第1話 アイドルと友達?
彼女が顔を上げると、雨が髪を伝って滴り落ちた。絶望しているいるからか、雨水が涙に見えるし、瞳にハイライトがないようにも見える。雨に濡れて、下着が薄らと浮かび上がっていたがそこは言及しないでおこう。今言ったら死にかねない...
そして顔を上げた彼女は、
「聞いてるか?ここに居たら風邪引くぞ...」
「私のことは放っておいてくれません」
「何かあったのか?」
「何かあったとしてもそれは、貴方には関係の無いことです。」
彼女の受け答えは、辛辣だった。今にも泣きそうな顔をしているのに、彼女は孤独になろうとしていた。このまま一人で塞ぎこんでいたら、最悪自殺をする可能性もだってある。友達のように悩みや不安を相談し共有できる相手が今の彼女には必要なのにそれを拒否しようとしている...そんな彼女を一人にさせてはいけないと感じた僕は引き下がらなかった。
「関係なくても、困ってるなら...」
「どうせ、私の顔を一眼でも良いから見て見たいとか、思って来たんでしょ...」
......どういうことだ?僕は彼女のと顔を合わせるのは初めてだ。もし、こんな美少女を一度でも目にしていたのなら忘れることなんてないだろう。
信じてもらえる可能性は低いが、彼女に近づいた経緯を偽りなく話すことにした。
「えっ?いや、君のことは知らない。ただ、こんな場所に居たら風邪引くかもしれないって思ったから近寄ったんだ」
もし、彼女が有名人だとしても僕はテレビの流行には疎い。アニメや漫画やゲームにしか興味が無く、どのような場で彼女が活躍しているのかすら知らない。
「もしかして本当に私のこと知らない?」
僕は、知らないことを彼女に示す為に首を横に振った。
「本当に知らないんだね。私のこと」
「なんかごめん...」
「謝らないで。私の方こそ変質者かと思って疑ったりしてごめんなさい....」
彼女は僕に向けて、頭を下げ謝罪をする。
「僕は大丈夫だから頭を上げてくれ」
この姿をご近所さんに見られたら、それこそ変質者と誤解されかねない。慌てて彼女に頭を上げるよう促した。すると、彼女は頭を上げて僕と目を合わせてから会話を再開させる。
「そっか、君が善意で傘の中に私を入れてくれたのならお礼を言うわ、ありがと。でも一人にさせて欲しいのは本当なの...」
孤独になる...彼女は、孤独の辛さを知ってて言っているのか...?その辛さを彼女は知らないからこそ、一人になろうと必死になっている。絶望して、苦しんで誰も頼れないから、自分一人で解決するしかないと思い込む。だが、そんなの間違ってる。一人で解決できるようなものなら苦しまずとも上手くことを運べるはずだ。だが、今の彼女の雰囲気からしてそう簡単に済む話でもなさそうだ。
そんなときに、必要なのは友達と呼べる相手や家族といった寄り添える相手が必要になる。その役目が、僕なのか分からないがこのまま放っておけない。
「一人にさせるわけにはいかない」
「どうして?貴方に関係ないって言ったじゃない」
彼女にとって僕が邪魔なら何もせず帰宅するが、今の彼女は怒っているというより、何かに焦っているように思えた。
ここで、僕が言い返したとしても、喧嘩みたいになって終わるだけな気がする。肩の力を抜き、彼女の怒りに触れないよう慎重に言葉を選びながら柔らかい声で答える。
「確かに関係ないな。...けど、君がすごく辛そうにしてるのを放っておけない。」
「それって本当に私の為を思ってるの?自分にとって都合がいいとか、何かしらの見返りがあるとか思ってんじゃないの?」
「確かに。それを考えてなかったとは言い切れない。見返りがあるのではないかと少しだけ期待したのも事実だ。だけど、今抱えている悩み事が解決するとは思えないから近寄ったんだ。誰にも相談できないような内容なのか、心配させたくないからかは知らないけど、このまま放置してたら、もっと苦しむと思ったんだ........そんな姿をもう見たくないだけなんだ.......」
今も忘れたい過去を思い出し、唇をかみしめ、拳を握り怒りを我慢する。
数秒間、しんとした静寂の中に雨音だけが響く。そんな中、彼女も肩の力を抜き、深呼吸をして冷静さを取り戻してから口を開いた。
「貴方も一度、こんな経験をしたことがあるの?」
「...状況は違うけど、孤独になっていく感覚は味わったことがある」
「そう...なんだ.......なら、私も話を聞いて貴方の思いを聞かせてくれない?似た経験をしたことのある貴方になら良い意見を貰えそうな気がするの」
僕のしつこさに呆れたのか、それとも心を許してくれたのかは分からないが話してくれるのなら僕はその相談相手になるだけだ。
「うん。僕なんかでも役に立てるのなら聞く」
彼女は「ありがと」と一言添えて、悩んでいることについて話し始めた。
「私ね、高校生をしながら、仕事もしているの。」
「バイトとかじゃなくて?」
その質問に彼女は「うん」と言いながら相槌を打つ。
「でね、その仕事はとてもやりがいがあったの。とても楽しくて、仲間もいて、そしてみんなの笑顔が見れることが一番のやり甲斐だったの。
けど、ある日を境に人の見る目が変わっちゃった。男の人でも女の人でも私を
ブラックな所に彼女は居るのか...まだ、働いたことのない一般の高校生が言えた義理じゃないけど、言えることがあるとすれば....
