第3話 アイドルと幼馴染
「みや....び?」
「ねぇ雅、あの子は誰なのかな?」
冷たい視線が恋花から向けられる。もうこれは、修羅場としか言いようがない。この逃げ場のない状況をどうやって切り抜けるか。恋花に抱きしめられている姿を見られた。
雫は一歩、また一歩と僕たちの側に近づいている。そして目の前まで来ると、雫は恋花と向かい合わせになる。
「雅と恋花ちゃんってどう言う関係なんですか...?」
雫は、僕の隣にいるのが恋花である事に気づいていた。
此処で、僕の口から「友達ような関係だ」って言っても信じてもらえないだろうしな。どうするべきなんだ?頭をフル回転させてもこの状況を打破出来る方法が何も思いつかない。
そんな中、恋花は僕の元から離れ、冷静さを保ち続けながら雫と目を合わす。
「雅くんとは、知人なんです。最近引っ越したところが雅くんの家のご近所で、一度挨拶した時に私達出会ったんです。」
「それじゃぁ、抱きついていたのは...?」
「えっとね、足元にいた虫に驚いちゃって...あははっ......」
僕を庇ってくれているのか?いや、もしそうだったとしても雫に友達である事を伏せるメリットが一つもない。もしかして、言えない理由があるのか...?駄目だ.....今考えても意味が無いか....後で二人っきりになったら直接聞いてみるとするか。
「そうだったんだ。私、何だか誤解しちゃってたみたい」
「ううん、私達も誤解されてもおかしく無いような感じだったし」
誤解は何とか解けたのか?そうだと信じるしかないと胸の内で思いつつ周りの視線に警戒した。この状況を撮影されてネットに投稿なんてことになったら全国の恋花のファンからさらし首にされること間違いなしだ。だが、それに反応したアンチが恋花のことを誹謗中傷したとしても、罪に問われるのは恋花ではなくアンチどもだ。恋アイ法によって、恋花は一つも規則を破ってはない。その為、事務所から注意されることもないはずだ。
そんなやり取りをしていると、始業ベルが鳴るまでもう時間がない。、歩くペースを上げ三人で歩きながら会話をする。
「そう言えば、名前は、何て言うの?」
「そうだった?!名前言ってないじゃん私!!」
今更感があるが、名前も知らないのは不便だよな。そう感じつつ、雫は落ち着いた声音で名前を名乗る。
「月瀬 雫です。そして、scared lightのファンで特に恋花ちゃん推してます」
「いつも応援してくれてありがとう、雫さん」
満面な笑みで、恋花はファンへの対応をしている。
雫は嬉しさのあまり、「ほわわ〜...」と頬を赤く染めて気絶しそうになっていた。
もうここまで来ると、雫の学校でのイメージが一瞬にして崩れていく。「天使」とか言われているあの雫が恋花を前にして撃沈。
「あっ!後で、サインくれませんか?」
「良いよ!サイン書ける用紙とペンを持ってきてくれたら書いてあげるよ」
「ホントですか!?やったー!!」
何故か、僕だけ除け者感があるのは気のせいだろうか...
3人だけになってしまうと起こりうる一人だけを除け者にして二人だけで会話する空間が完成してしまう。まぁ、この二人と一緒にいる時点で僕と言う存在が場違いだし、先に学校行ってようかな...
「邪魔なら先に行くけど....」
「雅くんは、先に言っちゃダメ!」
「雅は、先に言っちゃダメ!」
二人とも打ち合わせでもしたかのように息がピッタリだった。止められた以上ここから抜け出せない。そこまで急ぐ用事もない僕は、抵抗はせず相槌を打ち返事をした。
○
筒和学園の校門に着いた......
この校門に着くまで一体どれだけの痛い視線を浴びたことか...雫と一緒に登校するだけならまだ良かったのだが、今回に限ってはそうも行かないようだった。
大体の有名人は変装して気付かれないようにするが恋花の場合は、変装をしてない。そのせいか......僕の隣で歩いているのが恋花であることが登校中の生徒達にバレていた。
コソコソと陰口を叩かれているような気がするが僕は別に気にしなかった。だって、僕と恋花は友達ようなものだし隠す必要なんてないだろう。
雫は「部室に用事あるから先に行ってて!」とだけ言い残し部室のある方へ向かった。そして、恋花も職員室に用事があるようだったので僕一人で教室へ向かう。
ガララっと扉を開け、教室内に入ると同時に僕に視線が向けられる。多分、nineなどを利用して連絡を取り合い、噂が広まったに違いない。
「お前聞いてこいよ....」と押し殺した声で隣のやつに話しかける同級生がいる。向こうからしたら僕には聞こえていないと思っているだろうが、その声ははっきりと僕の耳まで届いている。それもそのはず、だって僕が扉を開けてからと言うもの、この教室内は静まり返っていた。
静寂に包まれた空間の中、視線など気にすることもなく自身の座席へ腰を下ろす。
(HRまで後五分か...)
いつもこのような暇な時間には、ブックカバーをつけたライトノベルを取り出し黙読するのが日課だ。
始業式の始まる前日に買ったばかりのラノベを取り出し読もうと本を開こうとした時だった。
「綾織くん居ますか〜?」
この静まり返った空間を壊したのは、昨日からこのクラスの担任になった
先生の呼びかけに対し、「僕なら此処に...」と挙手をし僕の存在を知らせる。
「ちょっとだけで良いからこっちに来て」
先生の呼び出しに対し断る理由も無かった為、椅子から立ち上がり先生の後を付いていく。HRが始まるまでの残された時間が無いからか、廊下を歩いている生徒は誰も居なかった。だが、遅刻ギリギリで走っている生徒は数人だけ見かけた。余裕持って登校すれば良いのに...と考えているうちに目的の場所へ着いたようだ。
「この中にある机を一つだけで良いから教室に持って行って欲しいの」
「何で僕なんですか?僕よりも机を運ぶのに適した人がいると思いますけど...」
たった一つだとしても、ここから教室まで大分距離がある。まずこの空き教室は一階なのに対し、教室は三階にある。しかも最寄りの階段から上がったとしても教室が一番奥にある為、相当な力仕事になる。そんな中で僕を呼ぶのには何かしら理由があるはず...
「あのね、今日からこの高校に通う転校生が、綾織くんの隣の席になるの」
先生は一度口を閉じ誰も聞いていないか辺りを確認し再度口を開く。
「それだけじゃないの...。その子がね...「綾織くんの隣の席が良いです!」って職員室に響き渡るくらい大きな声で言うの。しかも顔を真っ赤に染めて...」
その場面を思い出すことが恥ずかしいのか、先生自身が頬を朱色に染めている。
「ま、まぁ私は、二人がどう言った関係なのかは知らないけど、校則に反しないようお付き合いをするのよ」
「あ...あの...」
その転校生が誰なのか見当はつくけどありえるのか?...それを聞こうとしたが先生は「それじゃ、転校生を待たせてるから先に行くわ」とだけ言い残し去っていった。
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