第5話 強制一人称
「さてさて、どんなものが出てくるのかな? こんな大層なイベントを用意してるんだし。期待しちゃうよ?」
【アナタのこれまでを反映しますか? はい・いいえ】
「経験?アカウント情報かな。『はい』」
【情報を取得中。アナタはその場を動かず、待機していてください】
「はいはい、動きませんよ」
【取得結果を開示。アナタ、個体名【ルーリー】。アナタは義侠心を持ち、数多の無辜の民を救いました】
「お、おう。そうなのかなあ?」
VRデバイスに記録された様々なゲームの実績が、断片的な情報としてルーリーの周囲に文字として表示される。
勧善懲悪なRPGをメインにプレイしたというわけでもないのに、選ばれた実績は【○○を救った】などの物が多い。
【その長い苦慮の月日への報いと、民に乞われた願いを形としアナタへ授けます】
「良さげなボーナスでもくれるのかな?」
【RPアーツが確定しました】
『真なる龍を目指す義侠の竜人、我が子ルーリーよ。そなたは500年以上に及ぶ長い歩みを生き抜いた強者である。この地での旅を一時の心の休みとなるよう我は祈る』
システムメッセージからボイス付きの文章に変わった。
年老いた女性のような声色。
「500!? おばあちゃんどころじゃないんですが!?」
『フフフっ。長い時を生きる我らにとって短命どもが決めた数百年などの数字、無いも同じだね。さあお行き、我が子を止めるものなど、この地にはおらんよ』
「あっ会話できるんだ。一方的なお告げかと。失礼しました」
『かまわんよ。暇なババアだ。暇すぎてなんでも面白いくらいさ』
(これ質問しても大丈夫なのかな。名前とか立場役職とか設定的関係性とかめちゃくちゃ聞きたいんだけど)
RPアーツは定まった。ならその通りに過ごすのがベストなのか? ルーリーは悩んだ。
悩んで悩んだ、だが実際は数秒程度の時間しか経っていない。
タイマーなどは無いが無言で悩んでいるのもアウトかもしれないという可能性があったから。
「よしっ! ありがとうございましたっ! これから、この地で、自分にできることをやらせていただきます!」
『ああ。元気でおやり。我が子に祖霊の加護を』
巨大水晶の真下で深々と頭を下げ、ルーリーは退出を選んだ。
彼女が振り返ると入ってきた入り口の扉は閉まっていた。
他の出口はそのまま巨大水晶の下を抜けて行く方向にしかない。
不可逆エリアだったらしい。
そちらの出口へ彼女が歩いていくと、境界線辺りで警告文が表示された。
【この先はマルチプレイエリアになります。覚悟が定まってからお進みください】
「ようやくだ。準備も何もないし行くか! ……っとRP詳しく見た方がいいか? おばあちゃんもう見てないといいけど」
出口横に立ってステータス画面を開く。
確かに空欄だったRPアーツの所に文章が加えられていた。
【任侠竜人】
か弱き人々を助け醜き悪を挫く。それが真なる龍へと至る道と確信している竜人。
己の義侠心に沿った行動を行うとステータス上昇。
【畏怖の竜人】
長い年月を掛け積み上げた実績は他者に畏怖の念を抱かせる。
加齢によって記憶が薄れている。
推奨一人称『わし』
「つまりどういうこと? わし!? というか効果は?」
詳しい情報を見ようと画面をスクロールさせようにもそれ以上の文章は出てこなかった。
達成して得られる効果は載っていない。そもそも何をどうロールプレイしたら良いのかという指定も曖昧。
(記憶喪失気味のちょっとボケた老人で人助けに積極的なキャラを演じろってこと? 面倒だったら「忘れた」と誤魔化せるのは簡単な部類?)
「まあゲームだし。あんまり深く考えずに行きますか」
【この先はマルチプレイエリアになります。覚悟が定まってからお進みください】
ウィンドウを閉じ、歩き始める。一度目に足を止めた警告文も二度目は気にしない。
「OKですよっと」
扉をくぐると、プレイヤーたちの喧騒が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます