アイドルとの趣味

「今日の朝、どうして恋花ちゃんと一緒に居たの?!」


授業が始まると思いきや担当の教師が体調不良により自習時間となった。黙々と勉強してる人が多い中、僕と雫は机の下でスマホを弄っている。もちろん、隣に居る恋花にはバレないよう死角になる方の手でスマホを持ち操作している。雫から「恋花」の存在を教えてもらった翌日に、本人を引き連れて登校してるなんて僕ですら予想しなかった。そんな驚きの連続だった昨日の出来事をメッセージに入力する。送信すると、既読はすぐに着いたが返信が返ってくるまでに少し時間がかかった。


「えーっと、恋花ちゃんと雅は友達なの?」


「恋花とは、友達であって友達ではないかな...」


「なにそれ?」


まぁ、そうなるよな......

恋花と僕のこの関係をどう説明すれば良いんだよ...彼女のことを支えて守る?それとも朝言った通りただの知人?言葉にするのは難しく一人頭を抱えることになる。

友達になったと言ったわけではないし、知り合い程度の認識しかしてない可能性も十分にありうる。だから、「まぁ、知り合いではある」と自信なさげに文面を打つ。

送信してすぐに既読は付いた。返信がくるまでスマホを手に持ったまま待つことにする。勉強をするフリをしていると後ろからトントンと何か硬い物体で叩かれる。

ヤバい!?....先生に見つかったか......!?

恐る恐る後ろを振り向くとそこに居たのは、先生ではなくシャーペンを持った恋花だった。


「もしかして今、暇だったりする?」


隣に居る恋花から、囁くように尋ねられた。nineをしていても返信ぐらいは出来るだろうと安易な考えでスマホをポケットにしまう。

いきなりの事に戸惑いつつも「うん」と相槌を打つと恋花は顔に喜色を浮かべた。自習時間だし勉強で分からない所があったから聞いてきたのかも。とか考えていると、恋花は僕の席と自身の席をくっ付ける。床と机の摩擦音が教室内に響き渡り音に反応したクラス全員が僕たちの方へ視線を向ける。辺りは僕たちの関係を不思議に思っている奴らが多いのか、ヒソヒソと男子、女子同士で話しているようだった。


「ねっ、もっと雅くんのこと知りたいから話そっ!!」


恋花は、周りの目を気にする事なく笑顔で聞いてきた。この状況で話すのか...流石に視線がある中で話すのは気が引ける....けど、アイドルの純粋な笑顔を崩したくないと言う気持ちが勝ってしまい「分かった...」と一つ返事をする。退屈凌ぎなのかもしれないが、それは僕も同じだ。

好きな食べ物や動物、そんな些細な質問に答える。恋花との会話は思いの外弾み、授業時間が残り半分に差しかあった辺りで恋花は話題を変えてきた。


「次は、雅くんってどんなアニメやゲームが好きなの?」


あまり、アニメについて語ることが無かったこともありどんな系統のアニメを話題に出すべきか悩む。マイナーな所だと、恋花が知らない可能性がある。そうなると話が続かなくなり気まずい雰囲気が流れてしまう。それを避ける為には、誰もが知ってる有名なアニメを挙げるしかないだろうが何にすべきか...

今まで見たアニメを思い出しているとたった一つ、恋花がハマるようなアニメがった。

 

ってアニメ知ってる?」


「なんか、可愛いらしい名前のアニメだけど、どんなの?」


「名前の通り、ゆるふわなキャラクターが出てくる、アニメなんだ」


サネミーというキャラクターのキーホルダーをバックから取り出し、説明する。

タイトル通り、フワフワな雲のようなマスコットが主人公の人間を導いて絶望している心を救済するというアニメだ。絵の可愛さから、日常系かと思いきや、まさかの感動系のアニメで、一人一人の過去を知ったとしても諦めない姿に感動する。そう説明すると感心し興味を持ってくれたのかサネミーのストラップをじっと見つめていた。


「へぇー。私も暇な時間あったら見てみよっかな」


サネミーを眺めながら呟いた彼女は、自習に戻ることはなく、スマホを取り出した。


「そうだっ!感想とか語り合いたいし、nine交換しない?」


「僕なんかで良いのか?」


スマホを取り出した恋花は、僕に向けてnineのQRコードを見せる。


「当たり前だよ。ほら、雅くんもスマホ出して交換するよ」


友達登録をする機会があまりなく、操作に迷ってしまう。それを察した恋花は僕に近寄り手順を説明してくれている。だが、恋花との距離感が近すぎるが為に、頭の中には手順が入らない。少しでも動けば肩が触れてしまうほどだ。横を向けば恋花の顔が目と鼻の先という状態で平常心を保つのに苦労する...顔を逸らし、頬に熱を帯びていないかとドキドキしながら話を聞いていた。


「登録完了っと、これからよろしくね雅くん」


「こちらこそ、よろしく」


なんとか、彼女のことを意識しないようにして耐えた。恋花が元の位置へ戻りお互いにスマホを確認する。同級生の女の子とnineの交換したのは雫だけであとは、家族のグループチャットしかない。そんな中に恋花のアカウントが表示されていることに、嬉しさがこみ上げる。追加ボタンを押し、よろしくと書かれたサネミースタンプを送ると、恋花はパンダのスタンプで僕によろしくと送り返した。すると、恋花はスマホを見ていて不思議そうな顔をしていた。


「どうしたんだ?」


「い、いや、雅くんのnineの名前が、みやってなってたから」


確かに気になるのも無理はない。男である僕が「みや」と女性につけられることの多い名前にしている。この名前に関しては、姉の影響が大きかった。まだ幼かった頃の僕は、女の子として間違われることがあった。そのため姉がふざけて「みや」と呼んだのが始まりだ。そのことを説明しようとしたが、恋花はいきなり立ち上がり「忘れてた!」と教室内全体に聞こえる声量で叫ぶ。


「1時間後に取材受けるんだった。ごめんねもっと話したかったけど今日はこれでお別れだね...」


「仕事頑張って」


「うん一生懸命に頑張るから応援してね」


そう言いながら、机に置いてあった教材や筆箱をバッグに直す。もしかしたら、仕事が忙しくなって次に会うのが一週間後になるかもしれない。友達として気の利く言葉を言おうとしたが結局何も思いつかなかった。


「今日はありがと、カッコよかったよ...」


僕にだけ聞こえる声量で彼女は僕に囁いた。耳元まで恋花がいきなり接近してきた事や囁かれた事、色んな情報が渋滞して頭がパンクする。


「またね...」


小さく手を振る彼女に対し僕も振り返す。けど、その間もずっと頭からさっきの出来事が頭から離れなかった。教室から、恋花が出て行った後も、ボーっとしてしまい勉強にも読書にも手がつかなくなってしまった。いつもだったら周りの視線を気にするのにそれすらどうでも良く感じてしまった。恋花と学校で話せたことが嬉しすぎて歓喜の声を上げたいくらいだった。けど、そんなことが出来るはずもなく、自習という言葉通り勉強をしようと机に教科書を広げると、ポケットに入っているスマホが振動しているのに気づいた。

きっと、雫からだと思い待受の通知画面をみるとそこには


しずく「別に付き合ってるわけじゃ無いんだよね?」


と書かれた文面があった。僕みたいな陰キャが恋花と付き合えるわけがない。けど、この状況を側から見れば付き合っているカップルにしか見えないと思う。


雅「恋花とは付き合ってない」


正直に答えたが信じてもらえる可能性はあるのだろうか?

そんなことを考えている内に直ぐにチャイムが鳴り授業は終わった。

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