第19話 アテネの悲劇

 ペルセウスたちに連行されていったメデューサを救い出すため、アテネの街に訪れた桃太郎一行。


「この街に連れて来られたのは間違いないのだが、一体どこに連れていかれたのだ!」


 広いアテネの街でメデューサの行方を捜す桃太郎一行、そこに一人の中年男性が話しかけてくる。


「あのもしかして桃太郎さんではないですか? 私は以前、きび団子作りを依頼していただいた菓子職人です」

「そうか、ペルセウスたちとメガネの少女を見かけなかったか?」

「そう言えば、ペルセウス様が騎士団と一緒にメデューサが住んでいた島に向かいましたが……」

「オヤジ、島に行きたい! 舟を借りられないか?」


 桃太郎は菓子職人の親父さんから小舟を借りると以前メデューサと戦った島へと向かった。


「おい、メデューサ! 本当に抵抗しないのか?」

「ええ、私がこのメガネを取って本来の姿で魔眼の光を放つから、昔みたいに石化させて殺すといいわ」


 島ではペルセウスたちがメデューサを取り囲み、左手に鏡の盾を持ち、右手には剣を構えていた。


「騙し討ちではなかろうな?」


 ペルセウスはメデューサの潔さに逆に疑念を抱く。


「騙し討ちなんてしないわ……。でも同じ英雄でも偉い違いね。桃太郎さんは貴方みたいに私を殺そうとはしなかったもの」

「なんだ、未練か? 奴は甘い。お前を仲間に引き込むなどありえん」


「そうね、甘いかもね、でも楽しかったわ。復活して直ぐに貴方に殺されると思っていたけど、彼らと出会えて本当に楽しかった」


 メデューサは少し目に涙を浮かべ、桃太郎一行との日々を思い出しながら、かけていたメガネを外そうとする……。


「メデューサちゃ~ん!」


 その時、島に小さな小舟が向かって来るのが見えた。 


「桃太郎か! おい、奴をここに呼び寄せたのか?」

「そんなわけないじゃない! 彼は貴方と違って優しいのよ……。さあ、メガネを外すから早く殺りなさい!」

「奴と徒党を組むかと思ったが、潔いな!」


「ええ、好きな男性に醜い姿を見られたくはないもの。ペルセウス、貴方も少しは女心を学ぶと良いわ」


 メデューサはメガネを外すと本来の怪物の姿になり、ペルセウスが構えている鏡の盾に魔眼の光を放ち、その反射で石化していく。


「また生まれ変われるなら、もう一度、あの人の仲間に入れてもらいたい……」


 メデューサは最期にそう呟くと完全に石化し、ペルセウスと騎士団は石化したメデューサを粉々になるまで叩き潰すのであった。


 メデューサが粉砕される姿を見た桃太郎は島に上陸するとそのまま浜辺で膝から崩れ落ちた。


「なんて酷いことしやがる! うちの桃太郎さんならこんなことしないぞ!」

「そうだ! 桃太郎さんならキビ団子くれるし、だいたい海の神様の愛人になったから怪物にされたと聞いたけど、なんで海の神様はお咎めなしなんだよ! こんなおかしな話受け入れられるか!」


「黙れ、サルとキジ、お前たち獣如きにメデューサの恐ろしさがわかるはずもない! あの醜い妖怪と仲間になるなどあり得ん!」


 ペルセウスは神話上の英雄ということもあり、怪物は退治しなければいけないという考えについては一切ぶれることがなかった。


「おいおい、胸糞悪い旦那だぜ! おいらも桃太郎ファミリーのプロデューサーとしていろいろやってきたが、ペルセウスの旦那、おいらたちならこんな気分が悪くなる妖退治はしないぜ!」


 普段は映画化しか頭にない犬もさすがに仲間を殺されたことに憤慨し、ペルセウスと口論を始める。


「あんたたち、もうやめなさい! コイツに何言っても無駄よ。あたしたちとは価値観が違うもの。それより、こんなところにメデューサちゃん一人残して帰るのは可哀そうだわ! 破片だけでも集めて一緒に連れて帰りましょう!」


 かぐや姫に止められ、サル、キジ、犬もペルセウスとの口論をやめて、粉々にされたメデューサの破片を集めて壺に入れた。


「桃太郎、帰りましょう! こんな奴らとは一刻でも早く別れたいわ」

「……ああ」


 桃太郎はペルセウスに喰ってかかる気力もないほど落ち込み、悲嘆に暮れながら日本へと帰るのであった……。

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