6話 幼馴染と昼休み
結局、既読はついたものの返信は一切来なかった。自習が終わってから何度も話しかけようとしたが、同級生の女子が雫を囲んでいるせいで話かけようにも話しかけられなかった。それが、二限、三限と刻々と時間が過ぎ昼休みになった。
「いつもの場所しかないな...」
友達が居ない僕にとって学食や教室は窮屈でしかない。教室は、陽キャ男子が騒いでうるさいし、学食は学食で人が多過ぎて辛い。
だから、空き教室に行くことを考えた。誰も居ない教室で誰にも気を使わずに要られる。友達が、学内に一人でも居るなら教室内や学食で過ごしても良いのだがそういうわけにもいかない。
空き教室に入る為の鍵も勿論持っている。鍵を返し忘れてからずっとそのままだ。姉の作った弁当を片手に空き教室の扉を開ける。いつも使っている教室とほぼ同じ間取りで一人で使うには勿体ないくらいの広さだ。
いつも、窓際の後ろに座り弁当箱に手をかけようとした時だった。
「あっ?!やっぱここに居たっ!」
扉をガララっっと勢いよく扉が開く。いつも先生に見つからないように鍵をかけるのだが、今日は恋花のことで頭がいっぱいで忘れてしまっていた。扉のある方へ視線をやるとそこには見慣れた女子がいた。
「なんだよ雫...びっくりさせないでくれ」
「驚かせちゃってごめんっ!」
反省の色を見せず、それどころか笑顔で謝ってきた。
僕は、雫の能天気さに「はぁ...」と重い溜め息を漏らしつつ柔軟に対応する。
「それでここに来るってことは何か用でもあるのか?」
「当たり前でしょ。さっきの話中途半端で終わったんだし聞かないとっ!あとは、久しぶりに雅とご飯食べようかなって」
一人で居れる唯一の時間を邪魔されたが、一人虚しくご飯を食べるよりかはマシだ。
「分かったよ。一緒に食うか」
「ホントにっ!雅と一緒に食べるの久しぶり」
雫もバックから弁当箱を取り出し隣の座席に腰をおろす。
「ねっ、席くっつけよ!!」
まさかのデジャブ。僕の返事を待たずして雫は行動へ移った。机の脚の部分を持って机を移動させ僕のすぐ側まで近づいてくる。
「早く食べよ。二人で話せる時間無くなっちゃう!!」
「そんな急がなくても、間に合うだろ」
二人で話しながら、弁当箱を開けると雫は、僕の弁当箱をじっと見つめてくる。
「昔と変わんないね雅の弁当」
「それを言ったら雫も言えないだろ」
雫は母親に、そして、綾織家では、姉と僕の交代制だが毎日献立を考えるのが面倒でどちらが料理をしようと、同じ飾りつけになってしまう。
お互いの弁当の中身は殆ど変わらない。僕も雫もそんなこと分かりきっているのにこんな会話をしてしまう。二人で小学校や幼稚園のことを笑い合いながら話していると、雫の表情が少しずつ悲愴な面持ちに変わっていく。
「いつから私たち、学校の中で話さなくなったんだろ。昔はいつも二人一緒だったのに...」
「そうだよな。昔は何処に行くにも雫がいたもんなー」
中学校に上がるまではいつも二人で居た。休み時間や掃除中と授業以外は殆ど一緒に居た。特に喧嘩したとか、二人でいるのが気まずくなったわけでもない。けど、原因があるとすれば僕なのかもしれない。中学校に上がってから雫を取り囲むようになった女子が多くなった時だった。僕は、いつも通り雫に話しかけようとしたが、女子の集まりの輪の中に入る勇気なんて微塵もなかった。そして、時間が経てばいずれか解決するだろうと思って先延ばしにしていたらいつの間にか高校生だ。
高校に入ってから一緒に登校し始めた。僕がぼっちであることを知っていた雫から「一人で登校するのなんか寂しいから一緒に登校しよ?」と提案して来たのが始まりだった。
これ以上、この話を引き延ばせれると僕の精神が持たないと感じたのか雫は恋花のことについて話題を変えてくれた。
