66 スイートピー

あの人の植えたトマトがまず枯れる


肉積んで肉積んでまた肉積んで


肉腐る肉腐るまた肉腐る


薔薇の棘欲しき怒りに充ちる時


人絶へてまず萌えいずる草はどれ


サイダーの瓶の静寂しじまや滅亡後


誰からも好かれて哀し額の花


百日紅こんな愛なら棄てゝやる


東京といふ寂寥や夏暮れる


人前で泣いた日のこと桜桃忌


紫陽花や鉄路の際は楽しいか


夏空にすこし飛行機雲にじむ


五月雨や鬱にも雌雄しゆうあって草


向日葵やゴッホの顎髭威勢よし


(車窓より草だらけの空地の中央に墓石一基佇むを見る)

夏草に呑まれんとして墓ひとつ


夏草に乾ききったる墓石あり


夏草の風に揺らがぬ墓石かな


たましひは墓より出でて夏の草



人類は仮の主よ草萌える


スイトピー実らぬ恋は散らぬまゝ


ひとつずつやさしくなりてスイトピー


贈られてスイートピーとふたりかな

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