第4話 そこがわたしのホームタウン

『おかえりなさい。……ええっと、そうそうルーリー』

「ただいま。エストーレさん」

『貴女ドラゴノイドだったのね?【セントラル】へ歓迎するわ』


 キャラ設定の空間から再び最初の場所へ。

ルーリーの姿は今決めたドラゴノイドのアバターになっている。

その姿を見たエストーレは分かりやすく驚いた表情をみせた。


「セントラル?」

『知らない? 我々が管理している街よ。貴女たちや私たちのように流れ着いた人々が住んでいるの』

「へーあたしが知ってる街は【ドラゴクラウン】くらいだな」

『──ドラゴクラウン……。竜人の街ね。【レプティリアンホーム】から転移できるはずよ』


 エストーレの言葉に反応しヘルプ機能がいくつか立ち上がる。


【ドラゴクラウン】

 ぺんたす6に登場するドラゴノイド達の集落。巨大な死火山の火口に作られている。

火山の内部は深いダンジョンになっており、恐竜化石のアンデッドが襲い掛かってくる。

ダンジョンの最奥にて【祖霊術】が習得可能。


【セントラル】

 ぺんたすオンラインの舞台となる街。

5つの大きな派閥で構成されている。

※この地域への通路は現在封鎖されております。


 人やエルフ、ドワーフなどの互助組織【コミュニティ】。人魚などの海底系亜人が属する【アトランティス】。

聖樹を守る小型の獣人や聖樹の分け身である木人たちの組織【セントガード】。何者かによって作られた人工生物【ドールズ】

ナーガやドラゴノイドなどの爬虫類系亜人たち【レプティリアン】


街は巨大な円形の壁で囲われ、それぞれの派閥の本拠地へは壁の切れ目から伸びる大橋を渡らなければいけない。


【レプティリアンホーム】

 セントラルから大橋を渡った先にあるレプテリアン達の仮の住まい。

幻術によって街全体が常に夜の状態を保っている。

代表者たちによる会議によって運営されている。


 ヘルプを眺め。ルーリーはうんうんと数度うなずく。言葉だけの設定を深く覚えておく必要はない。頭の隅に情報の欠片が残っていればプレイに支障はないはずだ。

初見はまず自分の体でぶつかって確かめる。

それが彼女のプレイスタイルだった。


「エストーレさん、セントラルにはもう行けるの?」

『ええ、そこにある魔方陣に入って。光がついているところよ』


 エストーレが指をパチンと鳴らす。

すると二人を囲むようにいくつかの小さな円状の文様が床に出現した。

それぞれ色と形の違う5つの円。その内の一つだけが淡い光を放っている。


「5つ? 種族ごとに送られる所が違うってことですか?」

『そういうこと。人形どもの巣に送り込まれたら嫌でしょ?』

「……確かに。怖いかも」


 ルーリーの脳内にモニター越しに見ていたプレデターの姿が思い浮かぶ。

素の状態では四つ足になった人のマネキン。

他種族を捕食するごとにその能力を得ていき、見た目も変容していく。

人に近い体で無表情に獲物を狩る姿は嫌悪感を掻き立てる。


 そんな存在をフルダイブVRで直視したら。それも大量に。

ルーリーは自分の想像に身震いした。


『入ったわね。それじゃあ送るわよ。良い旅を』


 そそくさと魔方陣に乗るルーリーを見てエストーレは微笑み、呪文を唱え始めた。

彼女の言葉が一つ紡がれる度、魔方陣の光が強くなる。


「ありがとうエストーレさん!」


 礼をいうルーリーに手を振るエストーレ。その姿が暗闇に溶けていった。

瞬きを数回繰り返す程度の時間の後、ルーリーの周囲に変化が起る。


 無機質な床は凹凸のある石のタイルに。湿り気のある風が皮膚を撫で。雨が降った後の森のような香り。

カツンッ。硬い物同士を打ち付けたような音。その出どころが自分の足元だとルーリーが気づいたとき、エストーレではない誰かに声をかけられた。


『おうおうおう。また新しいのが来やがったな!』

「え? おぉー大きい!」

『ハッハッハ! オレがデカいんじゃあねえ! おめえさんがちいせえんだ。着いてきな』


 ルーリーに声をかけてきたのは大柄のワニの獣人だった。二足歩行で歩き、鎧を着こんでいるが顔はワニ。

リザードマンの派生種族の一つ。見た目通りに物理接近戦に特化している。


 ゴツゴツした太い尻尾を上機嫌に振りながら歩くその背中をルーリーは慌てて追う。

魔方陣で転送された場所は、小高い丘に作られた石製の祭壇だった。

街を一望できる高さだが、周囲に他のプレイヤーは見えない。

遠くに動いているキャラクター達は動きの規則性からNPCだろう。


 ワニの兵士に連れられてたどり着いたのは、巨大な水晶が浮かぶ神殿。


『おめえさんはこいつが何か知ってるか?』

「この玉の事ですか? いえ……あっもしかしてRP」

『──そうだ。こいつが、人の中身をぜーんぶさらけ出してくれる。中身もわかんねえ奴を街に連れてったらオレが上から怒られちまうからな』

「なるほど。何をするのか知りませんが簡単に信用を得られるなら良いですね」


『話が早くて助かるぜ。やることは簡単だ! あの玉っころの下に立つ。するとな? 全部教えてくれるんだよ。中身はオレには分からねえが上の連中にはその情報が行くからそれだけは覚えておきな』


「OKです。もう始めても?」


『好きにしな。オレはおめえさんが始めたらさっきのとこに戻る。終わったら街に降りていいぜ』


 兵士に見守られ水晶の下に行くルーリー。

コツコツと足音を立てながら真下までたどり着くとシステムウィンドウが開いた。


【RPアーツを開放します。このアーツは破棄及び変更不可能です】


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