ある日の放課後、廊下でぱったりでくわした顧問に 声をかけられた。生徒もみんな部活やら下校やらとまばらでそんな空間に身を置くことはすきだったから、予習も進んでいたし気持ちの切り替えに歩いていたところだった。
「あ、センセー。どうしたんです?」
四・五十代の小柄な顧問は、育ちのいいお嬢様のような空気を纏っていながらどこか親戚のおばちゃんのような人で、生徒たちのやる気を引き出すのがうまく、生徒からは好かれているのかなめられているのか半々ぐらいの印象だ。
荷物運びくらいならしようか、とキョロキョロみまわすもそんな荷物はどこにもない。
なら単に呼び止められただけだ。何の話だろう。
「四月に新入生が入ったでしょ。改めて自己紹介の機会ももうけたいと思ってて、加瀬くんも部員だから、来てほしいなって」
「俺ですか?」
恐らくここに来る前につけたまま外し忘れたのだろう片眼鏡に夕日が当たってキラキラしている。
え~、と冗談ぼかしながら、どうやって断ろうかと考える。
今の二年生にまではひょこひょこと顔を出して、部員として認識もされているが、今年は受験も控えていることだし周りの引退に託つけてフェードアウトしてやろうかと考えているところだったから、尚更不必要に顔合わせることもないだろう、とぼんやり思っていた。
「せっかくだからね。加瀬くん以降は幽霊部員になる子もいないし、サマサマかなって」
「あははー。それ褒めてます?」
「座敷わらしみたいよね、いい子ばかりだし」
「センセ、それ、誉めてないですよ」
「まあ、三年生だしやることもあるわよね。時間がいくら合っても足りないと思うわ」
「でしょう?」
でもね、と顧問が諭すように笑う。この先生の、こう言うところも嫌いではないのだ。
「新しい人脈も、作る機会があれば作って置いたらいいと思うの。今年は女の子三人、男の子二人なのよ」
「センセ、俺別に人脈は困ってないです」
「あら、多いにこしたことないじゃない、ってことよ。出会いによって、刺激によって、人は成長していくものだわ」
引き留めてごめんなさいね、でも、自己紹介の件は考えておいてね。顧問は主題を忘れていなかったらしい、最後に付け加えて職員室の有る方へと歩いていってしまった。
顧問はなかなか押しがつよい。それを悪くいう人もいるし、仕方ないな、と思えて乗ってしまう人もいる。それが切っ掛けで何か変わる人も、少なからずいるんだろう。
いきたくないなー。
口のなかでだけ、呟いてみる。存外自分の中にしっくり来てしまう。
けれど、押しは強くても、強制はされていない。
俺は行かないことを選んでもいいのだ。顧問はいつも選択肢をくれる。
選ぶ、という経験は大事だ。その選んだ先にあるものに責任が生じる。
これが、選ばせてあげた、選んであげた、だと押し付けがましさにもいやけがさしてくるし、ろくでもないことになった時に自分が選んだ訳ではないのに、と逃げ道になる。
ときどき、これも選択によっては逃げだなあ、と思わなくはないけれど。
結局のところ、俺は顧問のいうとおりにその日だけ出向くことになった。
顔を合わせたらまあ、同じことなのでこれからもちょくちょく放課後に顔を出しに行くことにしよう、となんとなく明るい気持ちになれた。
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