「仕事を辞めるのはダメなのか?」
「ダメ、これだけは絶対に辞めたくない。」
思ってた以上に彼女の意思は固かった。これ以上僕が介入してもいいものか分からない。でもこのまま彼女を返してしまったら、きっと取り返しのつかないことが起きるかもしれない。僕が役立たずでもいい、少しでも彼女の気持ちを軽くする方法は無いのか。
「僕に何か出来ることないか?」
「....一つもない。だから、言ったでしょ貴方には関係無いって。」
「本当に?遠慮なんてしなくていいよ。僕の出来る範囲なら何でもやるから」
まだ、彼女と出会って5分経ったか経ってないかくらいだ。その経った5分の間に僕のことを信じろなんて言わない。だが、愚痴を聞く相手にだってなれるし、今みたいに相談に乗ることは可能だ。僕には一つも利点が無いがそれで十分だ。彼女が苦しむくらいなら、僕が頭を抱える事態になったほうがマシだ。
そう思い彼女に向けていったのだが、予想以上の返答がきて驚くことになってしまう。
「それじゃぁ、貴方が私の支えになってくれるって言うの.....私が辛くなった時や、寂しくなった時とか一生背負ってくれるの....?」
彼女がどれだけの不安を抱えているのか僕は実感したことない。その為、彼女が辛いと感じた時、僕はどう対応すれば良いのかすら知らない。けど、僕から何度もしつこく相談に乗ろうとした。ここで、「はいそうですか」と見捨てて帰ることは許されない。選択肢は「はい」しかなく、彼女と言い所に居るときは責任感も伴うことになるだろう。
「辛いことがあれば何だって聞くし、助けになれることがあれば支えるから。だから僕のことを頼って欲しい」
「...本当に?」
その言葉を聞いた彼女は、何処か救いを求めるような声で答える。
僕が臆病になってたら彼女のことを支えることもできないし相談相手にもなれない。
「わ、わ......私を支えるの意味分かってる?」
「あぁ、勿論分かってる。」
頷きながら彼女の問いに答える。
つまり、彼女が孤独にならないよう支えるのが僕の役目。それこそ、友達のような立ち位置にいることが必要だと僕は思った。
「さっきも言ったけど、困ったことがあれば言って。君の支えになれるよう友達のような関係として頑張るからさ」
どうしてか、彼女は僕とは真逆の方向へ顔を動かす。また沈黙の時間が続いてしまいやらかしてしまったのではないかと不安になる。友達とか言わなければ良かったと後悔する。不安になりつつ彼女に声をかけるが一つも反応がない。
沈黙が続いている間に雨は止み雲の間から太陽の光すじが見えた時だった。
「わ.....な.........か」
「ごめん聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」
顔を隠していた彼女は僕の方へ向き直る。その時の彼女はさっきまでとは全く違う表情をしていた。
「私の名前は、
「君の名前は?」
「えっ?あっ!僕の名前は綾織 雅」
「雅くんね。うん、覚えたこれからよろしくね」
さっきまでは暗い表情をしてこの世の終わりみたいにしていたのに、今の彼女は何故か輝いているように見えた。
その後、彼女はスマホを取り出し待ち受けにある時刻を確認すると「あっ、もうこんな時間?!ごめん先行くね!」と言う言葉を残して彼女は去っていった。
何だったんだ?と頭で考えながら帰ろうとして彼女の最後の言葉を思い出す。
「これから」ってどういう意味だ?僕たちeineで友達登録してないし、学校も違うのに...
〇
やっとの思いで帰宅した。ずぶ濡れになった制服を乾かしシャワーを浴びる。冷え切った体を温めた後はゲームだ...と考えていたがまず先に済ませておかなければいけない事があった。
自室のある二階へ上がり部屋着に着替えてパソコンデスクのある椅子に座る。
「雫が言ってたのが...sacred lightだっけ?」
自室に、置いてあるパソコンを開き、画面内に表示されている時間を確認すると18:00だった。夕飯を食べるまでまだ時間があるな。いつも仕事で忙しい両親の代わりにいつも僕と姉が交代制で料理を作っている。そして今日は姉が担当の日で親の見張りがない為か、今から30分後少しでも遅れたりしたら殴るか蹴るとかして来そうで怖いんだよな...
まぁ、1曲か2曲ぐらい適当に再生回数の多いMV見ればいっか。
そう思いながら、検索ワードに「sacred light」と打ち込み検索をする。すると一番上に表示されたのが、「ルミナス」と言う曲名だった。再生回数は、二週間前に投稿されたばっかりなのに1000万再生されそうな域にあった。
サムネをクリックし、動画が再生されると4人が対照的に並んでいる姿があった。
当たり前のことだが、4人とも美少女だ。顔立ちやスタイル衣装の着こなし全てがマッチしている。
...でも後一人は...?確か雫は5人グループって言っていた筈だ。歌だけ聞いて感想だけで良いか、と感じつつパソコンの横に置いてあったグラスに手を掛ける。そして曲が流れ始めると後ろからもう一人、4人と同じような衣装を身に纏って現れる。
そして、その姿を見た瞬間...
「は............?」
最後に現れた子を見て、驚きのあまりフリーズしてしまった。グラスを掴んでいる感覚すら分からなくなってしまう程に。
何故なら、今画面に映っているセンターの子は、さっきまで公園で僕と会話をした彼女だった。
待てよ.......そ...それじゃ.......
さっきまで僕が話していた相手って、アイドルだったのかよ......
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