「ま、まぁ、この話は一旦やめて恋花ちゃんのこと聞かせてよ」
「あ、あぁそうだな」
雫に昨日起きた出来事を
公園で出会ったことと友達になったことの経緯を...そして、さっき貰ったチケットのことを話してしてしまうと「譲って!!」と言われるのがオチになるのでそこは伏せて話した。
雫は終始、信じられないと言わんばかりの顔をしていたが、最後まで親身に話を聞いてくれた。
「なんか、漫画やドラマでしかなさそうな展開じゃん」
「僕も、そう思う。てかっ、この話信じるのか?」
昨日までボッチで陰キャしてた奴がいきなりアイドルと仲良くなるなんて、ドッキリぐらいでしか聞かないレベルだ。何か裏があると思うのが普通だと感じるが、雫から返ってきた言葉は以外なものだった。
「信じるよ」
僕の目をしっかり見て雫は答えた。目は一切泳がず一心に僕の瞳を見つめる。この嘘偽りのない目をした目をしたまま話は続く。
「だって、恋花ちゃんとあんなに仲良さそうにしてる姿を見たのに、信じるなっていう方がおかしいよ」
こんな話をしても信じてくれないだろうがやっぱり雫は、校内で「女神」として崇められるだけの優しさがある。雫に「そっか。信じてくれてありがとな...」そう呟くと彼女は頬を朱色に染めていた。誰にも聞こえないよう言ったつもりだったが、誰もいないこの空き教室では少しの物音でも感じ取れやすく、僕の呟いたのが聞こえてしまったようだ。
「ねぇ、」
雫はさっきまで持っていた箸を一度置き、僕の方へ体を傾ける。隣同士というだけでも至近距離なのにこれ以上近づけると体が接触してしまう。僕はこの状況をどうすれば良いのか分からず、ただ唾を飲み込み、雫が次に何を言うのか待った。すると彼女が口を開き放った言葉に僕の思考能力を失うほどの破壊力があった。
「雅は私のこと好き?」
唐突な発言に僕は何も言い返せなくなった。好きってどう言うことだ?!幼馴染としてか、それとも異性として?!頭が混乱して黙り込んでいると、雫はこの空気に耐えられなくなっているのか、今まで見た事がないほど顔全体を紅潮させていた。
「す...好きって言うのは、幼馴染としてだから勘違いしないでよね!?」
だよな。僕のことを雫が好きって言うわけがない。一瞬だけ、恋愛での好きかと思ってしまいドキッとしてしまった。
「だ....だよな!....まぁ幼馴染として雫は大好きだぞ。僕にとって幼馴染って言えるたった一人の大切な存在だからな」
「.......っ!」
雫は、言葉にならないような声を出す。恥じらっている雫の表情が可愛く感じてしまい思わず、頭を優しく撫でてしまっていた。幼稚園にいた頃は、泣いてる時とか雫の頭を撫でていたが、今は高校生だ。女子は髪が命って言うらしいし、やってしまったかも...急いで頭から手を離しの様子を伺う。
「雅のバカ...これは反則でしょ....」
怒られる覚悟をしていたが、雫は、怒っているというわけではなさそうだった。少しの間気まずい空気が流れた。話題を変えて気を逸らそうと考えて居ると雫は勢いよく立ち上がる。
「もう私行くね...先生に呼ばれてたの思い出したから...」
そう告げた雫は、弁当箱を持って教室から出て行った。出て行く直前、僕は「また後でな」とだけ言い彼女を見送った。
まだ食べ終わっていない弁当を食べようとしてあることに気づく。
「地雷踏んだのかも...」
....
..........
.................
空き教室を出て直ぐの廊下で雫は、座り込む。
「雅のバカ...私の気持ちに少しは気づいてよ...」
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