アイドルと付き合うことは、可能なんですか?
ふゆつき
人気アイドルとの出会い
プロローグ
僕がまだ、高校に入学して間もない頃だった。
西暦2029年4月、突如としてアイドルの恋愛禁止という決まりは無くなった。
その報道は、日本中を騒がせる一因となった。個人のプライバシーのことを考えたのか、それともアイドルの幸せを願うためなのか、その真相は明かされなかった。
この前触れのない報道について考察する輩もいれば、ただ単純にアイドルと付き合える可能性が現実味を帯びたことに歓喜する輩もいた。
ネットでも大騒ぎになり、アイドル恋愛許可法、略して「恋アイ法」と名付けられた。
でも、僕はそんなことどうでも良い。まずアイドルに興味がないと言うのもあるが、実際に付き合える可能性なんて一ミリも無いだろう。そんな夢や希望を持ったところで叶う筈がない。
それにアイドルのオタク達がそれを許すわけがない。恋愛禁止がなくなったとしても付き合っている事を公表した途端そのアイドルのファンが急激に減り辞めざる終えなくなるかもしれない。
だから僕は、アニメとゲームさえあれば、アイドルどころか普通の恋愛すらどうでも良いと感じていた......
けどあの日、彼女と出会うまでは........
○
「おはっよー!」
「あぁ、おはよ....雫」
「なんか、元気なさそうだけど、もしかして徹夜したの?」
「まぁな...漫画読んでたら、いつの間にか陽が上ってたんだ...」
今日は始業式。
高校2年生という新たな高校生活に幕を開ける日だ。この朝っぱらから元気の良いのが
「それはそうと、春休み終わったって言うのに何でそんな元気なんだ?」
「だってまた皆んなに会えるんだよ!楽しみに決まってるじゃん!」
「そ...そっか」
雫は、保育園の頃からの幼馴染で誰にでも分け隔てなく明るく接するのが特徴だ。そして容姿も完璧。白銀色で整えられた長い髪に、太陽に照らされている時の海色の目、そして何と言っても胸だ。女子高生の中では、発育が進んでいる方だと思う。そしてその性格や容姿からか、学校中で雫の名前を知らない奴は誰もいない。可愛くて優しい雫に対し男子の一部が、「女神」や「天使」というあだ名をつけていると噂で聞いたことがあるる。しかも様付けで。
正直、こんな彼女がいたらどれだけ嬉しいことか。幼馴染と言えど、僕みたいな何も取り柄のない奴なんか好きになるわけないしな....
そんな現実を受け止めつつ歩いていると、雫が「あっ!」っと何かを思い出したかのように大きな声を出した。
「そういえば知ってる?!sacred lightの新曲出るんだって!!」
「何だそれ?せいく...?」
「えっ?知らないのsacred lightだよ。今、とっても人気のアイドルグループ。」
sacred light...一度も聞いたことが無いわけではないが、アイドルグループの呼称だったことは初めて知った。雫は、その後もsacred lightのことを語る。あまりに長すぎる為、簡単に要約すると5人グループで活動していて今一番注目されている高校生アイドルユニットらしい。
「そんなグループがいるのか。」
「そうだよ!特にねー、
ここまで雫がアイドルについて語るとは...
今まで、アイドル好きな素振りなんて一つも見せなかったのに。そんなことを考えている間にも雫は話を続けていた。
「けど、恋花ちゃんも裏では彼氏とか作ってるんだろうなー...」
さっきまでの熱烈に恋花ちゃんについて語っていたのに、さっきまでとは違う落胆した声音に切り替わる。
「そういえば、あのアイドルの恋愛禁止から一年が経つのか。」
「ほんと、一年って早いよねー」
そう。あの
「まぁそんなことより!雅も家に帰ったら調べてみると良いよ。可愛いし歌声も綺麗で最高だから!一度あの歌声を聞けばファンになること間違いなしっ!」
ここまで念を押されると明日には感想聞かれそうだし、帰って見てみるしかなさそうだな。雫には「暇だし帰ったら見てみる。」とだけ返事をした。
その後は、クラス替えや担任教師が誰になるかなど、雑談をしているとあっという間に学校に着いた。
掲示板に張り出されていたクラス分けを確認すると、僕と雫は同じクラスだった。雫が先にそのことに気づいたのか「やったね!」と僕に向けて言った。僕が一年の頃は、雫とは別のクラスで話せる奴なんて誰一人としていなかった。それにも、中学に上がってから人見知りが激しくなり、友達なんて呼べる人は誰も居なかった。でも、今回でようやくぼっちも卒業だ!と心の中で生き込んでいたが現実は甘くなかった...
「雫は春休み何して過ごした?」
「課題とかであんまり時間なかったけど、お花見はしたよ。」
「えっ、マジ?!どこでどこで?!」
考えてなかった...雫の元へ行きたくても、周りに知らない女子が居て話しかけずらい状態になってしまうことを。僕がぼっちだとしても雫には何人もの友達がいる。今からでも誰かに話しかければ、友達の一人や二人出来る。今日初めて会話をした奴らだって必ず居るはずだし、僕も頑張って話かけるしかない...
そう意気込んだ僕は、椅子から立ち上がり近くにいた男子の元へ近づく....
○
結局誰とも話せないまま放課後を迎えた。話しかけようとしても、どんな感じで話しければ良いのかよく分からず、近くにいた男子集団にじりじりと近寄るだけという不審極まりない行動をしただけだった。
「また今年も、一人か...」
下校時は、雫が部活で居ないし一人で帰るのが当たり前になっている。どこか寄り道しようか悩みながら校舎を出ると、朝には降っていなかった雨が降り始めていた。この暗がりな空が僕の心情を表しているようで辛くなる。周りの生徒は、この雨を見ても笑顔でいる奴らが大半だった。誰かと一緒に帰っている奴、下校するのが一人だとしてもクラス内で友達ができた奴ら。これ以上考えるとほんとに鬱になりかねない。これ以上考えないよう家に帰宅した後のことを思い浮かべながら、バックに入っていた折りたたみ傘を取り出し傘をさす。
...
......
.........
帰路についてから数分、さっきまでいた学生が居ない住宅街を歩いている。何も変わり映えのない風景そして、隣には公園......が.......。
公園を視界に入れた瞬間、傘も刺さず立ち尽くしている人影が見えた。
「も....もしかして、幽霊?」
気になり、ゆっくり近づいてみると幽霊ではなかった。「ふぅー」と安堵の息を漏らしつつ人影に近づくと、僕の通っている学校とは違う他校の制服を着た同学年ぐらいの女子いた。雨音であまり聞き取れなかったが、一人言を言っているように見えた。
今は春だとしても雨の中、翌日には風邪を引くかもしれない。さっきみたいに話しかけなかったで済ませたら、人間としてのプライドが終わる気がする。見て見ぬ振りは出来ない、罪悪感に蝕まれるくらいなら話かけて後悔する方がいい。そう感じた僕は、彼女の元へ...
近づいていくにつれ、彼女が何をしているのか分かった。彼女は一人で発声練習をしていたんだ...... 今にも消えて無くなりそうなほど弱々しい発声練習で、僕の心情を表しているように感じた。僕が目の前に居るのに、彼女は俯いたままで僕の存在に気づいていない。
雨で濡れないよう彼女を傘の中に入れる。勿論僕は傘の中に入ってないから、ずぶ濡れだ。
「そんなところ居たら風邪引くぞ...。」
「へ...?」
僕の声に反応した彼女は、顔を上げた。
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