第22話 金太郎

 箱根に差し掛かった桃太郎一行は足柄山で金太郎に出会った。


「おい、桃太郎じゃねぇか!」

「……」

「なに無視してんだよ!」


 桃太郎一行は金太郎の前掛けファッションを見て他人のフリをしていたが、金太郎がしつこく名前を呼んでくるので、桃太郎は金太郎の首に腕を回し、前掛けファッションの恥ずかしさを伝える。


「お前な、今どきそんな格好できるのお前と坂田師匠くらいだぞ!」

「だって、この格好じゃないと金太郎って認識してもらえないから!」


 桃太郎は無視して早く先に進みたかったが、金太郎とその仲間たちが桃太郎に相談があると言うので、話だけは聞いてやることにした。


「いま、足柄山に女に化けた大蛇が住み着くようになって、山の動物たちが次々に食べられているんだ! 俺一人で勝てる大きさじゃないんだ、桃太郎力を貸してくれ!」


 桃太郎は旨味のある話とは思えないので少し悩んだが、犬から金太郎とのコラボは読者が喜ぶと説得され協力することにした。


 桃太郎一行はいつもどおり入念なミーティングを行うと、『大蛇反対』『小動物を守れ!』というプラカードを持って、大蛇の住む洞窟の前で抗議活動を始めた。


 太鼓を叩いたり、みんなで大蛇反対の大合唱を行ったり、夜通し、住処の前で大声を出しまくる。


 毎晩のように訪れる桃太郎一行の抗議活動にブチ切れた女は遂に大蛇の姿になって桃太郎たちを追ってきた。


「よし、逃げるぞ! 金太郎、この辺で一番熱い温泉まで連れていけ!」


 桃太郎たちは大蛇から逃げながら、箱根で一番熱い温泉まで大蛇を誘導する。


「よし、今だ! みんな蛇の胴体にしがみ付け!」


 温泉まで大蛇を誘い出した桃太郎一行と金太郎の仲間たちは順番に大蛇の胴体にしがみつき、大蛇が丸まったりできないようにまっすぐにしかなれない体制にすると、そのまま熱々の温泉へと大蛇を引きずり込んでいった。


「あっつ! おい、何やってんのあんたたち! 熱いわよ!」

「はい、大蛇さん、入ります!」

「喜んで~!(一堂)」


 桃太郎たちは大蛇の胴体にしがみ付きながらいい湯だなと歌い出し、なかなか温泉から出してくれない。


「ちょっ、マジで熱い、桃太郎、離しなさいよ!」

「大蛇さん寒がっているのでかけ湯を!」

「喜んで~!(一堂)」


 桃太郎がかけ湯を命じると足柄山の獣たちが桶に温泉のお湯を汲んで、次々と大蛇の体にかけてゆく。


「だ、だからやめてって言ってるじゃない!」

「湯冷めしないようにしっかり湯につけて!」

「喜んで~!(一堂)」


 桃太郎たちは暴れる大蛇を熱々の温泉から逃げられないように抑え込み、再びいい湯だなを歌い出す。


「ふやける、本当にやめてちょうだい!」


 この後、20分以上も熱々の温泉に入れられた大蛇はついにのぼせて目が回って倒れてしまった。


「よし、今のうちにキビ団子を食べさせろ!」


 桃太郎一行はのぼせて倒れている大蛇の口にキビ団子を押し込み、見事に大人しくさせることに成功した。


 大蛇は目を覚ますと人間の女の姿に戻り、二度と金太郎の仲間を襲わないことを誓った。


「桃太郎、今回は助かったよ! なんかあったら俺もいつでも力になるから呼んでくれよな!」

「お、おう……」


 金太郎の前掛けファッションを見て、絶対にピンチになっても呼びたくないと思う桃太郎一行、金太郎に別れを告げると、箱根の山を越えて武蔵の国へと向かうのであった。

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